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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第12章  アルザスの宝剣  〈 Ⅸ〉  
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火山神殿


 アランは、差し込んだかぎを回す前に、一度エミリオやギルの顔をうかがったが、やがて恐る恐る指を動かした。


 ゴッ・・・


 一瞬、その時、何か音がした・・・と誰もが思った。


 男は、扉を動かしてみるよう命じた。

 その石の扉には鉄の輪が片側に三つずつ、二枚で六つ付いている。複数人で力を合わせて引っ張り開けろということらしい。つまりけっこうな重量があると、そこにいる全ての者に理解させた。


 それで、初めは四人が一緒にそのリングに指をかけたが、一行いっこうが見つめている前で男たちはさかんにうなり声を上げ、四人が六人になって、何度も交替を繰り返し始めたのである。やはり、そうやすやすと動かせるものではないようだ・・・と、ギルは思い、リューイに目を向けた。この男ならどうだろうと。


 すると頑張った甲斐かいあって、やがて扉の向こうからほの白い光が漏れてきた。


 とたんに、男たちの目の色が変わった。さらに加わった二人の男が、開いた隙間すきまに指をかけ、結局八人がかりで、顔を真っ赤にしながらそれを無我夢中で引き開けだしたのである。自分のものになるわけでもないというのに、この奥にあるのが宝の山に違いないと信じきっているそのみにくい姿に、ギルやレッドは思わず顔をしかめた。呆気あっけにとられて見ている一行いっこうの目には、悪党から聖なるものを守ろうと、その石の扉が必死で抵抗しているようにさえ映ったほどである。


 だが無念にも、男たちが一歩また一歩と下がるにつれて、それは確かに少しずつ引き開けられていた。


 そして見えた、なんとも信じがたい光景。

 巨大な扉の向こう側は、これぞまさしく〝火山神殿〟だったのである。


 入口をくぐると、そこはもう美しく荘厳そうごんな神殿の中。整然せいぜんと立ち並ぶ円柱の一つ一つには見事な彫刻ちょうこくほどこされ、壁も天井も神殿のそれと変わらないものだったが、たちまち視線が集中したのは、この奥。そこには大理石だいりせきでできた二つの台があり、その上に盛られたあふれんばかりの金銀財宝の山に、多くの者がまず目を奪われた。金塊きんかいのピラミッドや、色とりどりの宝石の数々が、中央を真っ直ぐに歩いて行けばたどり着くそこで、魅惑みわく的に輝いているのである。それに、辺りには大きな翡翠ひすい黒曜石こくようせき、それに水晶すいしょうかたまりもゴロゴロしている。


 そして、その二つの台の間には祭壇さいだんがあった。それらは頭上高くから降り注ぐかすかな光に包まれて白くぼやけ、この世のものとは思えない美しさを放っている。遥か頭上に、自然にできた採光さいこうの穴がいくつもあり、そこからほのかな光が射し込んでくるおかげで、えもいわれぬ神秘的な空間をつくり出すことができているのである。神の国・・・と、形容しても過言かごんではない。確かに、ここは選ばれた者しか立ち入れない禁断の場所だと、エミリオやギルは納得なっとくした。


 しかし、メサロバキア国王の側近そっきんは、戸惑とまどいもせず真っ先に踏み込んで行った。

「おおっ・・・。」と、驚きのあまり小さなうめき声を上げて絶句ぜっくしている。

 男はほうけたように、目も口も大きく開けたまま周りを見渡していたが、すぐに祭壇に目を留めた。


 そこにあるのは、ただの祭壇ではなかった。


 よく見ると、その上には一本の剣が横たわっている。剣先けんさきの無い、金でおおわれたつるぎだ。


 なんと、祭壇に武器をそなえて・・・いや、あがめているようなのである。それは、真上から射し込む白い光の中にいて、神秘的なばかりでなく気高く威厳いげんに満ちていた。認められた者しか触れてはならないもの・・・一行にはそんな畏怖いふの念さえ起こさせるものだったが、男をたちまち魅了したのは、左右に積まれている金塊きんかいでも宝石でもなく、何よりもその剣だったのである。


