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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第13章  激戦の地で 〈 Ⅹ〉
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久々の情報局で


 晴天の朝、二人で行動しているエミリオとギルの担当は、この国の地図と、夜営で必要な焚き火の燃料を手に入れることである。どんな場所でも条件でもすぐに発火でき、炎を長時間維持できるわけではない。天気が悪い日もある。そういう時こそ暖を取りたいものなので、質の良い炭や薪などを少しは持ち合わせて行くのである。


 そして、二人にはもう一つ目的があった。そのために、まず町役場の方へ向かい情報局を訪れた。大きな町へ入る機会と余裕があった時の、この二人の習慣である。それは二人にとって一種の恐怖でもあり、楽しみでもあった。久々のことで、二人の胸は複雑に高鳴っていた。


 そこでは持ち出し不可の図書館形式になっていて、入口に並んでいる掲示板や陳列ちんれつされた棚の書類から、記者達が数人体制で連携しながらまとめる、大陸中の公開情報を入手することができる。ただし、遠方であることや何らかの事情によって、かなりの時間差が生じることもある。それでも、一般人が大陸各国の情勢を知るには、今の時代ではこの方法しかなかった。傭兵稼業に精を出していた頃のレッドも、この方法で各国の情勢などを調べて、よく職探しのあてにしていたものだった。


 二人の目当ては、無論、主に互いの母国のことだ。国内の様子や、アルバドル帝国とエルファラム帝国の関係がどう動いているかを知ること。それが、二人がこの情報局を訪れた最大の理由である。


 だが、掲示板の方にはエドリース地方を中心とした近隣国の最新情報ばかりで、それ以外の地域の大きな動きは特にみられなかった。激戦の地にほど近いこの国にとって、それは当然注視すべきことで、目が離せないところなのだろう。


 そこでひと通り掲示板の情報に目を通した二人は、エドリース地方の情勢を把握し終えたあとで、書類の方を探しに行った。


 しかし、エルファラム帝国についてまとめられたものは、過去一年前まで全て借りられていた。エミリオは仕方なく、それが返されるまでほかについて調べておこうと、これまで仲間と共に関わってきた国の中でも、特に以後の成り行きが気になるモルドドゥーロ大公国についての書類を手に取った。


 一方、アルバドル帝国の最新情報を載せたファイルを運良く持ち出すことができたギルは、エミリオを促して席についた。


「モルドドゥーロ大公国のものだな。」

 エミリオがそれを開こうとしたところで、ギルが気付いて声をかけた。


「ああ。その後が気になってね。だが、あれからここまでの移動距離を考えると、大きな動きがあってもまだ記事にはできないと思うが。」


 ギルも自分のことは少し置いておいて、向かいから身を乗り出した。


 ペラペラとページをめくるエミリオの面上に、ある時、笑みが浮かんだ。つい二日前にまとめられたばかりの記事である。


「読んでくれ。」 


 ギルが頼むと、エミリオは要点をかいつまんで声に出した。

「タナイス島から豊富な資源や有用物が発見された。今後はそれらを経済に生かし、その際協力にあたったダルアバス王国との本格的な貿易に乗り出す予定である。」


「貿易船のことは船の中で早速相談していたからな。あれから問題なく事が運んだようでよかった。」

 ギルは背凭れに寄りかかって席に落ち着いた。


「私達がヴェネッサへ帰り着いた頃には、豊かに生まれ変わったモルドドゥーロの記事が見られるだろうね・・・ん?」

 急に、エミリオがらしくないおかしな声を出した。


「なんだ、変な唸り声なんか上げて。」


 エミリオは一瞬、奇妙な一文を見たと思った。手元のその書類に指を走らせ、ギルの顔にチラと目を向けてから、さらに新しい記事を読み上げていく。

「遠方との取引も可能にした政府は、続いてダルアバス王国と同盟関係にあるアルバドル帝国との貿易の実現を目指し、アルバドル帝国のロベルト皇帝や、次期帝位継承者であるアナリス皇女との直接会談に向けて、調整を進めている・・・。」

 エミリオはその箇所を読み上げるとき、またギルの目を見た。そして最後は、尾を引くように読み終えた。


 互いに目を見合っているそのまま、二人は黙り込んだ。


「次期帝位継承者・・・アナリス。」


 急に、アルバドル帝国の資料をあわててめくりだすギル。

 今度は、エミリオが身を乗り出す番である。


 ギルは、すぐに知りたいことを見つけることができた。


「やった・・・。」


 ギルは少し黙読してから、クルリとファイルを回してエミリオに見せた。



 それにはギルベルト皇子が遠乗りで不慮の事故に遭い亡くなったことや、そのため、アナリス皇女が次期皇帝の座に繰り上がったことなどが記されていた。そして、ギルベルト皇子の葬儀がしめやかに執り行われた日、城門の前は悲しみに暮れる人々で犇めき合い、帝国民達は、その日一日中そこから離れようとせず涙を流し続けたということも。


「アルバドル帝国の人々が気の毒でならないよ。君は、これほどまでに国民に愛されているというのに。」


「それは有り難いが、遠乗りで不慮の事故ってなんだ。まあ、戦でお前以外の男に殺されたことにされるより、マシか。」


「以前、ディオマルク王子が、ロベルト皇帝陛下に君のことを見たと・・・たくさんの仲間と楽しそうだったと伝えると、陛下は最後に笑みを浮かべたと言っていたが・・・その時、君のことを諦める決心がついたのだろうね。」


 エミリオは、ギルの〝家出〟が、単なる愚行ではなく、価値ある強い信念や深い事情のもとに決断したことであるのを、陛下が理解してくれた・・・というニュアンスを込めて言った。


「異を唱える者も多数いたろうがな。」

「ともあれ、これでシャナイアも安心するだろう。いつ打ち明けるつもりだい。」

「そのうちな。」

「早く教えてあげればいいのに。」

「自分が死んだことにされてるのを、嬉しそうに言うのもおかしいだろう。だから、言い方を考えてからにするよ。」










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