表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第12章  アルザスの宝剣  〈 Ⅸ〉  
437/587

禁断の扉を開ける鍵



 ギルとエミリオもさやからスラリと剣を抜いたが、リューイだけはまだ悠長ゆうちょうに腰を落ち着かせていた。リューイは、カイルの手当てをきちんと受けて一息ひといきつきたいというのに、それができずにとにかく立腹りっぷくしていた。


 カイルとアランが邪魔にならないように離れると、戦える男たちの目つきがサッと鋭いものに変わる。その三人は、敵に応戦する形でそれぞれ違う方向へ走り出だした。


 カキーン、カキーンッ!


 洞窟内に反響する剣戟けんげきの音。その中にいるリューイの頭上からも白刃はくじんが襲いかかった。

 素早くやりを拾い上げたリューイは、振り下ろされたそれをいち早く弾き飛ばし、いで男の胴体を横殴よこなぐりにしていた。ほかにも数人の敵がいたが、その動きや手捌てさばきは誰の目にも留まらなかった。

 おかげで兵士たちが言葉を忘れたようになり、周りが奇妙に静まり返った。


 そんな中、リューイは急ぎもせずに立ち上がった。そして猛烈なスピードで長槍ながやりを回転させながら、いつにも増して荒っぽくこう言った。

「さっきこれを見てたんじゃないのか。かかってくるならやってやるけどな、面倒くせえからまとめていくぞ。覚悟きめとけ。」


 敵はいよいよ怖気おじけづいた・・・が、立場たちば上向かっていくほかはない。そう理解しているメサロバキアの兵士たちは、指揮官、つまり陰の将軍と名乗った男をのぞき見ると、吹っ切れたように雄叫おたけびを上げた。


 しかし、リューイの言葉は嘘ではなかった。リューイはもう無駄に動かず、棒術ぼうじゅつ足技あしわざまで加えて、複数人を一度に攻撃している。


 一方、レッドは妙案みょうあんも浮かばず、実のところ、こうなってはどうすればいいのか途方とほうに暮れていた。おとなしく相手の言うことをきけば何も変えられないし、強引ごういんに目的を果たせば、今度こそ争いになるかもしれない。その時は、もっと大きな争いだ。


 その懸念けねんは、同じように手加減しているエミリオとギルにもずっとある。この二人は、とにかく、もう一度話し合う機会を得るほかないと思った。それも、互いの国の代表が冷静になれる場で。そのためには、財宝が実在するかどうかを確かめるのは自分たちでなければならないし、相手にはいったん引き下がってもらわなければ。自分たちが今ここで問題を増やせば、話し合いに応じてもらうのはさらに難しくなるだろう。そう思い、陰の将軍とやらが、ここでの戦いにおいて勝ち目がないのをさっさと理解し、退却たいきゃくしてくれるのを願った。


 ガッ、カキーン! 


 傷口を押さえて悲鳴を上げる者、よろめきながら苦しそうにうめく者、目の前では、軽い傷で済ませた負傷者が続出している。考えてみれば、これは相手の戦闘員にとって、ただ無駄に使われているだけのひどい任務。それも気の毒な話だ。


 そんな敵に向かって、レッドもついに言い放った。

「俺たちに勝てそうかっ⁉ 無駄に死ぬのもいい加減にしろっ。」


「そこまでだ!」


 不意をつかれて、四人はハッと息を止める。

 この決まり文句は・・・。 


 目を向けてみれば、やはり・・・アランと、そしてついでのようにカイルが人質ひとじちにとられていた。その二人は、陰の将軍と名乗った男のそばにいる兵士に、背後から身動きが取れないようにされている。さらに左右にいるまた別の兵士が、二人の胸の前で剣を交差し見せつけていた。


 その状態で、カイルは申し訳なさそうに、眉間みけんしわを寄せているレッドやリューイの顔色をうかがう。


 実際、二人の方では、ただ迂闊うかつな自分に腹を立てているに過ぎなかった。しまった・・・ほかのことに気をとられていた。そろいも揃ってと。


 くやしそうに立ち尽くす連中を見ると、自称、陰の将軍はにやりと笑った。

「下手に動けば、この小僧こぞうからさっさと斬り殺すぞ。」


 陰の将軍はカイルのあごを乱暴につかんで、強い口調で脅迫きょうはくしてくる。


 そして男は、次にアランと向かい合うと、今度は皮肉めいた声でへりくだったようにこう言った。

「アラン卿、よくご無事でここまでたどり着かれました。ここへ来て困ったことになりましてな。我々はあなたを待っていたのです。何しろ・・・あの扉は、あなたにしか開けることができないもののようなので。」


 男は兵士に命じて、アランだけを強引ごういんに扉の前へ連れて行った。そして、アランに見せるようにしながら、扉の左側のある一箇所を指差してみせた。


 そこにあるのは、文字と紋章もんしょうが刻み込まれた鉄のプレート。文字と紋章の間には鍵穴かぎあなが見える。


 すると、鍵穴の下に彫られている古代文字が、それを目で追うアランの口から言葉となって流れ出した。

「真の後継者こうけいしゃよ あかしを見せよ」

「そうです。さあ、ここへその証とやらを差し込まれよ。さすればその・・・友人たちには手を出さぬと約束しましょう。」

「証・・・。」


 アランは躊躇ためら戸惑とまどうような素振そぶりを見せたが、おどおどと手を動かして、左のそでをゆっくりと引き上げていった。手首についている、唯一ゆいいつ思い当たるものを見たのである。


 袖で隠れていた・・・いや、隠していた銀のブレスレットだ。


「やはりお持ちでしたか。いけませんな、まだそのような家宝を隠し持っているとは。」


 アランは苦い顔で、ただ視線をらした。


「まあ、よいでしょう。今ここで使う以外には、何の価値もないものでしょうから。」


 それには、扉のプレートにあるのと同じ形の紋章が描かれている。証というのはかぎのことではなく、そのブレスレットのことだとアランには分かったが、何も言わずに中から鍵を取り出し、ただ言われたことにしたがった。


「これのかぎかあ。」

 何の鍵か分かってスッキリ ! というように、リューイが言った。


 もはや動きを封じられては、どうにもできない。もう、り行きを見守ることしか。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