「あれは・・・まさしく伝説のつるぎ・・・。」


 少しばかりの憧憬どうけいの念と、あからさまな欲望をたたえて、男はさらに目をみはった。


 兵士たちも、連中を捕らえておくことも忘れて次々と中へ入っていき、そのあとに一行も続いた。


 入口をくぐると、右左から伸びている幅の広い階段があった。それが中央へ向かってゆるやかにカーブしている。そこを下りて真っ直ぐに進んで行けば、ついには、奥にある宝や祭壇に至る。


 普段はひたい紋章もんしょうかくしている布を外して、リューイの傷口をしばってやっていたレッドは、そのリューイと共に最後についた。


「すごいな・・・金塊きんかいの山だぜ。」


 踏み外さないよう足元を確かめてから視線を上げて、レッドも宝の山を見た。

 二人は、右から一緒に階段を下りていった。


「キンカイ?ああ、あれのことか。金ピカじゃなくて、キンカイってゆうんだな。」


 リューイがまた信じられない発言をした。レッドが言葉もなくあきれていると、そこでもの問いたげな顔を向けてきたリューイと目が合った。


「金ピカって何?」


 こんな時になんでまたこいつは・・・。レッドは大儀たいぎそうにため息をついた。だいたい、教えてもらわなくても分かるだろうと。


「金ピカってゆうのは物のことじゃなくてだな、あんなふうにキラキラピカピカ光ってるものを見た時の感じを言うんだよ。」


 そんな会話をしながら、二人は悠長ゆうちょうに階段を下りた。


 だが、思わず気を抜いたその時。


 また嫌な予感がして、同時に振り返った。


 すぐ背後から、不気味ぶきみな音が響いてきたからだ。


 それは、ついさっき聞いた音・・・石の扉を開けた時の音だ。ただ違ったのは、重たくにぶい音でありながら、今度のそれは途切とぎれもせずスムーズに響いたことだった。


 ゴゴゴゴ・・・ゴッ


 レッドもリューイも、声もなく仰天ぎょうてんしていた。今起こったことを、わずかに見ることができたからである。


 自動的に閉まりゆく、扉を。


 驚いたことに、あれほど重厚じゅうこうな石の扉が、誰もがあっと思ったつかの間に閉じてしまった。


 数秒ののち、ゆっくりと首を戻したレッドとリューイは、同じく気づいて後ろを向き、まだそのままでいるエミリオやギル、そしてアランやカイルの、一様いちよう強張こわばった顔を見た。やはり声も出ない様子である。


 こうして彼らが、この《禁断の火山神殿》に閉じ込められたのだ・・・と理解するまで、少し時間がかかった。 


「な、なんだ・・・。」


 かげの将軍とやらの恍惚こうこつとしていた眼差まなざしは、この時、まるでおびえきった小動物のような情けのないものになっていた。ほかの兵士たちも例外ではなく、誰もかれもが、どうしようもなくうろたえだしている。


 顔を見合っただけの一行いっこうの方は、みな早くも我に返って事態を受け止めていた。

 ギルは、アランが共にいる以上、また扉を開く方法か、ほかにここから出られるすべが何かあるはずだと思案しあんしていたし、その前にレッドは、しん後継者こうけいしゃも同然の者に対するこの仕打ち・・・とまたあきれ、リューイは、仲間の誰かが何とかしてくれるだろと、暢気のんきなことを考えていた。


 そして、エミリオとカイル。この二人は、そんなことを考えたり思うよりも先に、サッと異変に気づいていた。


「エミリオ・・・何か来るよ。」

 カイルがささやきかける。


「ああ・・・。」

 エミリオは室内のすみに目を向けた。










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