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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第12章  アルザスの宝剣  〈 Ⅸ〉  
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数々の警告


 一行は、最初の分かれ道にさしかかった。そこで彼らは、今通ってきたやや下りになっているこの道を真っ直ぐに進むか、横に伸びている上り坂を行くかで悩み、足を止めた。


 アランがかかげているランプは、前方とその横道の数メートル先を照らしているが、一見では、どちらも特に変わった様子は見受けられない。


「どっちに進む。」

 ギルがきいた。

「何か感じてるなら分からないのか、カイル・・・って、おいっ。」と、レッドはあせった。


 また安易あんいに動き出したカイルは、一人で勝手に横道の方へ入って行くのである。


「もっと先の方を見てみたら・・・わっ⁉」

「・・・怒るぞ。」と、リューイは口元くちもとを引きらせた。


 なにしろ、かんが働いてついて行ったリューイは今、後ろからカイルの両脇をしっかりと抱えているのだから。


 それは一瞬の出来事だった。ほんの一瞬、カイルの姿は、後ろにいたほかの者には消えたように見えた。リューイは一歩身を引くと同時に、素早くカイルを引っ張り戻して、危機から救っていたのである。


 つまり・・・落とし穴から。


 みなはヒヤリとし、さっと血の気が引いた。

 そこには、そんなわなが仕掛けられてあったのだ。二枚の石畳いしだたみが、両開きの扉のように開いて獲物えものを飲み込み、あとはすぐに元に戻る。


 ギルとレッドは、うらめしそうにカイルを見た。どれだけ寿命じゅみょうを縮ませてくれるんだ・・・。


「落とし穴か・・・一つはあるだろうとは思ったがな。」

 もはや割り切ったような声で、ギルが言った。

「お前、いい加減にしろよ。」と、リューイ。

「だって、怪しくなかったじゃないかっ。」

「落とし穴だからな・・・。」と、レッド。


 ここまで無事でいられるのは運がいい・・・というわけではない。どれもこれも切り抜けてきた。実力で、直感で。そのほとんどは、人並ひとなみ外れたリューイのおかげだ。


 ともあれ、仲間がこうしてそろっていることには感動すら覚えた。


 ところが、一難いちなん去ってまた一難。


 互いに顔を見合った彼らは、え・・・と眉根まゆねを寄せる。


 地響じひびきがしたと思った・・・。


「この音は・・・さっき聞いたな。」

 ギルがつぶやいた。この火山の入口前でのことだ。


 また嫌な予感を覚えた・・・次の瞬間。


 エミリオが声を張り上げていた。

「いけない!」


 それを合図あいずとするかのように、誰もが反射的に足元あしもとった。その時、カイルの腕はリューイが引き上げたそのまましっかりとにぎり、走りれていなさそうなアランには、レッドの手がさっと伸びている。


 一行いっこうは先ほどの道に戻って、もともとの進行方向へそのまま走り続けた。なぜなら、その恐ろしい轟音ごうおんは落とし穴の通路の奥から聞こえたように思われ、追われているため入口の方へ戻ることもできないからである。


 そして、ここはゆるくだり坂。


 案の定、通路を完全にふさぐほどの大きな丸石が現れていた。それが後ろから転がってくるはずだ。それを見る前にはもう逃げ出していたが、上手く逃げ切れるか・・・!


「カイル、お前また何かしたろ!」

 リューイが怒鳴どなった。

「知らないよお!」

「落とし穴と連動してたんじゃないか⁉」と、ギル。


 そのうち、ランタンの灯りがまた別の分かれ道を照らし出した。

 あそこへ逃げられる!


 なだれこむようにして、次々とそこへ避難ひなんした。幸い、今度も全員が無事だ。


 その数秒後。


 轟音ごうおんをあげながら、彼らのわきを巨大な球体がゴロゴロと通り過ぎて行った。


 何が起こるのかと、ほうけることもなかったのは幸いだった。エミリオの叫びに感謝。


「もう少し遅かったら・・・終わってたな。」

 肩で息をしながら、レッドが言った。


「一体、何がどうなってこんなことが起こるのさっ。」

 そうわめいたのは、次々とそれらを動かしてくれるカイル。


 むしろ感心するほどの仕掛け(罠)の数々だが、どういう仕組みになっているのか。大昔の知恵と技術でこれらを造ったのは、まさに驚異だ。


 リューイがふと、何かを見つけた。今いる道のずっと前方に目をらしている。

 アランから明かりを借りて用心しながら進んで行くと、また道が分かれていた。一方は曲がりくねったやや急な下り坂になっている。


 リューイは、そこの岩壁いわかべに目を向けた。自分の胸の高さあたりに、石板せきばんが埋め込まれてあった。それには、何やら文字のようなものが刻まれてある。


 リューイの文章を理解できる能力は、8歳ほどの子供並みだ。だがリューイにも、それが、今の時代の文字ではないことくらいは分かった。


「おいここ、何か書いてあるぞ。」


 その声を聞いたほかの者たちも動いて、リューイが立っている場所に集まった。

 そこで、それを完璧に読むことができたのは二人。アランとエミリオだったが、先に口を開いたのはアランである。


「最後の警告けいこく 真の後継者こうけいしゃのみゆるされる場所」


「警告・・・なんてあったっけ?」

 何度も死ぬ目にあったカイルが、あきれて言った。

わなのことじゃないか。もはや警告じゃないけどな。」と、ギル。

「しかも真の子孫は巻き添えだよ。後継者になりうる子孫じゃあ何か問題あるのかよ。」と、レッド。

「ケイコクとかコウケイシャって何だよ。」

 リューイは首をかしげている。


「警告は、悪いことが起こるのを前もって教えることで、後継者は・・・えっと、この場合はモルドドゥーロ大公国の全てをまかされた者。家宝のブレスレットを身に着けているのだし、アラン卿でも問題はないと思うのだが・・・。」

 リューイにも分かるように言葉を選びながら、エミリオもそう説明を加えた。


「とにかく、こっちに進めば間違いないんだろう。真の血縁で許してもらえるよういのるしかない。」

 恐れもせずに、ギルはその先へ向かう。ぐずぐずしていられる余裕よゆうはない。


 同じように、ほかのだれおくれをとらなかった。










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