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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第12章  アルザスの宝剣  〈 Ⅸ〉  
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立ちはだかる脅威


 樹海の道へ入ってすぐのことだ。


 やぶの中から、次々と同じ服装の集団が現れたのである。行く手だけでなく後ろにも回り込まれ、そうして一行は、あっという間に、武器を持った何人もの兵士に取り囲まれた。


 そう、同じ服装というのは海賊かいぞくよそおいなどではなく、今度は、その誰もが堂々と軍服を見せているのだ。


「ったく、しつけえな。」

 リューイが、うんざりだという顔ではきてた。


 最後に彼らの前に進み出てきたのは、派手な衣装のずんぐり太った男だった。きらびやかな装身具そうしんぐの数々を身にまとっている。


 一行には、それが誰であるかは目にする前から分かっている。

 黒幕・・・すなわち、メサロバキア王国の王。


 その男ジェイコフは、アランの手にあるものに気づくや、たいそう驚いた顔をした。だがそれも一瞬だけで、あとは不気味にほくそえんだ。なにしろ、それは金でおおわれているのだから。


「アラン卿、あのつぼは確か、我が国に降伏こうふくを意味して差し出された代物の一つではございませんでしたかな。それを、無断で持ち帰られては困りますな。国の価値ある財産と引き換えに、我が国の攻撃を阻止そしするという意味の約束をしたはずでは?まだほかに、それほどの財産をお持ちであったとは契約違反ですな。我ら一族がその剣をいただいても、異議はありますまい。」

 ジェイコフはアランに歩み寄ると、揶揄やゆの口調で言った。


 これに、リューイが黙っているはずもなかった。言っていることが理解不可能でもだ。

「ざけんな、てめえっ!ぶっとばすぞっ!」

えろ、リューイ!」

 ずいと踏み出しかけたリューイに、ギルが慌てて羽交はがい絞めをしかけた。


 この島の価値と、国宝を持ち出せたことを知られれば、当然こうなる。考えなければならない問題ではあった。個人が力任せに動いてどうにかできるものではないし、ましてや、どんなに外道げどうであろうと国王と名の付く者をなぐり倒せば、ますます問題は大きくなるだけだ。


 そのジェイコフは、リューイに向かって、「この無礼者は何だ。」といった一瞥いちべつを投げかけたがそれだけで、相手にする気にもならないという顔をしている。


 一方アランは、苦渋くじゅうに満ちた表情で突っ立っていた。だが、重くのしかかるこのひどい重圧に打ち勝ち、言わなければならなかった。


 アランは勇気を出して口を開いた。

「我らの国では・・・その後、貧しさのあまり多くの者が同じ病に倒れました。そして今なお、その病に苦しむ人々が大勢いるのです。満足な治療も受けられず、食事を取ることも眠ることもままならない国民たちです。彼らを救うには、この剣しかないのです。どうかこの剣だけは・・・。」


「それはなにかな。のせいだとでも。」

「いえ・・・そうでは・・・。」

 アランは口籠くちごもった。 


「おお、なんとあさましく不潔な国だ。乞食こじきあふれかえっておるとは。」

 ジェイコフはわざと大袈裟おおげさなげいてみせたあと、冷酷れいこく眼差まなざしをアランに向けた。

 そして、冷ややかにこう言い放ったのである。

「そうなると承知のうえでの無血降伏では?弱小国でも生き残れる道はありましょう。素直に余の言うことを聞いておれば、少なくとも国民を飢えと病で苦しめることもなかったであろうに。大公である父と、己の不甲斐ふがいなさを呪うがいい。」


 〝嘘をつけ。〟と、レッドはそのとんでもないペテン師をキッとにらみつけた。そんな口車くちぐるまに乗っていたり、ただ脅迫きょうはくに負けていれば、モルドドゥーロの国民は、さらに悲惨な終わりの無い地獄を見ることになっていたはずだ。メサロバキアはモルドドゥーロを蹴倒けたおし、その全てを力づくで手に入れることだってできただろう。こんな卑劣ひれつな男でも説得してそれを阻止し、何もかもなげうって国民を守ったその力量はむしろ称賛に値すると、レッドは思った。


 しかしアランは、真っ赤になってうつむいていた。激しい憎悪ぞうおと悲しみと羞恥しゅうちで、目がくらみそうになっていた。


「うがーっ、うががっ、うがっ、うがーっ!」


 リューイの口をふさいでいるギルの指の隙間すきまからは、怒りにえたける声が暴走している。ギル自身、本当のところは、この野獣をすぐにでも解放してやりたいほど、はらわたが煮えくり返っていた。


 だがギルは、そこでふと相棒の様子に気付いた時、怒りよりも驚きの方が勝って思わず冷静になれた。恐ろしいことに、あの温厚なエミリオが、ヘルクトロイの戦いでも見せなかったすさまじい目つきで、いきどおりもあらわたたずんでいるのである。こんなことは恐らくかつてなかったろう。


 ギルはそれから、レッドに視線を転じた。もともとキツイ顔作かおつくりが、さらにすごみを増していよいよ鬼人のようになり、そのうえ本人は気付いているのか、剣のつかに手がかかりかけている。


 そのあとギルは、ハッとしてカイルを見た。よもや怒りのままに指やら口やらを動かして、ハチャメチャな呪術をやらかすのでは・・・。だが、さすがにそれは無かった。カイルの視線は、この時エミリオの顔にあった。どうやら自分と同じ思いでいるらしい・・・と、ギルは見て取った。










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