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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第14章  凍える森 〈 Ⅺ〉【R15】
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異常な夜が明けて



 早朝、浅い眠りから覚めたレッドとイヴは、まだ少し冷えている服を着ると、早速その小屋を出て道を戻り始めた。夕べはなぜか気付くことのなかった案内札が所々に点在していたので、宿屋が集まる方へ向かうのは、今は嘘のように容易たやすいことだった。ただ、二人は的外れな方向へと突き進んで来ていたことが分かり、仲間達のもとへ戻るのはそうとう時間を費やすことになりそうだ。


 まだぼんやりと青白くて、霜が降りていた。


 昨夜ずいぶんと意地悪をしてくれた奇妙な森は、気温も辺りの様子もごくごく自然な朝を迎えている。チュンチュン、ピーチクと、朝早くから何の問題も無かったように楽し気にさえずっている野鳥たち。空を飛んで、好きな場所で快適に過ごすことができたのだろうか。ソファーの肘掛けを枕代わりにしていたおかげで、堅くなった首筋に手をやり痛みをほぐしながら歩いているレッドは、何だか腹が立ってきた。


 しばらく歩き続けると、岩場の間に、五、六十センチの高さから水が落ちている小さな滝を見つけた。レッドは手を突っ込んで、水飛沫を飛ばしながら顔を洗った。続いて、イヴもそっと水をすくってお上品に手や顔を洗った。


 それから川の流れる方へ進路を取ろうとした時、レッドはいっきに安心して力が抜ける思いがした。


 向こうから慌てた様子で駆けてくるのは、馴染なじみ深い面々である。


 明け方から再び捜索を始めていた仲間達は、ここでまず、レッドとイヴにやっと出会うことができたのだった。


「よかった、無事だった。」と、カイルがホッとして言った。


 ギルの顔には、ニヤッ・・・と意味深な笑みが浮かんでいる。

「どうだった、二人きりの夜は。」

「このやろう、死ぬとこだったんだぞっ。」

「冗談だ。探したんだがな・・・迷ったんだ。」

「迷った・・・?」


「この森は夜になると、闇や森の悪い精霊に支配されるみたいなんだ。それで、幻覚を見せて人を迷わす。」

 カイルが説明した。


 ここでレッドは、不意に気付いて顔を強張らせた。

「待てよ、エミリオとセシリアがいないが・・・まさか。」


「ああ。夕べはあの二人も帰っては来なかった。」

 ギルが答えた。


「おい、まずいぞ。この森の夜の冷え方は異常なんだ。普通なら凍死しかねないぜ。」


「普通なら・・・?」


 レッドの顔がサッと熱くなった。「あ、いや、俺達は・・・まあいろいろ対策を練ってだな・・・運がよかったんだ。」


「とにかく、セシリアのお婆さんとやらの家へ行こう。ちょうどその方向に来ている。二人共、無事に着いていてくれればいいが。」


「はなから道を外れてたわけか、いや、外されてたってことか、俺達は・・・。」

 夕べ確かに宿泊街を目指していたつもりのレッドは、唸るようにそう呟くと同時に、その前の不可解な出来事を思い出した。

「ところで、昨日だが・・・襲われた。」


「やはりな。」と、ギルは返した。何ら驚くことも無く。


「じゃあ・・・そっちも。」


「ああ。ワケの分からんことを抜かしていた。エミリオ達もやられているとしたら・・・本当にちょいとまずいな。」


「奴ら、恐ろしいことに軍服を着ていた。いったい何がどうなっていやがる。」


 彼らはそうして道に戻り、その先のうねうねと曲がりくねる九十九折つづらおりの小道をたどって行った。

 そして、レッドとイヴが一夜を明かした小屋が、木々の間から小さく見えるところを通り過ぎる。森の湖から流れ出すひと筋の川にぶつかり、その上に架かっている狭い板橋を渡って行くと、やがて少し切り開かれた場所へ出た。


 家屋が一軒、孤独にポツンと建っていた。外壁にほどよくつたが這うおもむき深い二階建てで、一人で住むとすれば充分すぎる広さの住居だ。


 この家がそうらしい。


 その頃には空は明るくなっていて、仄かに赤く色づく綺麗な雲の帯がたなびいていた。


 そんな朝焼け空のもと彼らがその家に近づいて行くと、家のわきから木桶を持った若い女性が出てきた。

 彼女も気付いたようで急に立ち止まると、木桶を胸に抱いて駆けてくる。


セシリアだ。


 そして仲間達は、どうしたのか悲しそうに立つセシリアを取り囲んだ。


「セシリア、エミリオは・・・。」

 イヴが真っ先にきいた。


 すると突然、セシリアの瞳から大粒の涙がポロリ。


「ええっ、なんで !? 」と、カイル。

「おい、まさか・・・。」

 レッドもたちまち不安になる。


 シャナイアは、さめざめと涙を流し始めたセシリアの両肩に手を置いて、顔をのぞきこんだ。

「セシリア、どうしたの?エミリオは一緒じゃないの?」


 返事を待っている仲間達の注目の中で、セシリアは鼻をすすり上げ、こくりと息を呑み込むと、うつむいたままこう伝えた。


「彼は・・・無事です。」


 喜劇のように膝を折ったカイルは、胸に片手を当てた。 

「な、なんだ・・・びっくりしたあ・・・。」


「でも・・・病気なの。怪我もしていて・・・わたくしのせいですわ。」


 セシリアの言っている意味を、誰もどう理解したらいいのか分からずに黙った。


 それで、ギルは言った。

「とにかくセシリア、君のお婆さんとエミリオに会わせてくれ。」


 セシリアは涙を拭い、うなずいて、彼らを二階の南に面した一室へと案内した。










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