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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第16章 大陸の終焉 〈 ⅩⅢ 〉
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神々の力を一つに



 彼らは主聖堂へと場所を移し、アーチの天井と窓が連なる回廊を渡って、小さなバラ窓がついた扉をくぐって行った。


 やがて、薄暗い地下礼拝堂へとたどり着いた。ほのかに明るいのは、完全な地下室ではなく上部が地上に出ており、上の方から光を取り入れられる窓があるためだ。


 中へ入ると、真面目な顔つきになったカイルが手際てぎわよく動いて、祭壇に据え付けられてある四つの蝋燭ろうそくに火を灯した。


 まず、みなはテオに言われて、精霊石をエミリオが持ちやすいようにすることから始めた。とはいえ、レッドやリューイはもともと精霊石のみの状態で持ち歩いていたし、それにセシリアやイヴ、そしてカイルの首飾りにも問題はなかった。メイリンの帯留めも、綺麗に編み込まれた三本の紐が付いているだけの、ペンダントと変わらないような物なので邪魔にはならなかった。だが、ギルがフィクサー(鷹)の首輪にしているものと、シャナイアのブレスレット、ミーアのアームリングは枠から取り外した方がよさそうである。しかし幸い、この三人に共通して特にこだわりや思い入れがあるわけでは無いため、それぞれ壊すことにもあっさりと承知した。


 フィクサーを肩にとまらせていたギルは、リューイからナイフを借りてスピラシャウアの精霊石をくり抜き、同じようにシャナイアとミーアのものも取り外した。


 そして、謎の儀式が行われる。


 エミリオはまず、カイルから始めた。ラグナザウロンの精霊石を握り締めたその少年の前に立ち、緊張してはいるが落ち着いた声で、神精術の呪文ではない例の言葉を唱えたのである。


「イメ テオス オルセイディウス アヴァン ディ セウ ラグナザウロン。」


〝 我はオルセイディウス 〟


「うっ・・・。」


 エミリオが一瞬うめいて膝を折り、体を沈ませた。仲間たちは眉をひそめ、ギルなどは一歩踏み出していたが、エミリオがすぐに体勢を立て直したので見守った。それに、最初の言葉しか分からないと言っていたのに、そのあとも続けて何か呪文なるものを口にしている。

 

〝 聞こえるか・・・闇の神よ 〟


「あ・・・。」

 エミリオの声に合わせて目を閉じたカイルから、間もなく驚嘆の声が漏れた。


〝 ああ・・・来たか・・・ 〟


 体がざわめき、血が・・・何となくラグナザウロンの血が騒ぐのを感じた。体内にいる何かが反応し、エミリオの声に応えようと全身を駆け巡っている・・・。


 一方その数秒後、周りにいる者たちは目をみはり、息を吞んだ。


 カイルが青白い光に包まれているのである。一瞬にして少年の体からバッと浮かびあがり、その全身を包み込んだそれは、仲間の中では、これまではエミリオしか見ることのできなかったものだ。つまり、アルタクティスのオーラ。


 ふと気づけば、そのカイルもまた辛そうに眉間みけんに皺を寄せている。


 ただ成り行きを見守っていると、そのオーラなるものは、体の端々から精霊石を握っている腕へと、渦巻くようにして流れ始めた。そして、手のひらへ向かってスウーッと、そのまま黒い石の中へと消えていく。


 カイルはそのあいだ、奇妙な感覚に見舞われていた。エミリオが呪文を唱えると急に重くなった体。その重圧は、風の神に呼びかけられた闇の神が、ようやくはっきりと目覚めたことによるものだとすれば、その神の大いなる力がやがて腕を伝い・・・精霊石に吸い込まれてゆく・・・そんな感覚。


 まずは一つ、儀式の終了を確信して、カイルは瞼を上げていった。

「え・・・。」

 カイルが手のひらを開けてみると、精霊石に今まで無かった印が見える。

「ほら、なんか紋章みたいなのが・・・。」


「エミリオは大丈夫か。」

 儀式のあいだ少し苦しそうだったその顔色をうかがうようにして、ギルがそっと気遣った。


「ああ・・・ただ・・・。」


 右腕に熱と痛み、それに違和感を覚えていたエミリオは、そろそろと袖を引き上げた。もしかしてと思ったが、やはり、いれた覚えのない刺青いれずみがある。それはカイルの精霊石に現れたものと同じ形をしている。


「絶対的な化身に対する神々の刻印・・・ってところか。力を一つにするのに必要な意味か何かあるんだろう。」

 ギルが言った。


 そのあと、ほかの者たちについても同様の儀式を行った。その度にエミリオの右腕には神の紋章なるものが刻まれ、結果、エミリオの右の肩口から手首にかけて違う形の刺青いれずみのようなものがズラリと並んだ。


「無事に・・・済んだのか?」

 レッドがきいてみる。


 テオとエミリオは無言で目を見合った。


 テオは、彼らにこう答えた。

「エミリオ以外の者たちから・・・オーラが見えんようになった。」









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