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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第13章  激戦の地で 〈 Ⅹ〉
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お前らか・・・


 何事かと、彼らが開けっ放しの玄関や窓に視線を飛ばした時、ひどく取り乱した男が一人、血相を変えて駆け込んできた。


「もう来やがった!早く東の森へ逃げろ、みんな殺されるぞ!」

「何のこと ⁉ 」

 少女が恐怖のあまり悲鳴のような声で訊き返した。

「バルデロスの奴らだ!まだ連絡が来てないのか ⁉ 今朝、ルデリの村が全滅した!今はとにかく逃げるしかない!」


 男がそう警告して去ったあとすぐ、近くで絶叫が上がった。同時に武装した兵士達のたてる騒音がしたかと思うと、それらがたちまちにして近付いてくるのが分かった。


「だめ、間に合わないわっ!」

 おろおろしながらも、婦人は真っ先に子供達のそばへ。


 やはりそのうちにも、家の玄関に歩兵が五人現れた。その全員が手にしている抜き身の長剣は、たっぷりと血に濡れたままだ。


 少女が金切り声を上げながら立ち上がり、椅子が倒れて大きな音をたてた。


「男が二人か。女子供は殺せ。」

 異様に淡々とした声で、そんな命令が下った。


「なんだとぉ・・・。」

 重低音でレッドが唸る。


「食料も調達 —— 」


 ガッ!


 いきなり、兵士が一人倒れた。


 何が起こったのか、その瞬間はレッドにさえ分からなかった・・・が、リューイの姿は、いつの間にやら兵士達と同じ場所にある。


 その兵士は、もう息をしてはいなかった。一撃でリューイはやってしまったのだ。


 思いもよらぬことに、リューイを目の前にしていながら命令を下した男、及びほかの兵士の動きも止まった。


 リューイは、もの凄い憎悪を放っている。


 マズい・・・と、レッドは冷静に感じた。ヤツは、自身を制御できなくなっている。本気を出した姿は何度も見ているが、その動きは確かに武術と呼べるものだった。それを超えて、あの超人パワーを無闇やたらに暴走させればどうなるのか・・・。だが相手は軍隊。自身も無事では済まないだろう。


「お前らか・・・。」

 手を突き出してまた一人の顔面を鷲掴んだリューイは、その兵士をキッと睨みつけた。

「お前らかあぁっ ‼ 」


 リューイは顔を掴んでいる男を向かいの壁に思いきりぶつけた。

 男は、物凄い勢いで壁に叩きつけられていった。


 我に返ったリーダーの、「構わん、殺れ!」という焦った声にも反射的に従ったさらに一人が、あわてて剣を振り上げる。だがそれはやすやすと片手で阻止され、リューイのもう片手は男の首に伸びていた。


 やはり武術の動きではない・・・!


 感情のままに起こしている行動だとレッドは見て取り、さすがに焦った。こんなリューイを止められる怪物がいるだろうか。


「なんという・・・⁉」


 リーダーの口からは、あとの言葉は出てこなかった。あまりの凶暴さに、それにあてはまる言葉などなかった。足元には最初に殺された部下の死体が横たわり、鮮血で汚れている壁の下にも頭が血まみれの、そして目の前にも手首と喉をつかまれたまま、まるで操り人形のようにダラリとしている部下の姿が・・・⁉


 この男は瞬く間に、なんと三人もの兵士を素手で殺してしまったのだ!


 絞め殺した兵士の死体を邪険に投げ捨てたリューイは、残る二人に目を向けた。

 男達も急いで剣を構え直したが、そうしながらリーダーの男は後ずさると、「誰かおらんか!手を貸せ!」と、入り口から外へ向かって叫んだ。


 すぐに四人の兵士が加わった。


「あの男は危険だ!一度にかかれ!」


 その号令と共にリューイも身構えたのを見ると、すでに左の剣を引き抜いていたレッドはあわてて言った。

「リューイ、俺がやる!」

 レッドは、これ以上リューイの怒りをたかぶらせたら、この相棒はそのあといったい何をしでかすか想像もつかないと思った。取り返しのつかないことになるという不安が、脳裏を駆け巡った。


 すみやかに命令に従い、兵士達は一斉に斬りかかろうと剣を振りかざす。

 レッドも素早く足元を蹴った。


 カキーン!カキーンッ!

