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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第13章  激戦の地で 〈 Ⅹ〉
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三人の恩人と波瀾の過去



 二人の会話には、興味をそそられるワードがいくつも出てくる。そのため、周りにいる若者や少年たちも聞き耳を立てているのに、ギルやエミリオは気付いていた。


 そのうちトヴィが身を乗り出してきて、「ねえ、話聞かせてよ。みんなお兄ちゃん達の話、聞きたがってるよ。」


 レッドは、「たいした話は、何もないさ。」と、苦く笑った。


 すると、ギルが言った。

「レッド、もし構わなければ、その三人の命の恩人について俺も興味がある。ジェラール殿とテオじいさんの関係にも。」


 実は、ギルがその会話に興味を引かれた一番の理由は、レッドの口からテリーという名前が出たこと。この時、ギルとカイルは思わず目を見合っていた。なぜなら、以前、二人で行ったエヴァロンの森で見つけた墓が、レッドと関係があるかもしれない・・・という予感が、この時確信に変わったからである。二人はその時、何か訳ありな感じから下手にきかないようにしようと話していたため、これまでは墓を見つけたことをあえて黙っていたのだ。


「そう言われてもなあ・・・何から話していいのか・・・。」


 レッドは少し黙って考えた・・・が、周りを見てみれば断れない雰囲気。ここは空気を読むほか仕方ない・・・そう思い、レッドは観念して淡々と語り始めた。


「前にも言ったが、俺の故郷はネヴィルスラム王国のサガという小さな町だ。だが、その町はもう無い。ガザンベルクに奪われ、焼き払われたからだ。その命令を下したのが、以前、ヴェネッサで魔物を操っていた男だ。あいつの名はダルレイ。昔は、ガザンベルク帝国の総督だったらしい。そして、今ここにいるジェラールは、ガザンベルク帝国の騎兵軍大将。ダルレイがサガの町を滅ぼしに来たあの日、まだガキだった俺はヤツにたてついて、見せしめに鞭打たれた。最後に、ヤツは俺を殺せと命じて去っていったが、その寸前で偶然やってきたこのジェラールに、俺は救われたんだ。」


「ジェラール殿が最初の恩人ってわけか。」


 ギルの言葉にレッドはうなずいて、話を続けた。


「その数日後。ジェラールは俺を連れて、山賊のかしらのライデルのもとへ向かった。サガの町の大人がみな連れて行かれて、孤児みなしごとなった俺を預けるために。」


「で、なぜ将軍閣下と、その山賊の彼が知り合いなんだ? 住む世界が違うだろうに。」と、ギル。


 それに答えたのは、ジェラールだった。

「私は休暇を得られると、たまに少しだけ遠出をする趣味があってね。」


「少しじゃないだろう。」と、呆れたレッドがそこで指摘した。「思ってたんだが、俺の記憶によるとあの頃からずっと大将だろう?しょっちゅうウロウロしてていいのかよ。ライデルが、ジェラールは大陸中をウロついてる放浪者だってあんたの話をしてくれたことがあったが。」


「ウロウロとは何だ。」ジェラールは笑い声を漏らして答えた。「実は、私は皇帝の遠い親戚にあたるのでね、特別なんだ。頼りになる大将はほかにもいるしね。それに、ただの趣味ではないぞ。実は他国の情勢調査だよ。」


「大将がやることじゃないだろう。その治らない放浪癖に、周りはただを上げただけなんじゃないのか。」


「それもあるな。」ジェラールは楽しそうに笑った。「レッド、あの一味に育てられたおかげで面白い男になったな。あいつと話しているようだ。」


 これには、ニルスの酒場で一度会っていて、ライデルのことを知っているギルやリューイも笑い声を上げた。


「もちろん、その時はそれなりに変装をして一人で行くわけだが、そのせいで、ライデルは私の正体に気づくことなく、たまたますっかり気が合ってしまって、それからはよき旧友だ。」


「ライデルは詐欺にあったと、さんざん愚痴ってたけどな。あれからも。」


「言ってるだけさ。ヤツのことは数日も一緒にいればよく分かった。本当のところは情にほだされやすい、強くて優しい善人だ。それゆえ君を預けたのだから。」


「確かにな。ライデルは、俺には一切盗みをさせなかったよ。喧嘩の仕方は熱心に教えてくれるくせに、同じならず者同士の死闘にさえ手出しはさせなかった。」


「君を強くしたのは、君を一人で生きていけるようにしてくれと私が頼んだからだろう。あいつめ・・・そうか、私の言葉を覚えていてくれたんだな。」


「それで、山賊のおやじさんが二人目か。」

 今度はリューイが言った。


「ああ。ライデルはある意味、育ての親でもある。俺はライデルに育てられ、14歳の時に、アイアスのテリーに出会った。テリーもまたライデルと馬が合って、一晩一緒にいた。その時にテリーは俺のことが気になったらしく、俺を引き取りたいと言ってくれたんだ。そうして俺は彼に剣術を教わり、三年後にアイアンギルスの試験を受け、やがてその資格を得て組織に入った。」


