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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第14章  凍える森 〈 Ⅺ〉【R15】
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黒装束部隊の襲撃(対レッドとイヴ)



「何の冗談だ。」


 今、黒装束くろしょうぞくの男たちを目の前にしているレッドは、唸るような声できいた。


 市場へ引き返してすぐに用を済ませ、もうすぐエミリオたちと別行動をとった別れ道というところまで戻ってきた時、レッドは、ずっと感じていた不快な気配と対面することになったのである。


 これには驚いて目をみはった。それらは、初め軽く考えていたようなコソ泥などではなく、れっきとした組織の者であることが、その身なりから一目瞭然だったからだ。


「その女・・・その顔は、生かしておくわけにはいかんのだ。」

 指揮官の男が、呆れるセリフをなんとも事務的な声で口にした。


「ふざけやがって・・・。」

 もはや笑い転げる気も起こらず、レッドは剣を二本とも鞘から抜いて構えると、ドスを利かせる。 

「無駄な殺しはしたくない。俺はアイアスだ。それでもやるか?これくらいの人数なら、無傷で倒せるぞ。」


 意外にもその言葉を誰もが信じ、仰天した。なぜなら、つけ入る隙なく二本の剣を構えるその姿、貫禄かんろくといったら、実際ほとんどの者が思わず逃げ腰になったほどだ。


「二刀流 !? では、その布に隠れているのは —— 。」


 レッドは何の躊躇も無くサッと覆いを外して、額の紋章を見せた。

「これならすぐに気が変わるか?わざわざチャンスをやったんだ、無駄にするな。それとも、この警告を無視してかかってくるか?」


 早口で喋り、その動作も速やか。レッドは、とにかく先を急ぎたかった。言いがかりなんだか、納得いかない理由で狙われる苛立ちと煩わしさ、そのくせ妙に不安を覚える不吉な胸騒ぎ。早く仲間と合流して報告し、それらを解消させたかった。


 一方、男たちの方では、誰もかれもがレッドの額の鷲に釘付けになっていた。大陸最強の戦士、アイアンギルス・・・通称アイアス。数えるほどしかいないと言われている、桁外れな戦闘能力をもつ伝説の戦士。その証拠が額に施す聖獣イーグルの刺青であり、中でも二刀流といえば、凄まじい早業はやわざを繰り出す怪物のような男で知られている。


「くそ・・・敵わん。」


「隊長、間もなく夜になります。ここで少し時間を稼げば、あの女を連れている限り、あの二人はこの森から出ることができなくなります。そうなれば、朝には二人とも・・・。」

 早く頭が回った一人の部下が、立ち尽くしている指揮官に囁きかけた。


 隊長と呼ばれた男も気付いて、夜の帳が降りてくるのを確かめるように空を見上げた。そして、部下たちに何か身振りで指示を与える。


 包囲しろ。だが、手出しせずに待機。


「アイアスとまともに戦えば、一瞬にして命はないぞ。」


 引くことなくゆっくりと二人を取り囲みだした男たちは、次々と剣を構えた。


「ちくしょう、やる気か。」


 レッドも腰を落とした。どんな一斉攻撃にも対応できるよう神経を研ぎ澄まし、集中力を高める。そうして放たれる覇気は敵を食らうほどのもの。


 ところが、それ以前に、相手にかかってくる様子が一向に見られない。やる気かと思いきや。


「あいつら・・・どういうつもりだ。」


 そのまま長い時間が経ち、そのあいだ少し動きを見せる者もいたが、何かごまかすような感じだ。殺気がまるで伝わってはこない。本当にワケが分からない。まったく一体なんなんだ、怖気おじけづいたのならさっさと消えてくれとイラつく一方で、レッドは不可解なことが気になって仕方がなかった。


「・・・何を企んでやがる。」


 そのうち夜になり、辺りもよく見えなくなると、指揮官の男が軽く手を挙げたそれだけで、謎の集団は黙って武器をおさめた。そしてそのまま、一斉に背中を返したのである。


 レッドは、血で汚れずに済んだ二本の剣を鞘に収めながら、男たちが暗い雑木林へ消えて行くのを訝しげに見送った。やれやれ、ようやくと言いたいところだが・・・。


 刃傷沙汰にんじょうざたを覚悟してレッドの背後でじっとしていたイヴも、これにホッと胸を撫で下ろしながらも、さすがにおかしいと感じずにはいられなかった。


「何なのかしら。どうして、私のこと・・・。」

「分からん。とにかく急いで戻ろう。とうとう夜になっちまった。」


 その予感があったので、念のためにランタンを持ってきて正解だった。

 イヴが灯りをつけ、道を照らした。


 とそこへ、突然の雨。


 それに打たれると、イヴは思わず肩を飛び上がらせた。


「やだ、冷たい!」

 驚いて、イヴは思わず夜空を見上げる。


 その雨脚は弱く、ぽつりぽつりと落ちてくるものだったが、驚いたことにはみぞれのように冷たい。


「なんて雨だ。」


 ますます募る嫌な胸騒ぎに、雨宿りをすることよりも先を急ぐ方をただちに決断した。一刻も早くこの森を抜けたいと、まだ何か起こりそうな恐怖すら覚えた。


 レッドはイヴの肩を抱き寄せて、ぼんやりとうかがえる暗がりの中を進み始めた。

 一度通った道だ。見定めがたくとも、行く方向は分かっていた。もうすぐ別れ道にさしかかる。案内札に従って曲がり、引き返したところまで出られれば、確認していた地図によると、それほど時間をかけずにこの森を抜けられるはず。


 そうして間もなく到着した分岐点で、レッドは迷うことなく進む道を選んだ。


  







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