僕達が・・・
「え・・・。」
一瞬耳を疑ったアランは、顔を上げて短く聞き返していた。
「それに、傭兵部隊を結成するために、今、大陸中の戦士を募っています。あと、ダルアバス王国が、それらを食い止めるための城塞を修復してくれる予定です。アラン様が以前、その海岸近くにあると言っていた城塞都市を。」
カイルはさらに、野獣軍団も準備中・・・と、胸中で付け足した。
「なんだって・・・。」
アランには、魔の勢力がやってくるというそのことよりも信じられない話だった。アルバドル帝国とは友好貿易を行っている仲ではあるが、それだけの関係であり、アルバドル、エルファラムと言えば、大陸全土でみても屈指の強国。ちっぽけなモルドドゥーロ大公国にとっては、雲の上のような存在なのである。いくら大陸の存亡に関わる問題であるとは言え、それら二大大国が、少年の言うその話を受け入れて力を貸してくれるとも思えなければ、ダルアバス王国が、わざわざ何の得にもならない他国の廃れた城塞の修復工事に携わるなど、考えられないことだった。アランには、非常に恐れ多く突拍子もない話である。
カイルはやや間をおいて、ひどく困惑している様子のアランが少し落ち着くのを待った。
「アラン様、僕は仲間たちがある目的を成し遂げるために行動していると言いました。その目的とは、この国を救い、大陸を救うことなんです。今言ったことの全てを、僕の仲間が手分けして、今、懸命に準備を整えているんです。」
「だが、君の言う通りあの伝説が繰り返されるなら、そもそもアルタクティスなんてどこに・・・。」
そこで不意に気づいたアランは、目の前にいる少年の目をまじまじとのぞき込む。
「・・・まさか。」
カイルは、アランの目を見つめ返して、うなずいた。
「僕たちが・・・アルタクティスです。」
アランはいよいよ言葉もなく、いっそう目を大きくしてカイルを見つめた。漆黒の髪に、神秘的な深い緑色の瞳をもつ精霊使いの、その美少年を。彼は確かに、モルドドゥーロ大公国にとっては救世主だ。そして、エミリオ、ギル、レッド、リューイ・・・彼らもまた、病に苦しむこの国の貧しい人々を救うためだけに、危険を顧みず戦ってくれた。そうして、モルドドゥーロ大公国は起死回生を遂げることができたのである。
「大陸が滅びるという漠然とした予言は、以前から出ていたんです。だからあの時、僕たちは仲間を求めて旅をする中で、ここに来たんです。過去にこの国を救ったと言われるアルタクティスの中にもいたんじゃないかと思うけど、僕は当時の、闇の神ラグナザウロンの使いだったディオネス・グラントの生まれ変わりです。そして、あの大地の神グランディガの使いだったアルザスの生まれ変わりは、レッドです。彼は、実はアイアスなんです。だから彼が中心になって、今、大陸中の傭兵を募っているというわけなんです。」
「では、それが本当だとしたら・・・その最も邪悪なものというのが最終的に大陸を滅ぼす脅威となり、君たちはそれを阻止できる力を持っているということかい。あの・・・アルタクティスと同じ。」
「でももう、僕たちのその力は別のものに託されました。それらの力をもって、実際にその脅威に対抗できるのは、風の神オルセイディウスだけです。」
「風の神?」
「エミリオです。」
「なんと・・・。」
「だけど、それはそれとして、とにかく一刻も早く魔の勢力の方から止めなければ、そのあとどんな恐怖がやってくるか分からない。モルドドゥーロ大公国も東の国々も、何もかも潰されてしまう。この世が・・・地獄に変わってしまう。」
僕たちが・・・アルタクティス。
不安と恐怖のどん底にいたアランは、ふと、以前彼らに言ったことを思い出した。
君たちは、まるでアルタクティスの再臨だ。
そしてそれは・・・本当だった。