ブロンド美女、その名は
「あの・・・ちょっと混乱して・・・。わたくしは、夢を見ているのかしら。」
「確かに私達のことは真実ですが、どうか内密に。」と、エミリオ。
「そうですわね。とても言えませんわ、このようなこと・・・。」
エミリオとギルは、目を見合った。今となっては仲間の誰もが知っていることなので、変に隠さず正体を明かそう。そう決めていたのである。彼女もまた、これから仲間になろうというのだから。
「この他にも、あなたが信じ難い話をたくさんしなければなりません。それは、あなたを診察した少年から聞くことになります。一つ先に言っておくなら、あなたは、この先しばらくは私達と行動を共にすることになるでしょう。それを、どうか受け入れていただきたい。ですが、事が終われば、あなたが目指していた場所、あるいは、母国へ無事に送り届けると約束します。私達と旅を続けるその間に戦争が終わり、かの地が落ち着くならば。」
エミリオがそうギルと相談したことを伝えると、セシリア王女は悲しげに目を伏せた。
「ロザナリアへ帰ることはできませんわ。あなた方といることも・・・。わたくしと一緒にいれば、きっとまた・・・。」
王女は震える声でそう言うと、いきなり両手で顔を覆った。
「・・・なぜ・・・なぜ、あんな・・・いっそのこと、あの時一緒に死んでしまいたかった・・・。」
その嗚咽混じりの衝撃的な言葉を聞きとったエミリオとギルは、しばらく声もなく顔を見合わせる・・・。
「王女・・・。」
ギルは強引に彼女の手首をつかんだ。
顔から片手を引き剥がされたセシリア王女は、驚いて涙で濡れている瞳をぱちくりさせた。
「そんなことを言ってはいけない。辛く苦しいことだが、あなたのその命を守ろうと、我が身を顧みず戦ってくれた者がどれだけいたかを、よく思い出してみるといい。死にたいなどとは・・・言えなくなるはずだから。」
ギルのその言葉は、エミリオの胸にも痛烈に突き刺さってきた。
自分にもまた、過去にそういう者達がいてくれた。自分が死ねば全てが終わると考えたこともあった。エミリオは、自身が存在するだけで起こる争いに巻き込まれ、苦しむ者や命を絶たれた者がいることを己の罪と捉えており、彼らのことを生涯忘れず心に刻んで生きていくことを償いとし、そうすれば、その辛い記憶にひどく苦しめ続けられることになるのを罰と考えた。この罪と罰と償いは、エミリオにとって、もう逃げることなど決して許されないものとなっていた。
王女の潤んだ瞳に厳しい目を向けながら、真剣そのものの顔でそれを言ったギルは、今度はこともなげに笑ってみせた。
「だから、あなたは生きて・・・応えてやらないと。なにも一人で頑張る必要はない。それを次は俺達が助けるから。大丈夫、あいつらを知れば分かるさ。俺達の仲間の強さは、冗談抜きで普通じゃない。やることが普通でないのもいるがな。」
それは南のジャングルで育った金髪碧眼のアイツのこと。
「まあとにかく、みんな優しくてイイ奴らなのはすぐに分かる。君もきっと気に入る。」
そう口にしながら、ドアへ目を向けてみせたギル。その向こうからぞろぞろと近づいてくる気配に、セシリアも気付いた。
それからノックの音が響いて、返事を待たずにドアが開いた。
「ただいま。」と、まずミーアとリューイの元気のよい声がした。
「お嬢さん、気がついたんだな。」と、そのあとにレッド。
続いて、食事を載せたトレーを抱えているシャナイア。
「ご夫人が食べやすいものを用意してくれたから、いただきましょう。食べられるわよね。」
そして薬包紙を摘み上げながらカイルが進み出る。
「食事が済んだら、この薬を飲んで。」
「体が辛くなったら、遠慮なく言ってね。」と、癒しと治癒の力を持つイヴが最後に入室した。
ちょうど全員そろっていることを確認したギルは、またゆっくりと背中を起こした王女の肩に手を置いた。
「ほら、新しい仲間達だ。君の・・・。」
さあ今、仲間達に伝えなければ・・・。それについて思い悩んでいたエミリオは、このあいだにも言葉を探し、述べる順序を考えていた。
ところが、そんなエミリオをよそに、ギルはさらりとこう口にしたのである。
「ついに見つかったぞ、俺達の最後の仲間が。彼女だ。」と。
理解できない紹介のされ方ではあったが、促されるままに、セシリア王女もとりあえずは挨拶をすることに。
「わたくしは、セシリア・ロワンナ・バレル・ロザナリアと申します。あの・・・助けていただいて、ありがとうございます、皆さん。あ、あなたがお医者様ですね。」
カイルは唖然。
幼くて特に何とも思わないミーア以外は、誰もがポカンと口を開けて不可解な顔をしている。
それから三秒ほど経って・・・。
「はあっ !? 」
レッド、リューイ、シャナイア、それにカイルが、息ぴったりの大声をあげた。
イヴは声もでなかった。
そして一斉に目を大きくして、その人・・・セシリア王女殿下に注目。
「・・・というわけで、最後の仲間は、なんとロザナリア王国の王女様だ・・・噂の。」
「何が、というわけだっ。危うく目ん玉が飛び出るとこだったぞっ。」と、思わず怒鳴り散らしたレッドは、ハッとセシリア王女に目を向けた。「あ、いや、出し抜けに言うなって意味で、悪気はない・・・ございま・・・ああもうっ。」
「・・・ってことは、あの迷子の !? なかまぁっ !? 」
リューイも珍しく気が動転している。
「え・・・なに?ちょっと待って、仲間で、ロザナリアの王女様で、あの噂の王女様が仲間で・・・ほんとに王女様だったの !? 」
「わあ、だから綺麗だったんだ。」
こういう事態でもカイルは順応性が高い。
まるでしてやったりという顔のギルは、期待を裏切らなかった仲間達のこの反応に大笑いした。
「ははは、セシリア王女、訂正だ。ほら、愉快な仲間達だぞ、君の。」
もうツッコむ気にもならないレッドは、ただ参ったというように右手を顔にもっていく。なんせ皇子に王女に公爵令嬢に、も一つ言えば伯爵令息・・・もういちいち気にしていられない。
「またかよ・・・なんて集団だ。」




