巨石回避
「おいレッド、見ろ!」
階段を駆け上がっている途中、リューイが地響きに気づいて上を指差した。
レッドは、追いかけてくる敵の方へ体を向けたばかりだったが、その声に振り向いたとたん、ぎょっとなった。
「なんだっ⁉」
巨大な岩石が、今にも上から転がり落ちてくる・・・!それも、一つや二つではない。だが、すでに階段の中腹より上にいるため、巨石のスピードに負けずに下まで戻れそうには到底なかった。かといって、もうずいぶん麓からは高い所に来ていたので、横から飛び降りようものなら、どちらにしろ生きてはいられないだろう。
レッドがいる踊り場まで戻ったリューイは、足場の奥にひとまず槍を押し込むと、横の手摺りに飛び乗った。
追ってきた敵の方は血相を変え、一目散に逆戻りしていく。
「レッド、つかまれ!」と、リューイは片手を伸ばした。
逃げ場はない。だがとにかく、レッドは言われた通りにした。
するとリューイは、レッドの体をぐいっと外へ引っ張り出すや、自身もそこから身を投げたのである。なんと、互いにつかみ合った手首を命綱にして。リューイはためらいもなく、階段の外側にぶら下がったのだ。
驚く間もなく振り落とされたレッドは、おかげでその瞬間、胃袋が浮き上がるような感覚と胸の悪さを覚えた。
巨大な岩石は、みるみる勢いを増しながら階段を転がり落ちてきて、二人の目の前をいくつも通過していった。
「リューイ、大丈夫か。」
レッドは不安そうな声をかけた。なにしろリューイは、男二人分の体重を片手ひとつで支えているのだから。
「ああ、今引き上げるからな。」
化け物じみた力を奮い起こして、リューイは、レッドの手が手摺りの上に届くところまで持ち上げてやった。そこに両手をかけられさえすれば、レッドも、あとは難なく這い上がることができる。
二人は、再び踊り場に立った。見ると、下は哀れな惨状となっていた。逃げ遅れた敵が、苦しそうに呻き声を上げている。立ち上がることすらかなわない重傷者ばかりのようだ。
気の毒に・・・と首を振りながらも、長槍を拾い上げたリューイは、さっさと背中を向けた。レッドもそれに続く。さあ早く、今のうちに仲間のもとへ行かなければ。
その恐ろしい物音は消えたが、誰もが動きだす気力も無く、青ざめた顔でその場に佇んでいた。エミリオとアランは、入口を塞いでいる石のドアに凭れたままでいる。
すると突然、二人は背中に振動を感じた。
驚いた二人は慌てて横へずれた。
どういう仕組みか、固く閉ざされていたはずのそれが、徐々《じょじょ》に開かれていくのである。
ギルもその様子に目を向けた。
油断させておいて狡猾な罠を仕掛け、それを分からせたうえで入口を解放。これは挑発されてるのか。さすがに怯みもするし、ゾッとなる・・・が、今はそれどころではない心境だった。
先に行ってくれ・・・と言われ、ギルは、どうにか追いついてこいと返した。だが・・・あの巨石をまともに受けていたら・・・。二人の安否を確認しに行くには、かなり勇気がいる。もし無事でない姿を見たら、そのあと財宝を探しに行く気になど、とてもなれないだろう。それでは、モルドドゥーロ大公国は救われない。二人が必ず追いついてくると信じて、冷静を保ち前へ進み続けるべきか。
そう葛藤していると、アランの歓声が上がった。
「みなさん、あれを!」と。
すると、五体満足で颯爽と階段を駆け上がってきたレッドとリューイの姿が見えた。




