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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第15章 帝都 エルファラム  〈 Ⅻ〉 
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アルバドル帝国の現状


 重くなった空気を察して、エミリオは話題と声の調子を変えた。

「君こそ、シャナイアには、例の件はいつ打ち明けるつもりだい。もう言葉は決めたのか。」


「大陸が無くならなかったら、そのあとで言うよ。だが、俺まで死んでいることになってるなんて突飛な話を、どうにか格好よく伝える方法はないものか。」


「アナリス皇女が帝位を継ぐことを、まずは伝えてみればどうかな。」


「なるほど、そうだな。」と、ギルはうなずいて、太陽の位置を確認した。「それにしても、あいつら遅いな。遊び過ぎだ。もう・・・二人で先に行っちまうか?俺たちだけの方が、たぶん無難だと思うぞ。」


「でも結局、みんな野宿をすると言いだしたから・・・この荷物・・・。」

 エミリオは、仲間たちが置いていった荷物の数々に目を向けた。大所帯となったため、今ではもう、とても二人で一度に運べる量ではない。


「もっともだな・・・。」


 ギルは仕方なく、近くのブナの木陰こかげにドカッと座り込んだ。

 エミリオは向かい風に吹かれながら、川の水面みなもを眺めた。

 その横顔を何となく見つめていたギルの視線が、不意に森街道の方へ飛んだ。遠くから聞こえてくる話し声に気付いたからだ。仲間たちのお喋りが。そして、間もなくその姿も現れた。


 ギルは何か言いたそうに、わざとらしく顔をしかめた。同じように気付いたエミリオの方は、少しも怒る様子もなく、至って穏やかな表情で仲間たちを迎えた。


「お帰り。いい町だったろう。」


 そう笑顔を向けてきたエミリオの前に、レッドは思わずひざまずきそうになる。


「お前ら何して遊んでた。こっちは腹を空かせて待ってるってのに。」


「悪い、ほら土産だ。」

 レッドは、右手の紙袋をギルに差し出した。中には『美味いのに安い』が売りのパン屋で購入した、レッドのお任せサンドイッチが入っている。


 ギルは袋の口を開け、ハムや野菜の挟まったそれを見るなり歓声を上げて、一つをエミリオに手渡した。

「そらエミリオ、美味そうだぞ。」


 レッドもリューイも、そしてカイルもみな、豪快に食べ物にかぶりつくギルと、安物のパンを美味しそうにみ切って食べているエミリオの姿に、今さらながら妙な気持ちになった。中でもシャナイアは、そんなギルばかりを浮かない顔でひたすら見つめている。だが、なかば何も考えられなくなっていて、ギルが不思議そうに見つめ返してくることに、すぐには気が付かなかった。


「なに?」

「え、あ、ううん、何でもないわ。ちょっと・・・見惚みとれちゃっただけ。」

「大口を開けて食べてる姿に?」と、ギルは笑った。


 シャナイアは、ただ作り笑顔を返した。


 ギルは以前、「国へ戻るつもりはない。」と確かに言っていたが、「強くて平和な国造りがしたかった。」とも言い、そのために今でも皇帝になりたいという気持ちがあると明かしていた。その時に聞いた話から、彼が何か自分に足りないものに気付いて感情的に失踪しっそうしてきたのだとすると、その気持ちが満たされ納得できれば、エミリオとは違い、彼の場合は国へ戻ってやり直すこともできるはず。なのに、その夢や情熱を、可能性を完全にち切られたと知ったら、彼はどう思うだろう・・・。

 そう考えたシャナイアは、自分にとっては都合のよいことでも、ギルの本心がいまいち分からないだけに喜べず、軽はずみに報告もできなかった。


 そんなシャナイアからは、いつもの明るくて勝気な雰囲気はすっかり抜け落ちていて、それどころか、まるで奥ゆかしい可憐な少女のよう。ギルは思わず、少しドキッとさせられてしまった。


れてくれてるのは知ってるけど、照れるよ。」


「え・・・ああ・・・うん。」


 意味不明な返事をして、シャナイアは視線を落とした。


 ギルは首をひねった。足はすぐに動いて、一歩レッドににじり寄っている。

「何かあったろ、教えてくれ。」


「いや・・・まあ、その・・・俺はむしろいいんじゃないかとも思ったんだが、なぜかああなっちまったんだ。あいつはあいつで、何か思うことがあるんだろうな。いつかは知ることになるよ。」


「お前の口からは言えないことか?きっと、俺が関わることだろう?そのいつかが来るまで眠れなかったら、どうしてくれる。」


「添い寝してやろうか。」


 ギルは深々とため息をついて、首を振った。


 そうして軽く昼食を済ませると、エミリオは、ほかの仲間たちにも分かるように向こう岸を指差してみせた。そこまでは、川下へ向かってまだだいぶ距離がある。だがその手前に、対岸へ渡れる橋を確認できた。エミリオの記憶にはない橋である。


 まずはそれを目指して、一行いっこうは歩きだした。









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