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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第14章  凍える森 〈 Ⅺ〉【R15】
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黒装束部隊の襲撃(対ギルとシャナイア)


「悪ふざけが過ぎるぞ・・・。」

 突然、行く手に立ちはだかった黒装束くろしょうぞくの男たちに向かって、ギルは低い声で言った。


 早々に買い物を済ませて、ジュノンの森へ入った直後のことだ。二人がその気配に気付いたのは・・・。


「気の毒だが、その女の顔は生かしておくことはできないのだ。その顔でこの王都に踏み入ることは、死を意味する。」

 極めて事務的な口調で、リーダーと思しき男が答えた。


 彼らの姿、セリフ、この状況、ギルとシャナイアにとっては全てが意味不明だ。さらに、どうも関係がありそうな町の人々の様子が思い出されたが、今それに気を取られて考えこんでいる場合ではない。


「ワケの分からんことを・・・。」

「何なのよ、さっきから人の顔を!あったまくるわ!」


 案の定、二人が言っているそのうちにも相手は剣を構えだし、かと思うといきなり一人が飛び出して、大きく振りかぶってきたのである。


 唐突に振り下ろされた凶器を、二人はさっと左右に分かれて避けた。同時に、ギルの右手はもう愛用の大剣を握りしめている。


 その男は続けざまにシャナイアを襲った。 


 当然それを許すわけがないギルの剣が、稲妻のような動きで的確に阻止する。


「きさま、俺を怒らせるな!」

 ギルはカッとなって怒鳴った。


 そこへ、また別の男が怯みもせず横合いから武器を繰り出してきた。


 合わさっている最初の男の剣を難なく押し退けたギルは、次の男の肩を斬りつけ、もう一人の剣をも弾き飛ばすと、その腕にも白刃を斬り込ませた。


 いずれも、わざと致命傷を避けた。その男たちは何かに操られているとしか思えないからだ。


 斬られた二人の男は傷口を押さえ、よろよろと後ずさりした。


「シャナイア、こいつら本気だ。」と鋭くささやいて、まだ手にかけていない者たちから睨みを外さず、隙も見せずに、ギルは、男が落とした剣をシャナイアの足元へ蹴って寄越した。「一応持ってろ。だが手出しせず、自身を守るだけに使え。」


「じゃあ、私のしびれが切れないうちにしてね。」

 そう冗談を言いながらも、それを素早く拾い上げたシャナイアは、非常に滑らかな動きと、抜かりない目つきで構えてみせる。


 訓練で身に付け実戦で完璧なものにした、その戦う姿勢。見事に様になっている。


 黒装束の男たちは一斉に目をみはった。

「女も戦士か。」


 そうと分かると、男たちは慎重に間合いをはかった。しばらくはその状態が続き、一人の雄叫びをきっかけに再開された戦いは、突如めまぐるしいものとなっていく。


 あらゆる角度から夢中で繰り出される剣、飛び交う叫び声。何がそうさせるのか、気は確かかと怒鳴りつけたくもなる。普通じゃない・・・と、ギルはもはや冷静に感じた。


「うああっ!」

「ぐあっ!」


 最後の男の剣が天高く吹っ飛んで、ひとまずその場の片はついた。


 抜群の見極め、大剣を軽々と操れる腕力と高い戦闘能力。それを見せつけるようにギルは次々と男たちに傷を負わせ、地面に膝を付かせたのである。わっと襲ってくる敵のあまりの同時攻撃に、シャナイアも手を出さずにはいられない瞬間が二度ほどあったが、そのことが更に襲撃者たちの戦意をくじかせることになった。


「なんて男だ・・・。」


 誰もかれもが苦痛に歪む顔のまま見つめている先に、ギルはひとり堂々と片手に大剣を握り締めて立っている。その表情は冷ややかで厳しい。 


「まだやる気があるなら、次は軽傷で済むと思うな。」


 血の付いた切っ先を真っ直ぐに向けたギルは、顔色ひとつ変えることなく無情な声で淡々とはき捨てた。

 

 少しのあいだ、両者は無言のままただ目を見合った。


「・・・ひとまず引くぞ。」

「ですが、我々の制服を見られています。それに、あの女の顔を殿下に気付かれては・・・我々が・・・。」


 そう、その集団が着用しているのは、とある部隊の制服だ。


「今、まともにあの二人と戦えば、むしろ命はないぞ。それにどのみち、もう国の誰もが気付いていることだ。」


 そんなやりとりを、隊長とその部下は二人が見ている前で普通に交し合うと、やがて立ち上がった。ギルとシャナイアには、なおも理解できない何やら物騒な会話だ。


 そしてようやく、茂みに紛れるように退散して行ったのである。


「何なのいったい!顔のせいで襲われたってことじゃない!この顔の何が気に入らないっていうのよ、冗談じゃないわ!」

 シャナイアは癇癪かんしゃくを起こして喚き散らした。


 そんなシャナイアを、いつもなら気の利いたセリフで軽くなだめすかしているギルも、この時ばかりは動揺も露な険しい面持ちでたたずんでいた。


 あれは軍服じゃないのか。しかも聞き間違いでなければ、主犯はこの国の王以外の王族・・・嘘だろ。


「ヤツら・・・この森で待ち伏せしていたようだった。だとすると・・・。」


 不意にシャナイアの方を向いたギルは、彼女の腕を引っつかむなり一目散に走りだした。









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