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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第13章  激戦の地で 〈 Ⅹ〉
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完了、運命の仲間探し



「テリー・・・そうか。」

 レッドは、セシリアを見た。

「たぶん、その人を俺も知っている。もしその人なら、俺はその人に剣術を教わり、そしてアイアスになった男だ。俺も二刀流だ。」


 レッドは、額の布を外して鷲の紋章を見せた。


「まあ本当に・・・確かにその鳥でしたわ。」

 この時セシリアの目には、記憶にある彼の顔が、レッドのその精悍な顔に重なって見えた。


「ねえ、僕のことは無し?」

 カイルが身を乗り出してきて言った。


「忘れるわけないだろう。お前は特別なんだから。」


 そう。唯一、別次元の戦闘能力を駆使できる少年であると共に、貴重な医師である。誰も死なせないということでは、正直最も頼もしく欠かせない存在だ。


 それをギルは、自分のことのように揚々と伝える。

「それから、このカイルだが、お世辞でなく名医と言える。たいていの病気や怪我は治してくれるから、よほどついてない限り誰も死なない。それに何より、そいつは精霊使いなんだ。信じられないだろうが。」


 セシリアは、あっと口を開けた。

 先ほどエミリオに〝あなたが目指していた場所・・・。〟と言われて一度思い出し、そして、今また思い出したことがあった。当初の予定を狂わす思わぬ不運に見舞われ、これまで無我夢中でやってきたためにそれどころではなく、今になるまで忘れていた。


「どうした・・・?」

 ギルが声をかけた。


「わたくしは・・・ジュノンという森を目指していました。」


「森を?」

 シャナイアも首を傾げて訊き返した。


 セシリアはうなずいて、北へと旅をしてきた訳を話し始める。

「ジュノンの森には、私が15の歳になるまでそばに仕えてくれました婆やがいるのです。彼女は術使いなので、きっと力になってくれるだろうと・・・彼女と一緒なら安全だと、お父様が。それで・・・。」


「ジュノン・・・どこかで聞いたような。」


「ロナバルス王国の隣国にある森だ。それでだろう、レッド。」

 顎に手を当てて考え初めたレッドに、ギルが答えた。


 ロナバルス王国にある町ユダは、アイアンギルスの組織所在地である。そして、北方にあるそこは、大陸全図で見ればアルバドル帝国からもそう遠くはない。


「ああ、そうだ。地図に載っていた。」


「メイリンのいるメルクローゼ公国の方向でもあるから、ついでに行くことができる。私達と旅を始めるにしても、一度そこへも寄ってみようか。その御方の今の様子も知っておきたいし、君のことも伝えておいた方がいいだろう。」

 エミリオが言った。


「あの・・・でも・・・。」 

 セシリアは、まだ素直な返事ができずにいる。


 ギルは呆れて腕を組んだ。

「セシリア、君さえ俺達と一緒が嫌でなければ、問題はないんだがな。どのみち、俺達は、君を独りにするなんてできないんだ。それに、君は必要だ。一緒に旅をしよう。」


 有無を言わせぬ口調に押されて、気が付けば、セシリアは「はい。」と首を縦に振っていた。そして周りにいる者達の顔を順ぐりにうかがってみれば、誰もが取るに足りないことのように笑顔を向けてくれている。


「それでいいかな?」

 仲間達がそろって頷いたのを確認すると、エミリオは改めてセシリアの素直な気持ちを確かめた。


「わたくしは・・・もし本当に構いませんのでしたら、一度、婆やに会いたいですわ。婆やとお話をして、わたくしは今後どうするのがよいのか、教えていただきたいですわ。事情はまだよく分かりませんけれど、皆さんが私を必要だと言ってくださる間は、ついて行きます。けれど、そのあと何処に落ち着けばいいのか・・・。」


「そうだな。その知り合いの了解も得て君の居場所を確保しておいた方が、俺達としても安心だしな。じゃあ婆やに会いに行って、それからメイリンを迎えにメルクローゼ公国を通る経路で、ヴェネッサへ帰るってことで。」


 いつものようにギルがまとめた。


 その時カイルは、冗談の一つも言いそうにない顔で、自分の黒い精霊石を握り締めながら、仲間一人一人の顔をじっと見つめていた。


 そのことにレッドが気付いた。

「何だ?」


「そろった・・・全員。」


「ああ。そろうには、そろったな。」


「けど、いったい何が起こるってんだろうな。」

 リューイが言った。


 カイルの信じ難い話に付き合って、言われるままに仲間を探し、こうして旅を続けてきた。最初は、誰もがカイルの言うアルタクティス伝説とやらを受け入れるなど、とてもできはしなかった。この長い旅の過程で徐々に意識するようにはなれたものの、こうしてその仲間を全て見つけ出した今となっても、カイルとの温度差はまだかなりあるように思われる・・・というのが、未だ彼らの心境だ。結局、自身が選ばれた特別な存在で、自身の中に神の力や精神が宿り、自身がいずれ救世主となるだろうなど大それた話を、いまひとつ信じきることができないままでいる。神々の中心であると告げられ、半ば否応無く神精術というものを習得したエミリオでさえ、正直なところ、半信半疑である思いは今なお変わりはしなかった。、


 そんなレッドやリューイであるので、もう二人はベッドの上に広げられた地図を覗き込み、早速予定を立てているギルと明日の相談をしている。


 一行が次に目指すは、ジュノンの森。


 そこはエヴァロンやイデュオン、そしてバルンと同じく、大陸中にある森の中でも、神が最初に創ったうちの一つとされる聖なる地。


 しかし、その神聖な森は、密かに地図には記されていない別名をもった。


 凍える森・・・という名を。












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