禁断の扉を開ける鍵
ギルとエミリオも鞘からスラリと剣を抜いたが、リューイだけはまだ悠長に腰を落ち着かせていた。リューイは、カイルの手当てをきちんと受けて一息つきたいというのに、それができずにとにかく立腹していた。
カイルとアランが邪魔にならないように離れると、戦える男たちの目つきがサッと鋭いものに変わる。その三人は、敵に応戦する形でそれぞれ違う方向へ走り出だした。
カキーン、カキーンッ!
洞窟内に反響する剣戟の音。その中にいるリューイの頭上からも白刃が襲いかかった。
素早く槍を拾い上げたリューイは、振り下ろされたそれをいち早く弾き飛ばし、次いで男の胴体を横殴りにしていた。ほかにも数人の敵がいたが、その動きや手捌きは誰の目にも留まらなかった。
おかげで兵士たちが言葉を忘れたようになり、周りが奇妙に静まり返った。
そんな中、リューイは急ぎもせずに立ち上がった。そして猛烈なスピードで長槍を回転させながら、いつにも増して荒っぽくこう言った。
「さっきこれを見てたんじゃないのか。かかってくるならやってやるけどな、面倒くせえからまとめていくぞ。覚悟きめとけ。」
敵はいよいよ怖気づいた・・・が、立場上向かっていくほかはない。そう理解しているメサロバキアの兵士たちは、指揮官、つまり陰の将軍と名乗った男を覗き見ると、吹っ切れたように雄叫びを上げた。
しかし、リューイの言葉は嘘ではなかった。リューイはもう無駄に動かず、棒術に足技まで加えて、複数人を一度に攻撃している。
一方、レッドは妙案も浮かばず、実のところ、こうなってはどうすればいいのか途方に暮れていた。おとなしく相手の言うことをきけば何も変えられないし、強引に目的を果たせば、今度こそ争いになるかもしれない。その時は、もっと大きな争いだ。
その懸念は、同じように手加減しているエミリオとギルにもずっとある。この二人は、とにかく、もう一度話し合う機会を得るほかないと思った。それも、互いの国の代表が冷静になれる場で。そのためには、財宝が実在するかどうかを確かめるのは自分たちでなければならないし、相手にはいったん引き下がってもらわなければ。自分たちが今ここで問題を増やせば、話し合いに応じてもらうのはさらに難しくなるだろう。そう思い、陰の将軍とやらが、ここでの戦いにおいて勝ち目がないのをさっさと理解し、退却してくれるのを願った。
ガッ、カキーン!
傷口を押さえて悲鳴を上げる者、よろめきながら苦しそうに呻く者、目の前では、軽い傷で済ませた負傷者が続出している。考えてみれば、これは相手の戦闘員にとって、ただ無駄に使われているだけの酷い任務。それも気の毒な話だ。
そんな敵に向かって、レッドもついに言い放った。
「俺たちに勝てそうかっ⁉ 無駄に死ぬのもいい加減にしろっ。」
「そこまでだ!」
不意をつかれて、四人はハッと息を止める。
この決まり文句は・・・。
目を向けてみれば、やはり・・・アランと、そしてついでのようにカイルが人質にとられていた。その二人は、陰の将軍と名乗った男のそばにいる兵士に、背後から身動きが取れないようにされている。さらに左右にいるまた別の兵士が、二人の胸の前で剣を交差し見せつけていた。
その状態で、カイルは申し訳なさそうに、眉間に皺を寄せているレッドやリューイの顔色を窺う。
実際、二人の方では、ただ迂闊な自分に腹を立てているに過ぎなかった。しまった・・・ほかのことに気をとられていた。揃いも揃ってと。
悔しそうに立ち尽くす連中を見ると、自称、陰の将軍はにやりと笑った。
「下手に動けば、この小僧からさっさと斬り殺すぞ。」
陰の将軍はカイルの顎を乱暴につかんで、強い口調で脅迫してくる。
そして男は、次にアランと向かい合うと、今度は皮肉めいた声でへりくだったようにこう言った。
「アラン卿、よくご無事でここまでたどり着かれました。ここへ来て困ったことになりましてな。我々はあなたを待っていたのです。何しろ・・・あの扉は、あなたにしか開けることができないもののようなので。」
男は兵士に命じて、アランだけを強引に扉の前へ連れて行った。そして、アランに見せるようにしながら、扉の左側のある一箇所を指差してみせた。
そこにあるのは、文字と紋章が刻み込まれた鉄のプレート。文字と紋章の間には鍵穴が見える。
すると、鍵穴の下に彫られている古代文字が、それを目で追うアランの口から言葉となって流れ出した。
「真の後継者よ 証を見せよ」
「そうです。さあ、ここへその証とやらを差し込まれよ。さすればその・・・友人たちには手を出さぬと約束しましょう。」
「証・・・。」
アランは躊躇い戸惑うような素振りを見せたが、おどおどと手を動かして、左の袖をゆっくりと引き上げていった。手首についている、唯一思い当たるものを見たのである。
袖で隠れていた・・・いや、隠していた銀のブレスレットだ。
「やはりお持ちでしたか。いけませんな、まだそのような家宝を隠し持っているとは。」
アランは苦い顔で、ただ視線を逸らした。
「まあ、よいでしょう。今ここで使う以外には、何の価値もないものでしょうから。」
それには、扉のプレートにあるのと同じ形の紋章が描かれている。証というのは鍵のことではなく、そのブレスレットのことだとアランには分かったが、何も言わずに中から鍵を取り出し、ただ言われたことに従った。
「これの鍵かあ。」
何の鍵か分かってスッキリ ! というように、リューイが言った。
もはや動きを封じられては、どうにもできない。もう、成り行きを見守ることしか。




