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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第12章  アルザスの宝剣  〈 Ⅸ〉  
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イドラキア火山、内部



 中へ入ると、真っ直ぐに伸びている石畳いしだたみの広い通路になっていた。はばも高さもあって、歩きやすく整備せいびされている。ここはまさしく、何かの目的のために作られた場所だ。先の方は真っ暗闇くらやみで見ることはできないが、とりあえず、そこまでは一本道が続いているようである。


 一行いっこうは、外の光の届くところまではそのまま歩いて行った。


 暗闇にさしかかると、アランがランタンを点けた。


 微妙びみょうまゆをひそめたエミリオの顔が、その明かりの中に浮かび上がった。常人には知ることのできない何かを察知さっちして。


「カイル・・・。」


 エミリオは、かたわらにいる精霊せいれい使いの少年にそっと声をかける。同じ思いをしているに違いないカイルを気使ったのである。


「うん、エミリオもだよね。何か・・・なぜかそれほど嫌なものじゃないけど、感じるよ。絶対、ここにも何かいるよ。」


 それほど嫌なものじゃない・・・と言ったカイルの言葉にいくらかほっとして、ギルやレッド、そしてリューイは、張りつめていた顔の筋肉がほぐれるのを感じた。


 だがしばらく進むと、彼らの間に再び緊張が走った。


「おい・・・。」

 リューイがけわしい声を出した。


 先頭をいくリューイの目がとらえているのは、くさったぼろ布をまとい、滅茶苦茶めちゃくちゃに重なり合っている白骨死体。仰向あおむけやうつ伏せ、まるで突如とつじょ糸をち切られたあやつり人形のように、腕も足も奇妙に折れ曲がっているものもある。それらに共通して頭蓋骨ずがいこつくだけ、全身 損傷そんしょうはげしく、骨がボロボロになっていた。だが何よりも恐ろしいのは、その色艶いろつやなどから見ても、遥か太古の死体というわけでもなさそうなことだ。


 アランには正視にえうるものではなかった。それらは何年も前・・・大公がまだ元気だった頃に送った消息しょうそく不明の従者じゅうしゃたちかもしれなかった。


 レッドも顔をしかめて、言った。

骸骨がいこつの山・・・。こんな何もないところに・・・。」


「何もない・・・。」

 嫌な予感を覚えつつ、エミリオは何気なにげなく頭上に目を向ける。


 つられるようにして、ほかの者たちも徐々に視線を上げていく。


 すると、白骨死体が転がっている真上の暗い天井に、ランプのほのかな明かりの中、ぼんやりと浮かぶ何か突起とっきしているものが見えた。


 無数の・・・太いとげが突き出している鉄の板が・・・。


 ところが、一人だけそれを見ていない者がいる。

 カイルだ。

 カイルは一人勝手に動きだして、いつの間にやら人骨の間、間をのぞき込んでいるではないか・・・!


「ここで喧嘩けんか・・・じゃないよね。武器を抜いた形跡けいせきがないし、死因はなん 一一 」

「カイル!」

 リューイは刹那せつなに床をった。


 一つ微妙に違う敷石しきいしを、カイルはまともに踏みつけていたのである。


 いきなり飛びつかれたカイルは、リューイと一緒に、そのまま骸骨の上を越えた数メートル先に転がった。


「下がれ!」


 ギルの叫び声と共に、ほかの者たちはさっと後退こうたいする。


 ガシャーンッ!


 予想通りのことが起こった。

 とげだらけの鉄板てっぱんが落ちてきて、そして数秒後には、それは何事もなかったかのように元の位置へ引いていったのである。


 驚きと恐ろしさのあまり、その場にいる者はみな、一部始終を唖然あぜんと口を開けたまま見つめていた。 


「あわわわ・・・。」

 リューイの胸の下で、カイルは声にならない声をらしている。

 リューイはうでりむいていたが、守られたカイルは無傷ですんだ。

「カイル・・・怪しい場所で勝手に進まないでくれ。たのむよ・・・。」


 そしてリューイは、引き起こしてやったカイルをその場に待たせて、足元と頭上の両方に注意を払いながら、ほかの仲間たちのもとへ戻って行った。 


「お約束だな・・・。」

 ギルがため息をついて言った。

「ほかにもあるはずだから・・・気をつけて。」と、エミリオ。

「誰も帰ってこなかったとは・・・こういうわけだったのか。」

 アランはし目になり、顔をくもらせた。 

「恐らく、誰もがここを見つけたでしょう。そして・・・。」

 そう続けたエミリオの声も重い。

「これについての説明もあったんじゃないのか。でないと、誰も無事に取りに行けやしねえぞ。」

 レッドがぼやいた。


 口々にそうささやき合っているところに、リューイが通路のはしの方から戻ってきて、言った。

「真ん中は通るな、何かあるみたいだ。けど、いちおう俺がまた先に行ってやるから、そのあとから皆来いよ。」


 危険地帯と判断した場所を避けて、リューイはまた端っこを通って行く。そうして二度試したリューイが何事もなく通過したのを見ると、ほかの者も同じ場所からあとに続いた。 


「身をもって死因をつきとめるとこだったぞ、バカやろう。」

 カイルのもとに来るなり、レッドは少しばかり本気でがなった。


 だが説教に入ろうとした、その時。


 ハッと口を閉じたレッドは、「次が来やがった・・・。」と舌打したうち。


 複数の足音が響いてくる・・・。


「行こう。」

 エミリオが静かにうながした。


 それからしばらくして、聞くに堪えない断末魔の悲鳴が背後からひびきわたる。


 カイルはゾッとし、耳をふさいだ。


「ニ、三人・・・ってところか。」

 ギルが苦い声でつぶやいた。









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