 ここで声は止まったが、レッドの胸の内では自然と続きが語られていた。

 そのあと、共に戦った戦場でテリーは死んだ。俺を庇って・・・と。


 知らずと視線を落として暗い顔をしてしまったレッドは、そのせいで周りが妙な空気になったことに気付き、あわてて顔を上げる。


「俺に言えるのは、ここまでだ。」


 急に様子がおかしくなったレッドに、ジェラールは気付いていた。

 それで、「じゃあ・・・」と一同の気を引き、「魔物を操っていダルレイと、私と、そしてテオ殿の関係だが・・・ダルレイは妖術師だ。そういう者を聞いたことはあるかい。」


 ジェラールはトヴィを見て、周りの子供達にも目を向ける。


 子供たちはみな首を横に振った。


 すると、不気味に口元を緩めたジェラールは、おどろおどろしい声できいた。

「怖い話は平気かな、坊やたち。」


 幼い子供たちの顔が、気の毒なほど強張ってしまった。中にはその場にいる青年たちに隠れたり、しがみついたりしだす子も。だがトヴィほどの少年になると、逆にわくわくした様子で目をきらめかせている子もいる。


 ジェラールは口調を改め、「冗談だよ。それについての詳しい話はしないから。」と言った。だが本当のところは、奴隷達の反乱について知り、傷ついたレッドを配慮してのことだ。

「これは受け売りだが、世の中には、霊能力というものを持つ者がいる。中でも術を使うことのできる者、操霊術師そうれいじゅつしや、精霊使い、最も強力だと言われている神精術師しんせいじゅつしなどは知っているね。ここのところは、カイルの方が詳しいだろう。」


 その瞬間、カイルは注目を浴びる羽目に。

「あ・・・僕、精霊使いでもあるから・・・信じる?」


 若者たちはざわつき、少年たちが騒ぎ出す。


「えーっ、すごい、お兄ちゃん精霊使いなの ⁉ 何ができるの ⁉ 」


 たちまちカイルが質問攻めにあって困っていると、ギルがとりあえずは助け舟を出してやった。

「ごめんな坊やたち、おじさんの話が先でもいいか。その話は、またあとでゆっくりしてもらってくれ。」


「そっか。ごめんなさい。」


 みな聞き分けがよい。


「カイルと、それにエミリオ。君たち二人のことはテオ殿から聞いてはいたが、レッドやほかの者については、詳しい話はされなかった。」


 ジェラールは一行を見てそう言うと、視線を戻した。


「では、続きを。今では大陸屈指の強国と知られているガザンベルク帝国だが、その帝都は数年前に陥落しかけたことがある。だが、原因は戦争ではない。ダルレイが、妖術というものによって国を乗っ取ろうとしたからだ。彼は霊能力者ではなかったが、しかし、そういう者でも妖術を学べば、闇の生物を生み出すことができるらしい。そうして、城はダルレイの放った魔物の襲撃を受け、皇帝は幽閉され、私を含む軍の上官や有力な騎士たちもみな地下牢に閉じ込められた。そんな中、私は決死の思いで脱出を図った。以前、旅先で知り合った神精術師に助けを求めるために。それが、そこにいるカイルの祖父であるテオ殿だ。」


 ジェラールはまたカイルを見て、そして、エミリオを見た。


 エミリオはその時、彼のその眼差しが何か言いたげであり、その意味するところにもだいたい気付いていた。


 ジェラールは話を続ける。

「そうして、私と共にダルレイのもとへ向かったテオ殿は、城のそばに辿り着くとそこでただちに神精術というものを行った。そしてまず、地下牢に閉じ込められている強者つわものたちを救出して戦力をそろえた我々は、忌まわしい悪夢を終わらせるために戦った。やがて全てが終わった時、城内のある一室で、異常に憔悴しょうすいしきったダルレイを発見したんだ。何が起こったのかは分からないが、どうもテオ殿の動きに気づいて対抗しようとしたが、失敗したのではということだった。その後、ダルレイは追放された。」


 そのあと、焚き火のパチパチと鳴る音だけが、少しのあいだ鮮明に浮かび上がった。


「物語は、ここまでだ。」 










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