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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第14章  凍える森 〈 Ⅺ〉【R15】
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ようやく揃った旅仲間


 部屋の入り口からそっと中を覗いてみれば、なるほどベッドに横になっているエミリオの姿を確認できた。仲間達はそろって胸を撫で下ろした。上掛けから出している右の二の腕に包帯をしてはいるが、確かに無事だ。

 そして同じ部屋にはもう一人、セシリアが言っていた〝婆や〟その人に違いない老女もいる。


 気配に気付いて肩越しに振り向いたテルマは、静かに席を立って彼らを迎えた。

 セシリアの紹介のあと、互いに軽く挨拶を交し合う。


 テルマは壁際のベッドの方へ首を向けてみせ、「あんたさんらのお友達は、ほれ、どうにか無事だよ。」と言って、一行を中へ通した。


 促されて入室した彼らは、ベッドのわきに並んで立った。


 いかにも病人という感じでそこに落ち着いたまま、仲間達がそばに来てくれるのを待っていたエミリオ。その一人一人に目を向け、枕元に立ったギルに視線を定めると、この爽やかな朝に似つかわしい笑顔でにこりと笑った。


「やあ、おはよう。」

「やあって・・・お前、何てざまだ。」

「はは・・・ひどいな。」

「黒ずくめの部隊か。」


 エミリオはうってかわり深刻な面持ちでうなずいた。


 そのあと、セシリアが先ほど中断した水汲みをしにそっと離れたのを見ると、ギルは声をひそめた。

「セシリアからお前は病気だと聞いたが、昨日は体調が悪かったのか。それに、その腕のことだろうが、彼女は自分のせいだと・・・俺達もやられたから予想はつくが。」


 昨日の襲撃の度合いから、普通なら傷の一つや二つどころか殺されていてもおかしくはないが、この男については、その時よほどの何かが起こらない限り有り得ないという確信があるので、セシリアの方がエミリオの集中力を乱す何かをしたのだろうと思い、ギルはそういう意味あいも込めてきいた。


 その問いには、エミリオははっきりと首を振ってみせた。

「いや、これは私の不注意だ。」


「で、奴らにお前達は何て言われた。」

「彼女の顔は最も放ってはおけないと。」

「やはりな。俺達も同じようなことを言われた。レッドとイヴも。おかげで、シャナイアはカンカンだ。」

「君達に話さねばならないことが、たくさんある。」


 そこへカイルが進み出て来て、エミリオの額と胸に手を当てた。

「うん、確かに熱がある。これはまだ高いよ。頭痛とか、気分はどう?」


「どちらも冴えないな・・・。」


「町の医者を呼んでくるかい。ちょうど、そうしようと思っていたところだよ。」

 テルマが声をかけた。


「あ、必要ないです。僕がそうだから。」

 さらっと答えたカイルは、早くも肩から医療バッグを下ろしている。


「え・・・あんたさんがかい?」


 器具やら道具をサイドテーブルに広げて椅子に腰を下ろしたカイルは、しげしげと見つめてくるテルマの前で、さっそく薬を調合し始めた。確かに、その熟練した手つきには疑いの余地がない。


「よくそんな信じられないって顔されるんだけど、これでも僕の腕はある町ではすごく評判がいいんだから。まあ任せておいてよ。」

 カイルは一度手を止めて、エミリオの顔を見た。

「あとで、その腕の傷も診せてもらうよ。」


「よろしく頼む。」

 エミリオは苦笑で答えると、それからテルマに言った。

「彼が、夕べ話した少年です。」


 テルマは納得の表情でうなずいた。

「一目見て分かったよ。ディオネス・グラントは、漆黒の髪に深い緑色の瞳をしていたというからね。確かに、その通りだよ。」


「何の話?」と首をかしげたカイルは、サイドテーブルに用意があったガラス製の水差しから、空のコップに水を注いだ。そして、出来上がった粉薬こなぐすりを移した包紙やくほうしと一緒に差し出した。


 エミリオは背中を起こして水と薬を受け取り、「あとで全て説明するよ・・・。」と答えて口元へ運ぶ。そして、顔をしかめた。苦いうえに、何か独特な味がする。「・・・すぐ効くかい。」


「おとなしくしてればね。」


 このあと、休む必要のあるエミリオをそのままにして、一行は部屋を出た。そして一階へ下りて突き当たりの右の奥にある部屋へと案内された。中へ入ってみると、そこは大家族であったことが一目ひとめで分かる広いダイニングキッチン。大きな一枚板のテーブルが中央にあり、木製の椅子が八つもあった。リューイの膝の上にミーアが座っているので全員腰を下ろせるが、テルマは客人をもてなすために立ったままである。


 テルマは湯を沸かして、小ぶりのマグカップに、人数分のハーブティーを入れた。そして、朝食をまだとっていない彼らのために自家製の葡萄ぶどうパンと一緒にふるまい、自分の分のハーブティーを一口味わって一服。


 先に朝食を済ませていたセシリアは、一言ひとこと断ってからマグカップを持ってまた上がっていった。


 ギルやシャナイアは、そんなセシリアの様子を見て、責任を感じているせいか、それとも何か特別な感情でも芽生えたかと、ある直感を覚えずにはいられない。


 そう思う一方で話すタイミングを見計らっていたギルは、すぐに説明があるはずだが、テルマが落ち着くともうこちらから問いかけた。

「テルマ殿、この森ではおかしなことばかり起こる。エミリオは、話さねばならないことがたくさんあると言ったが、それについて何か知っているふうだった。彼とはどういう話を?」


「今から、その話をしようとしていたところだよ。まあせっかくだから、冷めないうちに食事しながらお聞きよ。」









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