激闘の中の救助隊
レッドは相手の喉に剣を突き刺し、一撃で殺害した。次いで、背後の攻撃をそちらも見ずに屈んで避けると、もう一方の剣を、振り向き様その敵の胸に斬りこんだ。ほかを気使っている余裕などなかったが、レッドはそのあとでふと、傷ついて敵の猛攻に屈しかけている若い傭兵の姿をとらえた。
体が反応するままに、今度は腕に装備しているナイフを刹那にそこへ投げつける。とっさのことであるにもかかわらず、それは確実に敵を射止めてその傭兵を救った。
それらを一瞬にしてやりこなす技能。アイアスの誰もが、レッドと同じく、直感と研ぎ澄まされた反射神経を生かした戦いぶりをみせている。彼らが選び抜かれる理由は、戦闘におけるそういった感覚や動きがもはや神がかっていることだ。
急いで駆けつけたレッドは、ワッとばかりに押し寄せてきた敵を瞬く間に片付けた。
その若い傭兵は、足にひどい傷を負っていた。それでも腕だけはまだ充分に動かすことができるため、片膝をつきながらも立派に応戦し続けていたのである。
しかし、ひっきりなしに躍りかかってくる獣のような敵の兵士に、レッドもそれ以上は力を貸してやることができない。とはいえ、このままみすみす死なせるわけにも・・・とその時、レッドはいきなり肩を飛び上がらせた。
そこへいきなり、黄色い毛皮の猛獣が颯爽と現れたからだ。その虎は、怪我人を運ぶためにやってきてくれたらしい。
敵は絶命するまで平然と動き続ける化け物。レッドは群がるそれらを次々と仕留めながら、「そいつがお前の足になってくれる。城塞へ戻って手当てを受けろ。お前はもう無理だ。」と、もはや迷うことなくその傭兵に命じた。
レッドが言わんとしていることは即座に理解できたが、つまり虎の背中に乗せてもらうなどさすがに躊躇い、その傭兵は立ち上がろうとすらしない。
「大丈夫、そいつはただの野獣じゃない。よく見てみろ。こいつらに比べれば、よほど俺たちに近い。」
そう言う間にも、レッドはまた死角にいる敵の腹を突き刺していた。手は休みなく二本の剣を同時に振るい続けている。むやみやたらに掴みかかってくる敵の攻撃は、なおも執拗に続いているのである。
やがて思いきることができると、その傭兵はうなずいて立ち上がろうとした。だができなかった。もはや両足ともひどく萎え、力が入りきらないようだ。
くそ・・・と胸中で呟いたレッドは、困り果てた。
だがそれも束の間、鮮やかな早業を決めながら駆け寄ってくるのは、味方の姿。しかも、その男はスエヴィである。
こいつは強運の持ち主だな・・・と、レッドは重傷を負ったその傭兵を振り返った。
間もなくたどり着いたスエヴィは、「レッド、援護する。早く!」と言って、サッと手助けに入った。
スエヴィが、次々とたかる敵を蹴散らしてくれる間に、その傭兵は、レッドに肩を借りて虎の背中にまたがった。
虎と、レッドの目が合った。
「頼むぞ。」
虎は、それに応えるかのように首をくねっと動かしたかと思うと、行く手を阻む敵の兵士に牙を剥き出して威嚇。さすがに本物の、これぞ野獣という獰猛そうな姿や鋭い頑丈な牙には迫力負けしたようで、虎は相手が怯んだと見えた隙に素早くその場から抜け出し、城塞へと駆け戻って行った。時には、それらに勝る凶暴さを見せつけながら、正確に敵だけを踏み倒している。
「おいレッド、こいつら皆、重傷負わせても全然平気だぞ。これじゃあ、きりがねえ。」
「本当の戦いはここじゃない。もうすぐきっと何かが起こる。その時が、この戦争の終わる時だ。俺たちはそれまでふんばるしかない。」
背中合わせに絶え間ない連携攻撃の最中でも早口で言葉を交わしていた二人だが、ある時、思わずハッと息をとめて肩越しに振り向き、目を見合った。
すぐ足元を走り抜けた突然の亀裂・・・!
「なっ・・・!? 」
驚いて視線を延ばすと、無数の罅が方々へと網目をめぐらしていく。まるで干上がった湖の底と化した地面の割れ目には、赤く燃える火のようなものが見えた。