神々の力を引き出す方法
ここで一旦、話にひと段落ついたのを見て取ると、テオは次の課題に移った。
「それでじゃ・・・アルタクティスの力、つまり全ての神々の力を引き出す方法じゃが・・・今は、エミリオの中に眠るオルセイディウスだけは確かに目覚めておるようじゃが、ほかの神々をも完全に呼び覚まし、その力をエミリオが使えるようにするには、おぬしらの中に眠る神の力を、それぞれの精霊石に移さんといかんらしい。」
「ということは、その時点で、ほかの俺たちと神とは何の関係もなくなるわけか・・・。」
これまで半信半疑でやってきたレッドも、今は素直な口ぶりでそう呟いていた。
「要するに、精霊石は入れ物で、俺たちはただの運び屋。そして、結果的には神々の中心の護衛だったってことか?」
ギルが言った。
「わしには、単にそうじゃとは思えんが。精霊石に導かれた先で、お前さん達は様々な土地を救ってきたのじゃろう。ならば、それもまた果たさねばならなかった使命。一人一人の力が必要とされていたはず。救世主となる者には、仲間や護衛が必要だと考えたのかもしれん。とにかく、神々はそうしてそれら全ての力を集め、邪悪な神々の封印が解かれるのを阻止させたようじゃあ。とはいえ、かつてのアルタクティスがとった方法を調べるだけがやっとじゃったから、確かなことは分からぬまま、それを真似るしかないわけじゃが・・・。」
「でも、精霊石に移す・・・って、どうやって?」
カイルがきいた。
「そもそも、俺自身は、そんな力を今まで一度も感じたことなんてないが。」
レッドの言葉に、エミリオ以外は次々とうなずいた。
「その方法は、エミリオ自身が一人で行うものらしい。そのやり方までを詳しく知ることはできなんだが・・・まあとりあえず、考えられることをやってみるしかないじゃろう。まずは・・・エミリオよ、精霊を召喚する呪文は覚えておるな。」
「それでは・・・無理だと思います。」
この時エミリオは、真っ先に心当たりがあるその過去を思い出していた。
「※ニルスで・・・恐らくですが、風の神と交信しました。そして一時、操られました。その時に、こう言われたのです。月の女神を呼び覚ますがいいと。」
「なんと・・・。」
テオは驚いて、絶句した。
同時に、ギルもハッとしていた。ひどく傷ついた体を支えられたあの時の感触と、そして見えた月光のようなものを思い出したのである。※
「あれは・・・そう・・・だったのか。」
ギルはエミリオと目を見合った。
「最初だけですが、はっきりと覚えています。あれは、恐らく直接その神々に呼びかけることのできる言葉・・・そうではないでしょうか。」
「でも・・・反動とか、起こらないかな。」
心配してカイルが言った。
「それは主に戦闘時に精霊が起こすものだから、大丈夫じゃないかな。」と、エミリオは事もなげな微笑を浮かべてみせる。
「では、おぬしの中で先に目覚めているオルセイディウスの力をもって、仲間たちの中にも眠るほかの神々に直接呼びかけ、全てを目覚めさせるというわけじゃな。」
「それが正しければ、恐らく。」
「・・・それじゃあ、エミリオはその時、精霊を操るんじゃなくて、神が持つ力そのものを操るってこと?」
カイルがきいてみた。
「そうであるのか・・・または、まだまだ強力な万物最大の力を持つ精霊が潜んでおるとして、それらを動かすことができるのか・・・。現に、その精霊石の中に宿っておるのは、恐らく人間の誰にも操ることなどできない、言わば神の最側近ともいえるものたち。そういうものが存在するのも、また事実じゃからの。可能性としては考えられるが、何がどうなってそれが起こるのかは分からん。わしにも経験のないことじゃあ。」
一呼吸おいて、テオは続けた。
「ただ、わしらが知る呪術とは全く違う力が働き、現象が起こることが予想される。それは、神の領域じゃあ。」
「ねえ、じゃあ最初から、エミリオがその力でエドリースからやってくる魔の軍勢を倒せばいいんじゃあ・・・ってわけじゃないよね・・・。」と、カイルは言って肩を落とした。
それに答えたのは、レッドだった。
「俺もちょっとは思ったがな・・・それは必ずしも確実じゃないだろ。だが、奴らの方は確実に動いている。だから、その方法は俺から言わせてもらえば、最後の賭け。言わば、まさに神頼みのようなもんだ。神の力がどれほど強力かは知らないが、奴らの勢力だって巨大だ。エミリオ一人でどうにかできるとは、とても思えない。」
「そもそも、エミリオのその力は、邪悪な神々ってのをまた封印するために温存されているものだろう? その力をそこで使っちまって、倒しきれずいざという時がやってきた場合・・・とてももたないんじゃないか。」
ギルも間髪入れずに鋭く指摘。
「そうだよね・・・すごく疲れるもんね・・・。」
「カイル、すまないが・・・私にも自信がない。これでも不安なんだ。」
「魔の軍勢と邪悪な神々の復活は、別で考えよう。奴らの方は腕ずくでねじ伏せる。諸悪の根源はエミリオが気力で封じ込む。そうと決まれば、そのための戦闘準備に早速取り掛かるまでだ。明日、ダルアバス王国へ向かうぞ。」
ギルがさっさと予定を立てた。いつも通り速やか。
「だが、信じてもらえるかな・・・。」と、エミリオ。
「あいつももう、呪いで動く死体を見た体験者だからな。その点、問題ないだろう。」
そして苦笑を浮かべたギルは、こう言葉を続けた。
「何より、奴は退屈なんだ。」
※ 参照:第6章『白亜の街の悲話』― 月の女神