イドラキア火山、内部
中へ入ると、真っ直ぐに伸びている石畳の広い通路になっていた。幅も高さもあって、歩きやすく整備されている。ここはまさしく、何かの目的のために作られた場所だ。先の方は真っ暗闇で見ることはできないが、とりあえず、そこまでは一本道が続いているようである。
一行は、外の光の届くところまではそのまま歩いて行った。
暗闇にさしかかると、アランがランタンを点けた。
微妙に眉をひそめたエミリオの顔が、その明かりの中に浮かび上がった。常人には知ることのできない何かを察知して。
「カイル・・・。」
エミリオは、傍らにいる精霊使いの少年にそっと声をかける。同じ思いをしているに違いないカイルを気使ったのである。
「うん、エミリオもだよね。何か・・・なぜかそれほど嫌なものじゃないけど、感じるよ。絶対、ここにも何かいるよ。」
それほど嫌なものじゃない・・・と言ったカイルの言葉にいくらかほっとして、ギルやレッド、そしてリューイは、張りつめていた顔の筋肉がほぐれるのを感じた。
だがしばらく進むと、彼らの間に再び緊張が走った。
「おい・・・。」
リューイが険しい声を出した。
先頭をいくリューイの目がとらえているのは、腐ったぼろ布を纏い、滅茶苦茶に重なり合っている白骨死体。仰向けやうつ伏せ、まるで突如糸を断ち切られた操り人形のように、腕も足も奇妙に折れ曲がっているものもある。それらに共通して頭蓋骨は砕け、全身 損傷が激しく、骨がボロボロになっていた。だが何よりも恐ろしいのは、その色艶などから見ても、遥か太古の死体というわけでもなさそうなことだ。
アランには正視に堪えうるものではなかった。それらは何年も前・・・大公がまだ元気だった頃に送った消息不明の従者たちかもしれなかった。
レッドも顔をしかめて、言った。
「骸骨の山・・・。こんな何もないところに・・・。」
「何もない・・・。」
嫌な予感を覚えつつ、エミリオは何気なく頭上に目を向ける。
つられるようにして、ほかの者たちも徐々に視線を上げていく。
すると、白骨死体が転がっている真上の暗い天井に、ランプの仄かな明かりの中、ぼんやりと浮かぶ何か突起しているものが見えた。
無数の・・・太い棘が突き出している鉄の板が・・・。
ところが、一人だけそれを見ていない者がいる。
カイルだ。
カイルは一人勝手に動きだして、いつの間にやら人骨の間、間を覗き込んでいるではないか・・・!
「ここで喧嘩・・・じゃないよね。武器を抜いた形跡がないし、死因はなん 一一 」
「カイル!」
リューイは刹那に床を蹴った。
一つ微妙に違う敷石を、カイルはまともに踏みつけていたのである。
いきなり飛びつかれたカイルは、リューイと一緒に、そのまま骸骨の上を越えた数メートル先に転がった。
「下がれ!」
ギルの叫び声と共に、ほかの者たちはさっと後退する。
ガシャーンッ!
予想通りのことが起こった。
棘だらけの鉄板が落ちてきて、そして数秒後には、それは何事もなかったかのように元の位置へ引いていったのである。
驚きと恐ろしさのあまり、その場にいる者はみな、一部始終を唖然と口を開けたまま見つめていた。
「あわわわ・・・。」
リューイの胸の下で、カイルは声にならない声を漏らしている。
リューイは腕を擦りむいていたが、守られたカイルは無傷ですんだ。
「カイル・・・怪しい場所で勝手に進まないでくれ。頼むよ・・・。」
そしてリューイは、引き起こしてやったカイルをその場に待たせて、足元と頭上の両方に注意を払いながら、ほかの仲間たちのもとへ戻って行った。
「お約束だな・・・。」
ギルがため息をついて言った。
「ほかにもあるはずだから・・・気をつけて。」と、エミリオ。
「誰も帰ってこなかったとは・・・こういうわけだったのか。」
アランは伏し目になり、顔を曇らせた。
「恐らく、誰もがここを見つけたでしょう。そして・・・。」
そう続けたエミリオの声も重い。
「これについての説明もあったんじゃないのか。でないと、誰も無事に取りに行けやしねえぞ。」
レッドがぼやいた。
口々にそう囁き合っているところに、リューイが通路の端の方から戻ってきて、言った。
「真ん中は通るな、何かあるみたいだ。けど、いちおう俺がまた先に行ってやるから、そのあとから皆来いよ。」
危険地帯と判断した場所を避けて、リューイはまた端っこを通って行く。そうして二度試したリューイが何事もなく通過したのを見ると、ほかの者も同じ場所からあとに続いた。
「身をもって死因をつきとめるとこだったぞ、バカやろう。」
カイルのもとに来るなり、レッドは少しばかり本気でがなった。
だが説教に入ろうとした、その時。
ハッと口を閉じたレッドは、「次が来やがった・・・。」と舌打ち。
複数の足音が響いてくる・・・。
「行こう。」
エミリオが静かに促した。
それからしばらくして、聞くに堪えない断末魔の悲鳴が背後からひびきわたる。
カイルはゾッとし、耳をふさいだ。
「ニ、三人・・・ってところか。」
ギルが苦い声で呟いた。