 ガッ、グシュッ!ザクッ!


 甲高い剣戟けんげきの音が響いたあと、レッドの剣は目にも留まらぬ動きで一人を突き刺し、次いでまた一人を斬り裂いている。


「ぐえっ・・・!」

「ぐああっ ⁉」


 レッドが腕を振るう度に、敵がバッタバッタと斬られ倒れていく。息もつかせぬ身ごなしと早業はやわざ。狙いに一寸の狂いもない。

 その姿にまた目も口も大きく開けたまま、トヴィは硬直して微動だにせず見入っていた。少年は、例えようの無い衝撃に見舞われた。


 レッドは、手間をかけずに秒殺ですぐに片をつけたが、二人ほど足りなかったと思った。それで嫌な予感とともに相棒を見てみると、案の定、そこの壁際に二体転がっている。すでにリューイは、破壊的な威力をもつ得意の回し蹴りやハイキックを、ものの見事にやってのけたあとである。形相ぎょうそうも更に凄みを増して、これでは鬼人と見紛われても仕方がないほどだ。


 外では、まだしきりに悲鳴が飛び交っている


 レッドの見ている前で、リューイがそばに立て掛けてあるホウキをつかんだ。


 レッドはハッとした。

「待てっ、早まるな!」


「うあーっ!」


 注意も虚しく、リューイはたけり狂った雄叫びを上げながら、まるで悪霊にでも憑かれたかのように飛び出し行ってしまった。


「リューイ!」

 レッドは、玄関戸につかみかかって慌てて外へ身を乗り出したが、猛然と駆け抜けていくリューイの周りは、既に阿鼻叫喚あびきょうかんという有様である。

「ホウキなんかで対抗しきれるかよ、バカッ。」


 レッドは無鉄砲な相棒を懸念しつつも、ルデリの村のこと、そしてトヴィの思いが頭をよぎり、さらにミーアとほかの仲間達のことを心配した。ミーアと仲間達の方は、まず問題ないと信じることはできた。だがリューイは・・・いくらヤツの強さがバケモノじみて異常でも、相手は軍隊。弓矢という飛び道具も持っている。そのうち狙い撃ちにされるがオチだ。


 レッドがどうすべきかと悩んでいると、トヴィのやっと押し出したような、おののいた声が聞こえた。


「お、おに、にいちゃん・・・。」


 レッドは、親子を振り返った。


 母と娘は床にへたり込んで互いにひしと抱き合ったまま、顔面蒼白でレッドを見つめていた。

 そしてトヴィは・・・どうにか仁王立ちだったが、あからさまに体が強張っている。


「立っていられたのか。そうやって。」


 トヴィは、今はどうしようもなくガクガクしながら頷いた。


 レッドの顔が頼もしい笑みに変わった。

「立派だ。今日のところは俺達がこの村を守る。だから、お前は母さんと姉さんを守ってやれ。」


 レッドは別の部屋に目を向けた。玄関に同胞の死体がゴロゴロ転がっている家など不吉で、よくよく見ようとする者などいないだろう。ただ、台所はあさられる恐れがある。


「もう逃げるより隠れた方がいい。台所以外の部屋で、音をたてずにじっとしていろ。」

「わわわ、わかっ、分かった。」

「よし。」

 レッドはもう一方の剣をもスラリと引き抜きながら、一歩外へ出た。

 そこでふとトヴィを振り返り、「ちゃんと守りきれたら、あとで剣を教えてやる。」


 そうしてレッドは、ひとまずリューイのことは運に任せて、戦いながら仲間達のもとへ急いだ。この村全体を救うには、あの強者つわもの達とうまく連携する必要がある。











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