最強の連合軍
エミリオとギル、そしてディオマルクは、支配下の諸都市からも戦力を集め、ついに準備万端整えてやってきた総勢約十万という連合軍を迎えた。それぞれの軍をまとめ率いて来たのは、エルファラム帝国軍のランバーグ〈ダニルス・ランバーグ〉中将と、アルバドル帝国軍のオーランド〈アラミス・オーランド〉将軍である。ダニルスは白馬に、そしてアラミスは黒馬に乗っていた。
二人は共に馬から下りると、三人の皇(王)子の前でかしこまり、敬礼をした。
「ただ今参りました、殿下。」と、未だ躊躇いもなくそう挨拶をするダニルスと、そしてアラミス。
それを受けて、ギルはやれやれと首を振りたいのをこらえて言った。
「アラミス・・・やりにくいだろうからあえて否定はしないが、次にどこかで会うことがあっても、その呼び方は今回限りにしてくれ。」
「では・・・その時何とお呼びすれば?」
「やあギル、久しぶりだなとでも声を掛けてくれたらいい。」
「は?」
「分かった、もう俺のことは見ても知らぬふりをしてくれ。」
「はあ・・・。」
彼らがそう話しているあいだも、二頭の馬は落ちつかなげに首を振りたてていた。早く本来の主人のもとへ行きたくて、うずうずしている様子。
ダニルスとアラミスは、その二頭をかつての持ち主の前へと歩かせた。
「エミリオ様、ランセル皇子から伝言です。フレイザーを、もう手放さないでくださいと。」
ダニルスが言った。
「殿下、リアフォースを、この先もどうかおそばに置いてやってくださいませ。」と、アラミスも続けた。
すると二頭の馬は、それぞれの主人にしきりに顔を擦り寄せ始めた。まるで、生き別れた家族との感動の再会を迎えるように。
「フレイザー・・・。」
「リアフォース・・・。」
エミリオとギル、二人の面上にもしごく優しいほほ笑みが浮かんでいる。
自然と手を差し伸べた二人は、もう躊躇なく愛馬の首を愛しげに撫でてやることで、それに応えた。
鉄の大門や石の城壁を補強する音、道具や材料を運ぶ荷馬車の音、モルドドゥーロ大公国とダルアバス王国から連れてきた職人たちが、鍛冶工房で剣を鍛える音。城塞では、様々な作業がたてる音が毎夜一晩中響いている。そして朝になれば、また交代の兵士たちが城壁の外に出て、今度は武器を遠くまで飛ばすことができる巨大な投石機を組み立てたり、それを草がまばらに生えている大地に据え付ける重労働に勤しみ出す。
シャナイアにとっくに寝かしつけられたはずのミーアは、幼子にとってはもう夜も遅いと言える時間にもかかわらず、こんなにつまらないことはないと言わんばかりの顔で、一人階段に座り込んでいた。外から聞こえるそれら戦いの準備の物音が止まないので、ちょっとやそっとの騒音では起こされないさすがのミーアも、ぱっちりと目が覚めてしまったのである。
二大大国の連合軍が到着してからというもの、戦略を考えることができる者、指揮官となる者はみな、順番に休みをとりながら徹宵の会議を続けている。薬や食事を作れる者や、世話や手伝いができる者たちも忙しく働いていた。
今は、まるで同年代の友人のように遊んでくれるリューイも、面白い遊具の代わりになってくれるキースも、兄か父のように相手をしてくれるレッドもいない。日中は比較的手が空くことが多いイヴやメイリンが構ってくれても、ミーアには物足りなかった。
そこへ、桶を持ったセシリアが通りかかった。何となく、おろおろそわそわとしている。不慣れで、炊事洗濯もまともにできないその王女様もまた、たいして何の役にも立てないからである。
寂しそうにしているミーアに気付いたセシリアは、優しく声をかけた。あまり接する機会が無かったミーアも、嬉しそうにうなずいて立ち上がった。
手をつないで城館から外へ出た二人は、シャナイアに頼まれた水を井戸まで汲みに行くついでに、かがり火で照らしだされているこの城塞都市の散策を始めた。