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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第14章  凍える森 〈 Ⅺ〉【R15】
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藪に潜む気配



 突然、シャナイアが立ち止まった。


 右手には白壁の風車小屋が立ち並び、目の前には、もうジュノンの森が見えているところまで来た時だった。


 ほかの者たちがどうしたのかと目を向けると、シャナイアは胸の前で両手を合わせた。


「ごめんなさい・・・岩塩を買うの忘れちゃった。必需品なのに。」


 ギルが進み出た。

「つきあうよ。皆は先に行っててくれ。これだけの人数だと、部屋を取るのも難しいからな。」

 

「何だか人の視線が気になっちゃって、焦ってたからだわ。もうっ。」


「じゃあ、僕たちは先に宿を当ってみるね。部屋が取れたら、目印を出しておくから。」

 カイルが言った。


 ギルは分かったとうなずいて、シャナイアと共に背中を向けた。


 そして他の者たちは、目の前に続く一本道をそのままたどって行き、やがて鬱蒼うっそうたる森へと入っていった。

 その一本道は森の中ですぐに分岐した。その度に一行は案内札に従っていたが、三度目の分かれ道では、思わずその場にたたずんだ。ここでの案内札は二つだけ。だがその一つが、セシリアが言っていた、知り合いの老婆がいるはずの住所を示していたのである。


 そこで、エミリオが何やら思案しながらこう言った。

「セシリア、お婆様にはいつ会いに行く?よければ今からでも、私がお供しようか。」


「まあ、よろしいの?」


「ああ。すぐに旅立つことになるかもしれないからね。それに、私も、その人にききたいことがある。町の人々は多くを語りたがらないようだし・・・。君のお婆様から、何か聞けるかもしれない。」


 その時、エミリオは振り返らずに視線だけを背後へ向けた。少し離れた暗いやぶの中。そこに、どうも気のせいではない気配を感じる・・・。






「彼ら、また別れるようです。」


「今、離れた者も含めて、戦士と見受けられる者が数名いるな。念のため、お前はすぐに戻って隊を編成し直せ。そして、さきに離れた者たちを待ち伏せろ。」


 指揮官の命令に従って、まず一人がその場を離れた。


「我々は二手に別れる。お前に指揮を任せる。先回りして、彼らが目的地へたどり着く前に・・・分かっているな。」


 そして、次に命令された男が数名を引き連れて、険しい獣道を上っていった。






 振り返ったエミリオは、黙って木々の向こうに鋭い目を向けている。


「気になるか。」

 レッドが言った。


「ああ。さきほどからずっと・・・。」と、エミリオ。


 リューイもうなずいた。

「この森に入った最初からだ。この国に着いたばかりで身に覚えがねえから、俺も黙ってたけど・・・。」


「ききたいことって、この街の様子のおかしさだろう?」


「私には、さっきのおじいさんの言葉の方が気になるけどね。」


 冗談混じりに答えた余裕の表情に、レッドも心配することもなくただ苦笑を返した。そして、くさむらに潜むその影に睨みを利かせる。


「気配はそれほど多くはないようだから、格の差を思い知ればすぐあきらめるだろ。」


 エミリオは正直、今身を潜めている者たちが盗賊のたぐいで、話のできる相手ではないとすれば、ただ一つ・・・セシリアの目の前で、それらと武器を交え合うことになるかもしれないという恐れだけはあった。彼女にとってそれが、人が思う以上に正視に耐えないものであるのは承知の上。だが不吉な予感に、早く真相を確かめたいと思うあまり、セシリアを見てつい事も無げに微笑みかけていた。セシリアは、この会話のせいで少し不安になったようだったが。


 セシリアの背中に手を回したエミリオは、その案内札が示す方向へと歩きだして仲間たちから離れていった。 


 その姿が見えなくなるまで見送っていたレッドとリューイは、同時に、潜む影の動きに注意を払っていた。だがまだいるその気配は、二人のあとを追う様子もなくじっとしている。


 顔を見合わせたレッドとリューイだったが、もう一方の道を、ほかの仲間を連れて進みだした。


 宿泊施設が立ち並ぶその方向に、やがて、曇り空のせいか何となく冷ややかな感じのする湖が見えてきた。地図によると、次にこの湖が遠のいていく右方向へと道を抜けて行けば、それほど時間もかからず目的地へとたどり着けるはず。


 ところが、それらしい道へ曲がろうとしたところで、今度は、イヴが急にうろたえだしたのである。


「あの、ごめんなさい・・・私も、蝋燭ろうそく燭台しょくだいを買うの忘れちゃった。確か、壊れてたわよね。」

 イヴは、申し訳なさそうに肩をすくめてそう言った。


「あ、そういえば。」と、カイル。


「戻って買ってくるわ。」


「待てよ、俺が行く。今からだと、早くしないと帰りは夜になっちまうぞ。」

 背を返しかけたイヴをあわてて引き止めたレッドは、道を外れた藪の後ろを睨みつけて、唸るようにつぶやいた。

「それに、あの気配・・・まだいる。」と。


「じゃあ私も行くわ。蝋燭を頼まれたのは私だもの。」


「二人で行ってこいよ。何か変なのが付いて来てるみたいだけど、何かあってもお前なら平気だろ。」

 リューイが言った。


「ああ。なかなか姿を見せないところから、おおかた地元のコソ泥か何かだろ。」 






「また・・・別れるようですが・・・。」


「美しい娘ばかり連れて歩くとは、命知らずな。あれでは、この町でなくとも度々狙われるだろうに。先ほど別れていったブロンド髪の女の美貌などは特に目立つ。殿下の怒りをかう前に、早々に消さねば。それにしても・・・」

 そこまで言うと、中でも指揮をとっといる男は、これまで気になって仕方がなかったものに目をとめた。

「なんなんだ、あの黒ヒョウは・・・得体が知れん。ほかの者たちは無視してもいいだろう。どうせ男と子供だ。」






 リューイの眉がぴくり・・・と動いた。


 雑木林ぞうきばやしをじっと睨みつけるその顔を、カイルも気になって見上げる。


 だがやがて、いくらか気にかけながらもリューイが進行方向に向き直ると、カイルもこだわらずに歩きだした。










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