強力な助っ人
レッドはリューイを促して、カイルとミーアのすぐそばまで下がった。
「警告しておく。俺たちはつい最近、二人で一度に五十人ばかりを本気で相手にしてきたところだ。それでもやるか?」
抜かりなく敵に切っ先を向けたまま、青紫の目の男が落ち着き払った声で言った。
「我々が今ここにいる、その意味が分かるだろう。」と、美貌の男がそれに続けた。
その言葉を信じたのか、襲撃者たちはしばらく躊躇していた・・・が、やがて小さくうなずき合うと、一斉に剣を振りかざしたのである。
青紫の目の男は舌打ちし、剣を構えた。
「思い知らなきゃ分からないか。」
カイルとミーアをリューイに任せて、レッドは後ろで待機していた。
ところが —— 。
カキーン、カキーンッ!
白刃をぶつけ合う甲高い音が響いたかと思うと、息つく間もない攻撃をものともしない二人の姿が目に飛び込んできて、レッドは硬直した。
いくつもの白刃を巧みにかいくぐり、だが避けるばかりでなく確実に反撃をしかけている。計算された刃の動きで一寸の狂いもなく斬りつけ、思いのままに次々と軽傷を負わせていくのである。華麗なまでの身ごなしと、その剣捌きには非の打ちどころが無い。
レッドもリューイも息を呑んだ。
身震いするほどに美しく、だが恐ろしいまでの殺傷能力を持つ剣の舞。
敵の何人もが恐れをなして、よろよろと剣を引いた。絶叫こそ上げず、ただ掠り傷の痛みに顔をしかめている襲撃者たちだったが、この展開にはさすがに戦闘意欲も失せ、 目的を果たす ―― 依頼にこたえる ―― やる気も無くしたようだった。
青紫の目の男は、ただ厳しい顔で、少し血のついた剣を相手の方へ真っ直ぐに向けた。今度は、無言の警告だ。
この二人には武神オリファトロスがついている・・・男たちはまた目を見合い、苦い表情を浮かべている。
やがて一人がそうしたのをきっかけに、次々と後ずさりしながら背を返しだした。
そうして、謎の男たちはようやく引き下がっていった。
レッドは、狙われた理由について尋問しようかとも考えたが、やめた。あの男たちは大した情報を持ってはいないだろうし、もっと身近にいる者から詳しい話を聞けるだろう。
そんな中、カイルは先ほどから、何かに取り憑かれたように一人呆然としている。戦いを見ないようにカイルの胸にしがみついていたミーアは、今はレッドの腕の中にいた。
レッドは、青紫の目の男の方へ歩いて行った。
「助かったよ、ありがとう。」
「なに、礼には及ばないさ。」
汗一つ滲ませてはいない爽やかな笑顔で、彼は答えた。
「ギルって・・・言ってたよな。」
「ああ。えっと・・・名前聞いてたっけ。」
ギルは彼のことをフルネームでしっかりと記憶していたが、よく覚えていないふりを演じた。
「レッドだ。」
「ああ、そうそう。すまない。」
「いや。で、こっちの相棒はリューイ。」
リューイが進み出てきて、手を差し出した。
「あんたら、すごく強いんだな。驚いたよ。」
今度は、ギルは謙遜したような微笑で応えた。
「で・・・なんで、そんな恰好・・・。」
レッドがきいた。助っ人たちの身軽すぎる姿のことを。
「ああ、獲った魚を裸で食べてたら、剣戟が聞こえてきたんで、急いで来たからこうなった。誰かが盗賊にでも襲われてるかと思ったんでな。」
ギルが答えた。
「ああ・・・そう。悪かった・・・。」
食事中、なんか急がせて・・・。
レッドはそれから、つい訝し気にギルのことを見つめた。彼は確か、戦場に立った経験はないと言っていたが、護身で剣を学んだ程度の強さじゃないと思った。二人で一度に五十人ほど相手にしたというのは、本当だろうか。実のところは何者なんだ・・・というように、レッドはその二人の容貌をよくよく見ようとした。大陸の東で、二大大国として有名な帝国の英雄。その皇子たちに酷似だという顔を。
だがそこで、背後から聞こえたカイルの声に、レッドは気をとられて振り向いた。
カイルはなぜか恍惚とした様子で、夢の中にでもいるような顔をしている。
「おじいさんの言った通りだ・・・僕にも見える。」
カイルのその言葉は、もう一人の助っ人・・・エミリオに向けられている。
どうも様子がおかしいその少年に一歩一歩と近付いて来られると、エミリオは戸惑いながらギルに目を向けた。
ギルは首をひねってみせた。
「幽霊か何かと思われてるみたいだぞ。」
やがて、少年が真正面に立った。少年は何か感極まったような表情をしていて、エミリオは言葉が出てこないままに、その目を見つめ返した。
すると突然、少年が声を大にして言ったのである。
「さがしてました! 僕は、あなたたちに会うために旅をしているんです! アルタクティスたちに!」と。
エミリオもギルも、唖然・・・とした。