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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第16章 大陸の終焉 〈 ⅩⅢ 〉
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どこかで・・・


 エミリオとギル、そしてディオマルク王子が帝都アルバドルへ旅立っていたその間に、レッドとシャナイアは、ダルアバス王国の王レイノルダスと、すっかりよい関係になっていた。レッドがアイアスであると知って、レイノルダスがたちまち好感と興味をもったこと、シャナイアが愛想のいい美女であること、そして何よりも、その二人の人柄ひとがらが気に入られたおかげだ。


 ヴルノーラ地方から一度戻ってきたエミリオとギル、そしてディオマルクは、モルドドゥーロ大公国で話がついたことを知るとすぐに動いて、そこへ向かった。


 そこでは、この三人が戻る前から、早速、城塞じょうさいの修復工事が計画通りに開始されていた。


 そのためディオマルクは、残ったレッドとシャナイアの世話役にそれぞれ召使いを二人ずつつけ、用事があれば何でもその召使いに言いつけるようにと配慮していた。


 だがレッドは、その召使いたちが必要以上の手厚いもてなし 一一 風呂に入るよう勧められれば、当たり前のように背中を流しに入ってくるなど 一一 をしてくれることに、正直ありがた迷惑を感じてしまうことも・・・。


 どれほどの人数になるか皆目見当もつかなかったが、次々とやってくる傭兵を集める場所として提供されたのは、収容人数五万人を可能とした競技場である。さすがは富裕国ダルアバス王国。協力してくれる召使いが、集まった傭兵たちに軽食を配ったり、水飲み場への案内などをして、快適に混乱なく過ごせるよう上手く場の状態を保ってくれていた。


 傭兵は、今では毎日続々と詰めかけてくる。


 ディオマルクが手配させた貼り紙には、やはり魔の軍勢についての詳しい情報などは載せることができず、意味深で曖昧な表現による説明と、レッドの肩書きや本名を記載しただけだったが、驚いたことには、事態を察した五人のアイアスが、すぐに反応して駆けつけてくれた。


 今エドリースに集中していることが予想されるアイアスではあったが、一時的にでも中央・東側の国々、また、試験官を務めるためロナバルス王国へ戻っていた彼らが、その貼り紙を実際に目にしたり、噂を聞きつけてやってきてくれたのである。いずれもレッドよりもかなり年上で、その中に、レッドと同じく二刀流の者は二人いた。


 彼らアイアスは同胞を見つけると互いに驚き合い、特にレッドに対しては並々ならぬ喜びようで接してきた。レッドが、生粋きっすいのアイアスだからだ。年若いというだけでもレッドに混じり気のないことは考えられるが、彼らのほとんどが組織内でその噂を耳にしていたのである。


 なにしろレッドは、当時、現役のアイアスとしてはベテランのテリーに14歳の時から3年間みっちりとマンツーマンで剣術を教え込まれたので、どこの養成所の訓練も受けたことはない。しかも恐ろしいまでの呑み込みの速さと、抜群の運動神経、かつ驚異的な体力や筋力をもって、瞬く間に屈強の戦士へと成長していった。さらに、盗賊の頭のライデルやその仲間に数年間育てられたおかげで、山や森や砂漠などの自然に関する知識も豊富にあった。そしてズバ抜けた戦闘能力と共に、重要で必要なアイアスの要素・・・勇気や忠誠心、中でも正義感。これら数々の人間性についても申し分なく、勇気と正義感だけなら、レッドは10歳にも満たない少年の頃から、すでにもうその合格基準を上回っていた。


 戦うセンスや能力を見込まれて一次試験に合格した者は、先輩アイアスと共に、およそ半年間戦地を渡り歩くという二次試験に臨むことになる。そして必要な人間性をも認められれば、初めてその額にアイアスの象徴を刻み、はれてその名を語ることができた。


 一から戦士を育成・養成するほかの訓練所では、団体で行動する訓練期間というものを設けている。そのため、それらほかの訓練所とは違ってアイアスは孤独であり、一種独特であるため、普通は、アイアスとなった者が同行してくれた先輩以外の同胞と顔を合わせるなど、非常になれなことだった。


 ここではレッドもあえて額を曝け出していたので、その彼らが一堂にそろったさまには、思わず尻込みするほど圧倒されるものがある。 


 そしてある日の朝、もう一人アイアスがやってきた。彼もまたレッドよりも年上であったが、その中では比較的若くて、レッドの後輩だった。


「君が噂の史上最年少合格者か。光栄だな。おっとすまない、先輩に対して、俺はなんて無礼な奴だ。」


 男は頭のバンダナを外して、鷲の刺青いれずみを見せた。彼は、アイアスの試験官から、レッドの話をチラと聞いていたようである。


 レッドは笑顔で首を振り、手を差し伸べた。

「なら本名知ってるかもしれないが、レッドって呼んでくれ。よろしく。」


「よろしく、レッド。俺はアスベル。ビザルワーレ王国出身だ。」


 彼を見た時からどこかで会ったような顔だと何となく感じていたレッドは、これを聞いてピンときた。


「・・・もしかして、妹なんていたりするかい。」

「ああ。え・・・なぜ。」

「名前は・・・アベンヌ?」

「驚いたな、会ったのか。」


 レッドはこの時、その国ビザルワーレ王国とステラティス王国での一騒動を思い出していた。ビザルワーレ王国の王バルザールが、カイルと酷似のライカ王子とビアンカ王女を誘拐するという茶番を企てた、あの事件。ビザルワーレの王女アリエルが、父のやり方が許せず味方になってくれたという一件である。


 アベンヌは、そのアリエル王女の一番の侍女であり、その件では感心するほどテキパキと協力してくれた娘だった。


 レッドはうなずいて、答えた。

「ああ。いろいろ世話になった。話は聞いている。」


 アスベルは苦笑した。

「・・・ろくな話じゃないだろ?あいつ・・・文句ばかり言ってたはずだ。」

「確かにな。」

「元気・・・だったかな、あいつ。」

「ああ。王宮で、姫君の侍女をしていた。それも、アリエル王女に最も近い存在で。」

「そうか・・・あいつ。ただの召使いだったのに。そうか侍女に・・・。」


 レッドの見ている前で、アスベルは嬉しさとホッとしたような表情を浮かべている。


 そんな彼に、レッドは一つ話すべきだと思いながらも、躊躇していることがあった。が、ようやくアベンヌから聞いたそのことを伝える決心をすると、苦い口調で告げた。

「ただ・・・母親は亡くなったと。」


 すると思いのほか、アスベルは悲しそうに少しうつむきはしたが、冷静だった。


「覚悟はしていた・・・。体が弱かったから。」と、アスベルは静かに答えた。


「野暮なことは言いたくないが・・・会いに行ってやるべきだと思う。」


「・・・引き止められる。以前、アイアスになって稼いだ大金を持って一度帰った時に、泣きつかれた。行かないでくれと。分かるだろ。」


「ああ・・・でも・・・。」


「喧嘩はしたくない。きっともう・・・俺の顔なんて見たくもないだろう。あいつが上手くやっているなら・・・それでいい。」


 レッドは黙ったが、うつむき加減のままそう言ったアスベルに、何かかけてやれる言葉を探した。


「俺にあんたの話をしてくれた時、彼女・・・最後にこう言ったんだ。あなたも待っている人がいるならと。だからきっと・・・会いたいと思う。」


 アスベルはパッと顔を上げた。

「アベンヌが・・・。」


 驚いたように見つめ返してくるアスベルに、レッドは微笑してうなずいた。








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