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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第14章  凍える森 〈 Ⅺ〉【R15】
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五人の戦士



「俺たちが探し出す。」


 切れ長の瞳の若者と、侍従は目を見合った。先ほど聞いた声は、この彼だ。いかにも戦い慣れていそうな精悍な容貌と立派に鍛え上げた体格で、ほかに三人の青年と一人の少年がいた。しかし、ほか三人の青年もまた長身で逞しく腕がたつようにも見受けられるが、少年はというと、とうてい剣など振り回せるとは思えない細身で、その体に武器らしいものも見当たらない。だが、何か神秘的で特別な力を感じさせられる、澄みきった深い緑色の瞳を持っていた。


「君たちは・・・いったい・・・。」


「通りすがりの旅人だが、俺たちがやれば一仕事片付けてくるようなもんだ。だから今すぐ外に出て、この宮殿から離れてろ。」


 レッドは有無をいわせぬ口調で言い聞かせた。王の側近でベテラン戦士でもあるだろう男を前にして、いつになくそう口調が雑になるのは、ここで揉めている場合ではないからだ。それに、倒せそうな強気と荒々しさを見せておいた方が、むしろ説得力があるだろう。何しろ、相手は怪物なのだから。


 エミリオは、そばで同じように不思議そうな目を向けてくる王の前に、うやうやしく跪いた。

「陛下、我々はみな戦士や術使いです。王妃殿下も我々が救いに参ります。」


「そなたらは・・・。」


 王は、その青年が醸し出す神の使いのような・・・と形容しても過言ではない雰囲気と端麗な容貌に圧倒され、知らずと首を縦に振っていた。男にして世にも稀なその美貌や気品には、何か神秘的な力を感じずにはいられないものがある。


「そなたらに・・・任せよう。頼む、無事シルビアを救い出してくれたならば、必ず褒美をとらせよう。」


 エミリオとカイルは、そろって右の上り階段を見上げ、そのさらに奥を見据えた。そもそも全体から感じられるので分かりづらいが、不快な空気はそちらの方からより強く漂ってくるように思われた。


「行こう。」

 エミリオが落ち着いた力強い声で促す。


 それに応えて見上げると、アーチの列柱に囲まれた豪華絢爛とした大空間が頭上に広がる。

 気を引き締めて一段一段上がっていく戦士たち。

 臆することなく立ち向かう彼らの姿に、王と二人の付き人は畏敬の念をこめて祈りを捧げた。






 大階段室の二階から宮殿の正面側へ出た一行は、また別の階段から三階へと上がって、大庭園が見渡せる廊下を通っていた。


「ところで、この広い宮殿内で、王妃の居所を探し出す術は何だ。やはりおぞましい気配を頼りにするっていう、おぞましいことをやるつもりなのか。」

 ギルが言った。


「もうやってるよ。」と、カイル。


「だろうな・・・。」


「彼女自身が妖気をまとった霊魂なら、それでじゅうぶん当てにできるからね。ただ、特定まではできないから、何となく感じる方に。」


「 ―― とかやってるから、あんなのにすぐ出くわすんじゃないのかっ。」

 レッドがいきなり喚いた。曲がり角から今ヌッと現れたものに指を突きつけている。


 その指先の向くところには、三メートルほどもあろうかという、まさにワニの頭部のような形をした大きな顔があった。その後ろに続く腹ばいになった体はゆうに顔の数倍はあるようだが、そいつと面と向かい合っているこの位置からはよく見て取ることができない。とにかく廊下にべちゃっと付いた四本の太い足と、頭から伸びたやたらに長い二本の触手を持っており、あまりに奇っ怪すぎるが全体的には一種の両生類か爬虫類を思わせた。見えるところ全て毒々しい黒か、それに近い灰緑色で、その中にぎょろりとした目玉だけが例によって煌々と赤い光を放っている。


「 ―――― ?!」

 カイルは唖然。リューイが湖で見たのって、これ?


「ほらっ、出たっ、今度は何のお化けだよ、あれっ!」

 ニルスの化け蜘蛛を思い出して、リューイがわめいた。


 ギルは信じられないというように、ただただ首を振っている。


「おい、そんなことより、やるのか、やらねえのかっ?」

 レッドがつっけんどんに言い放った。


「問題は、元凶をどうにかしたら、あいつもどうにかなるかどうかってことだな。」

 ギルが言った。


「運がよかったら、あいつと喧嘩しないで済むってことか。けど、放っておくのも問題だろう?血を求めて外へ出ていっちまったら、街がめちゃめちゃになるぞ。」

 レッドが言った。


「というか・・・もう僕たちに夢中みたい・・・。」


 そうカイルが目で示したものに、再度全員が目を向ける。


 不気味で醜怪な謎の生物が、今か今かというように体をくねらせている・・・。


 レッドやリューイなどは奇妙に口元が痙攣したが、そもそも顔全体が引きつっていた。


 目でうなずき合って、徐々に後ずさりしていく。うん・・・よし、逃げよう、ひとまず・・・。


「じゃあ、ずらかるか。お前の体力の温存も大事だしな。」レッドがカイルに向かって言い、ギルが応じた。「先に、悪霊退散といくか。」


 そして一斉に背中を返した。


 ギルはちらと振り返り、「だいたい、あんな図体で、どうやったらあの塔の階段を通り抜けてこられるんだ。」


「知るかよ。」とレッド。


 ところが、逃げだしたと分かると急に触手が一本グイッと伸びて、艶やかな廊下を波打ちながら向かってくる・・・!


 狙いをつけられたのは、カイルだ。


 そうと気付いた時にはもう、カイルは片足をすくわれていた。体はあっという間にズデンと転がり、真っ直ぐには引っ張られずにうねりながら引き摺られた。


「うわああっ!」


 目も眩む勢いで引きずり回されたカイルは、銅像を載せた台座にぶつかりそうになって、とっさに手を出した。すると奇跡的に、台座の角に指を引っかけることができた。だが少年のとうてい及ばない腕力では、化け物の力に耐え切れたのは一瞬だけだ。


「カイル!」


 すぐさま駆けだしていたリューイには、なんとその一瞬で足りた。カイルの手が離れるよりも先に矢のように跳びついて、足首を捕まえている触手の真ん中辺りに思いきりつかみかかっていたのである。


 ところが、グニュウッ!という感触に、瞬間、リューイは仰天した。

 柔らかく、それでいて弾力性もあるもの。それはあまりに予想外の手応えだ。湖で見たものと同じ種であるとして、その時は気が動転していたせいもあり、よく分からなかった。だが今、鞭のようなイメージでいったら全然違う。これはゴム、そうだ、まるでそれだ。


 それをどうにか握り直したリューイは、カイルを持っていかれないよう、成り行のままにそいつと力比べを始めた。しかし長くは続かなかった。そこへ素早く動いたもう一本の触手が、リューイの体をあっという間に叩き飛ばしたからだ。


「うあっ!」


 あのリューイが、ひとたまりもなく窓ガラスを割って外へ飛んで行ってしまった・・・!










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