表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第17章  アルタクティス 〈 ⅩⅣ〉
565/587

解散



 みずみずしい緑の森の中を、まっしぐらに愛馬をかっ飛ばしてやってきたギルは、穏やかな紺碧こんぺきの海を前にして倒れているエミリオをすぐに見つけることができた。かたわらにいるフレイザーがしきりに鼻先を肩にこすりつけているが、前のめりに突っ伏しているその体はぴくりとも動かない。


 ギルはたちまち気が気ではなくなり、「まさか・・・エミリオ!」と叫ぶや、あわててリアフォースから飛び下りた。そして、すぐさま地面に倒れているエミリオに駆け寄り、ぐったりしているその体を夢中で抱き起こし、「エミ・・・」と、声を詰まらせて目を瞬いた。


 エミリオを仰向あおむけにして首筋に手を当てた時の確信に、ホッとできたからだ。


「息がある・・・。」


 エミリオは青白い顔をして憔悴しょうすいしきっていたが、生きていた。何をしていたのか、右の胸をはだけて半分は上着を脱いだ状態でいるので、念のために体を調べてみれば、見てわかるのは戦いで負ったと思われるかすり傷程度。右といえば腕に神々の刻印があったはずだが、肩口からズラリと並んでいたそれらも全て綺麗に無くなっている。

 

 急速に胸の不安が解きほぐされていくその間、ギルは、意識のないエミリオの顔をただじっと眺めていた。


「バカだな・・・。」と、ギルはつぶやいた。


〝少なくとも、それまでは・・・私にも存在価値があるのだな。〟


 以前、うつろな眼差しでそう口にしたこの親友のことを、思い出したのである。


「お前は・・・救世主なんだぞ。」


 しかも、汚れてもう動けないほどボロボロだろうに・・・ギルは思わず、ふっと笑った。こんな姿でも、なお高潔感があふれていて美しい・・・敵わないなと。


 ギルは、リアフォースを伏せさせて、気絶しているエミリオの体でも上手く背に乗せることができると、続いてあぶみに足をかけた。


 ふとそこで、ギルはあるものを目に留めた。足を下ろして、それらに近づいていく。そして、一見、そこにあるただの石ころなどを全て拾い集めてから、エミリオの後ろにまたがった。


 ギルは、フレイザ-を見た。エミリオのそばで心配そうに首を垂れていたが、ギルが軽くうながすだけで、フレイザーは全てを分かったように一緒に歩きだした。


 




 バルデロス軍の隊員を始めに、妖魔となり果てていた兵士たちは、もはや敵も味方も関係ない救命活動の中で手当てを受けることだけはできたが、テオにさんざん説教を聞かされたあとで、さっさと国へ追い返されていた。


 アルバドル帝国とエルファラム帝国の連合軍は、二日かけて戦後の様々な後処理を済ませたのち帰還したが、ダニルスは、テオの「心配ない。」という言葉を信じながらも、エミリオ皇子の意識がまだ戻らないのを、いつまでも気にしていたようだった。


 ジェラールも同様、彼のことを心配していたが、国の方も深刻な状態にあるため、すぐに戻らなければならなかった。


 リューイが連れてきた野獣軍団は、リューイの言いつけを聞いてすぐに、来た時と同様なるべく人目につかない深い森の方から、南の果てにあるアースリーヴェのジャングルへとおとなしく帰って行った。


 アイアス及びほかの傭兵たちは、一日体を休めたあとはそれぞれ方々へ散って行ったが、アスベルはビザルワーレ王国へ向かうと言って、レッドと笑顔で別れていた。


 そして、レッドの謎めいた行動の訳をようやく知ることができたスエヴィも、「早く小公女様を返してやれ。」とだけ言い残して、トルクメイ公国へ帰郷した。


 その時、はっきりとうなずいてみせたレッドは、こう答えていた。


 すぐに連れて帰る、と。


 モルドドゥーロ大公国の部隊は、ダルアバス王国と協力して修復したこの城塞都市ヴェルロードスについて、改めて点検と清掃を行ったあと、アランが連れてきた役人の一団と交代で戻ることになった。


 この歴史に残る大戦争が起こった日。自然界における数々の異常現象から、戦闘が始まったことは現地から離れた大公城にいても知ることができた。そこでアランは、ただちに動いて様々な物資を用意させ、終わったと確信するや、可能な限り早々に船で駆けつけていた。


 そして、ダルアバス王国の防衛軍。その兵士たちは、数名の近衛兵だけを残したディオマルク王子の「先に帰れ。」という言葉に、戸惑いながらも従った将軍の命令によって引き上げた。


 ただこの時、ディオマルクは側近に、船で戻る兵士 ―― アルバドルとエルファラム及び自国の自力では歩行困難な重傷の兵士 ―― と一緒にただちに帰国し、あるものを用意して早急に戻ってくるようにと命令していた。それも、間に合わせるために、また船を使えと許可してまで。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