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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第16章 大陸の終焉 〈 ⅩⅢ 〉
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だとすれば・・・



 彼らの目に、国を立て直すと意気込んで嬉しそうに語っていた、アランの笑顔が浮かんだ。


「奴ら、モルドドゥーロを蹴倒すつもりか!」

「ざけんな!」


 レッドが思わず怒鳴り、リューイも声を荒げる。


「メサロバキアは、確実にその闇の勢力に乗っ取られるな。あの腐った国王なんて、格好の操り人形だろう。」

 タナイス島での冒険活劇を思い出しながら、ギルが言った。


 メイリンが描いたものはどちらも城だったが、彼らに見覚えのある二枚目は、とがり屋根の双塔そうとうが印象的な大公の石の城館で、もう一枚は、高い壁に囲まれた堅牢けんろう要塞ようさいという感じだった。


 メイリンは、その一枚目を指差した。

「その兵士たちは海へ向かっているようだったわ。このお城のそばで見えた時は、いつも暗くなった。」


「暗くなった・・・とな。ほかには何か見えたかの。」


「嵐が起こって、暗くなる前に空が赤くなりました。でも夕焼けのような綺麗な赤じゃなくて、気味の悪い色。夢はいつもそこまでです。」


 テオは難しい顔のまま、ふしくれだった指でやはり豊かな顎鬚を揉みつけている。

「ふむ・・・なるほど。そこが最終地点で間違いないようじゃの。それはまさに、終焉しゅうえんを迎えようとしている場面じゃろう。」


 しばらく沈黙が続いた。


 そのあいだエミリオやギルは難しい表情で黙り込み、レッドはじっとスケッチを睨みつけていたが、それぞれがどうにか手はないものかと必死で可能性を探っていた。


「止めなきゃあ・・・。」

 カイルがつぶやいた。しかしそれは、あせってただ声を漏らしただけに過ぎない。


「だが、これは今までのように、俺たちだけでどうにかできる問題じゃない・・・。」と、それにギルが何やら意味深な言葉を返した。


 実は、ただ一つだけ望みを見つけていたギル。しかし、それを自分が実行するには恐ろしく虫がよく、この上なく恥ずべき行為だった。しかも大胆不敵で、自身のプライドをかなぐり捨てても上手くいく可能性は無に等しいのである。だが現に躊躇ちゅうちょできるような事態ではなく、賭けてみる価値もある。


 一方、シャナイアにも一つ考えが浮かんだ。それでレッドの顔をうかがい、性格上、それを言おうか言うまいか悩む前にもう —— 。

「大陸中の傭兵に呼びかけるのよ。」


 室内がシン・・・となった。


「・・・口で言うのは簡単だがな、傭兵がただで応えてくれると思うか?報酬なんて、俺たちには払えないだろ。」

 レッドの顔は呆れている。


「あなた、今までそこらじゅうで仕事してたんでしょ?だったら、とりあえずあなたと一緒に組んだ傭兵仲間はみんな手を貸してくれるはずよ。それにアイアスの名前を使えばただでだって誰もが乗ってくるわ。アイアスと一緒に戦えるなんて、戦士 冥利みょうりに尽きるもの。きっと、どこかにいる数少ないアイアスだって応えてくれる。」


 レッドは思いのほか、あごに手を当てて考え込んだ。アイアスの名前を使えば、只でだって・・・多少不本意ながら、名案・・・と思ってしまったのは否めなかった。ギルの言う通り、今回はこれまでとはまるで比較にならない。ほかに上手く手を借りられる方法があるなら、何でもやってみるべきだ。


「でも、どうやって知らせるの?」

 カイルが誰にというわけでもなくきいた。


「そういうことを効率よくできる力があって、頼める男は一人しかいないんじゃないか。」

 レッドはカイルの方を向きながらも、有無を言わせぬ口調でギルに対して言っている。


「ディオマルクか・・・また、あいつの下手したてに出なきゃならんとは。」

 不承不承反応したようなギルだったが、その話をレッドにされる前から、ギルはその幼馴染おさななじみにまた別の件で頭を下げることを考えてもいた。先ほどから一人悩み続けていることを実行するなら、ディオマルクの協力が必要不可欠となってくるからである。


 それで、ギルは言葉を続けた。


「先ほどテオ殿が言ったことを・・・考えていた。妖術師に乗っ取られた軍隊、それらが待っているのは、まさに・・・そう、ジェラール殿が言っていた勢力のことだろう?ガザンベルク帝国を破り、ノースエドリースから恐らく南下をはかるだろうという。つまり、まとめるとこういうことだろう。バルデロスの変わり果てた魔の軍勢が、ノースからまたミドル、そしてサウスを通り、同じ邪悪な勢力と集結しながら、最終的にはモルドドゥーロにやってくると。」


「考えたくはないがな」と、レッド。


 ここで意を決したギルは、思い詰めた真剣な顔でついに言った。

「だとすれば・・・アルバドルとエルファラムの連合軍がいる。」


「ギル・・・。」

 エミリオは二の句が継げなかった。


 ギルが何を考え、そのあとどんな言葉が続くかは、エミリオにはおのずと理解できた。だがこういう事態でもなければ、ギルのそれは正気の沙汰ではない。ようやく全てが丸く収まり、喜んでいたところだというのに、わざわざそれを自ら狂わせ、あえて愚かな恥知らずと成り下がるというのである。


 そして、それはギルのみならず、エミリオにとっても大問題だ。ギルの策に同意すれば、その時どんな混乱と騒動を引き起こすか知れない。


 だから今、ギルのその目は、じっとエミリオに見据えられていた。ほかに手はないんだ・・・そう強く訴えかけている。どれほど惨めでプライドがズタズタにされるだろう・・・その恐怖をも乗り越えた眼差しに、エミリオも首を縦に振らないわけにはいかなかった。


 エミリオも覚悟を決めてうなずいた。










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