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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第16章 大陸の終焉 〈 ⅩⅢ 〉
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突撃


 あえてここは割り切り英雄に戻ったギルは、整然と並んで待っている兵士の列を回って、リアフォースを先頭にある軍旗のそばまで堂々と走らせて行った。


 やはりアルバドル帝国軍の兵士たちもまた、何を迷うことなく完璧な敬礼を彼に送った。いつでもただの気さくな美青年に切り替われる器用な二重人格者のギルであったが、今この時はまさしく、国では真の勇者と讃えられたギルベルト皇太子そのものの姿で、そこにいた。


「今までと同じように考えるな。敵は、想像を絶する姿でやってくる。見るもおぞましい姿でだ。だがひるむな。今ここで恐怖を捨て去れ。戦闘能力は我らの方が上だ。恐れなければ必ず勝てる。」


 皇子のその頼もしい態度と声、そしてその青紫色の目に宿った戦いに挑む鋭い光が、兵士たちの闘志を十二分に奮い立たせる。


 しかし、思わずたじろぐような身の毛のよだつ光景は、もう投石機の射程間近にまで迫り来ている。


 真正面からそれらを迎え撃とうとしているのは、ランバーグ中将とオーランド将軍が指揮する大軍である。


 休み無しの作業の末に、完全な形で大地に据え付けたいくつもの巨大な投石機。その射程範囲に敵がぞくぞくと踏み込んでくると、二人の指揮官はタイミングを見誤らずに命令を下した。


「投石機、撃て!」


 蓄えていた力がいっきに放出された投石機から凶器の岩屑いわくずが一度に飛ばされ、そこへ弓兵が追い打ちをかけようと一斉に矢を浴びせかける。


 その攻撃は見事に敵の上から落ちかかり、敵の塊の中へ突進していった。数多くの敵が攻撃を食らい、その場に倒れ込むだろう。そして勢いが衰えるはず・・・だったが、全くそうは見えない。ダニルスもアラミスも信じられないという顔をし、投石機の担当兵や弓兵たちも、戸惑いを露に顔を見合わせた。


 城壁の上では、ジェラールがやはりという渋面を浮かべてそれを見ていた。


 だから我らは負けたのだ・・・と。


 このガザンベルク帝国の大将であるジェラールが、防衛部隊の実質的な指揮官である。


 投石機による武器を出し尽くした時には、敵の軍勢は砲撃の射程にも届いている。


 投石機の担当兵や弓兵が速やかに下がり、ランバーグ中将とオーランド将軍からのその合図を確認したジェラールは、大砲を扱う兵士たちに手を向けて叫んだ。


「砲撃、用意!」


 その合図が各塔に一斉に送られ、砲弾を詰め込んだそれぞれの大砲の角度が、なおも動き続けている敵の塊を狙い通りに直撃するよう微調整される。


「撃て!」


 城塞じょうさいの前で待機している連合軍の各部隊は、頭上で砲弾が次々と発射され、空高く飛んで行くさまを見守っていた。


 しかし、それらのどれもまた的確に敵の中へと落ちはしたものの、残念ながら、破壊的な威力を持つその最強兵器までもが、敵の足並みを狂わせ、勢いを衰えさせるには全く不十分だった。ただ気休めにもならないほどの数を減らしただけだ。


 だが不備があったわけでも、その威力に問題があったというわけでもない。整備は万全で、砲撃自体は成功だった。


 なのに敵の方が、多少体の一部を失おうとも平然と立ち上がり、また、這いつくばってでも前進を続けるのである。絶命しない限り、執拗に襲いかかれる邪悪な生命力を得ているために。


「ダメだ、減らない・・・。」と、城壁の上でカイルは落胆のため息を漏らした。


「これでは・・・無理か。」


 そうなげいたディオマルクに、ジェラールが辛そうにうなずいた。


「今、死角の部隊を動かしても餌食にされるだけだ。混乱すら起きていない。砲撃終了の合図だけを・・・。」


 間もなく大合戦に挑まんとしているそれぞれの部隊の指揮官は、砲撃が止んだ合図だけを確認すると、悔しそうに顔をしかめて、なおも足を踏み鳴らして迫り来る圧倒的な敵の軍勢をねめつけた。


「敵の姿に臆するな!常に先手を取れ!」

 エミリオは、勢いよくフレイザーを敵に向けた。

「突撃!」


 その命令を、ギルやアラミス、そしてダニルスもほぼ同時に叫んでいる。


 長く尾を引く凄まじいときの声、そして勇ましい武装の音が、たちまちこの決戦場を呑み込んだ。








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