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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第12章  アルザスの宝剣  〈 Ⅸ〉  
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立像群


 リューイにとって、そのやりの使える部分というのは、片方だけではなかった。もう一方も、するど刃先はさき同様に武器になる。

 リューイは、何本もの剣や槍に囲まれていた。だが、その面上に余裕の笑みは浮かんでも汗一つにじむことはなく、長槍ながやりを片手で、両手で、めまぐるしく振り回し続けている。予測のつかない連続技で槍の両端りょうはしえ間なく空中を動き回り、相手の体を痛めつける。そんなリューイの軽快な身ごなしは、これほど楽なことはないと言わんばかり。レッドには楽しんでいるようにさえ見えた。


「そこまでだ、リューイ、俺たちも行くぞ。」


 リューイの耳に、ある時そうレッドの声が届いた。

 振り向いたリューイは、右手の槍をレッドのそばへ放り投げると、そこへ向かってバク転で戻って行った。


 一方その頃、カイルとアランは、洞窟どうくつの入口とおぼしき場所で頭を抱えていた。

 長い石段を上りきったところからそこまでは、立像りゅうぞうが目につく以外はがらんとした広場になっていた。やや傾斜けいしゃはあるものの、地面をならしたように整えられている。二人は、そこをとにかく脇目わきめも振らずに全力 失踪しっそうしてきた。足元や周りを気にする余裕はなかった。そして、たどり着いた今も、閉じられている火山の入口と向かい合って立っている。


「入口がふさがっちゃってるよ。はあっ・・・はあ・・・。」

「どうすれば・・・。」

 カイルはのどをからませて言い、アランもかすれた声でつぶやいた。


 ひどく疲れた息をしている二人の目の前には、ただでは動いてくれそうにない石のドアがたちはだかっている。手をかけられそうな所はどこにもなく、裏からふたをするように内側へへこんだ造りになっているので、とにかく押してみるしかなさそうだった。


 そこでカイルは、無闇むやみに肩からぶつかってみた・・・が、案の定、それはビクともしない。


 そこへ、エミリオとギルが到着した。

 この二人は、階段を上りきるなり、驚愕きょうがくしてたたずんだ。くすんだ白いものが、バラバラになって落ちている。よく見ると、何かはすぐに分かった。それは・・・人骨。頭蓋骨ずがいこつなど、その大部分が、何かに踏みつけられたように木端微塵こっぱみじんとなっているのである。死因は謎だが、バラバラになったのは恐らく、白骨化したあとのことだろう。


「エミリオ、見ろよ・・・。どういうわけで、こんな所にこんな風にバラかれてあるんだ?」


「一体何が・・・。」


 まゆをひそめてそれらを眺め回したあと、二人は、入口近くの円柱や立像りゅうぞうに視線を移していった。


 下からも見えていたその立像は、全部で五体。彫像ちょうぞうといえば神々をかたどったものが多いが、それらはそうではなく、ただの人間の男性像のよう。神というより、勇者・・・という感じだった。古い時代に作られたはずのそれらは、今の時代の人々とそう変わらない服装をし、武器を持っているからだ。 


 一体は剣をにぎり締め、また一体は弓を引きしぼり、そして、中にはカイルよりも若いように見える少年の像もある。その石像は空手で、リューイがやるように少し腰を落として身構みがまえていた。今でこそ伝説となった拳法けんぽうと呼ばれる徒手武術としゅぶじゅつだが、昔はそれを使える者が何人もいたという。ほかにも、もう一体武器を持たない像がある。右手を頭上にかざしているそれは、今度はカイルがやるような腕や指先の動きで止まっていた。そして最後の一体は、背の高い長髪の男性像で、背中に大剣を負っている。


「これは・・・。」

 エミリオは、ギルと目を見合った・・・。


 もう一つ気になるのは、どれも見事な彫刻ちょうこく精巧せいこうに作られているということ。周りの円柱にしても、精緻せいちな浮き彫り模様もようがしっかりと刻まれてある。古代に造られたとは思えないその出来の良さが、当時の人々の知能が決して低くはなく、むしろ高かったことをうかがわせた。それは、エミリオとギルにたちまち嫌な予感を覚えさせることとなった。


 また苦い表情を見合わせる二人・・・。

 懸念けねんの思いに眉をひそめるも、とにかく、二人はカイルとアランのもとへ。


 一方、ビクともしない入口を見つめたまま、カイルは途方とほうに暮れていた。そしてしばらくすると、振り向いて、なんとなく気になっていたものに視線を変えた。


 それは、入口の手前に置かれてある石造りのベンチ。表面は、太陽光を浴びて少し熱くなっていた。カイルには何のためにあるのか分からなかったが、腰掛けるのにちょうど良い高さである。あの長い石段を上ってくれば、そこでちょっと休みたくなる者も普通にいるだろう。


「ち、ちょっと休憩きゅうけいさせ・・・わっ⁉」


 カイルが悲鳴をあげた。と同時に、腹の底にひびく轟音ごうおんがとどろいた。


 腰を落とした直後のことだ。そのベンチ椅子がいきなりグッと地面にめり込んだかと思うと、続いて地響きが起こったのである。


「立て、カイル!」


 ギルは、とっさに追いついてカイルを引っ張り起こすと、そのまま入口の横の岩肌いわはだにぶつけた。そしてすぐ、自分の体でカイルをかばった。


 間一髪、頭上から次々と大きなものが転がり落ちてきた・・・!

丸い巨石だ。それらはカイルがいた場所に落下したあと、球体を保ったままゴロゴロと階段の方へ流れていく。この広場の傾斜が、そこまでゆるい下り坂になっているからだ。  


 火山の入口を正面しょうめんから見た外観は、まさに周柱式しゅうちゅうしき神殿の玄関のように造られている。三角屋根に見立てている中央には怪しい穴があり、それらの岩はそこから吐き出されたと考えられた。というのは、実際に出てくるのを確かめていたら、きっと逃げ遅れていただろう。そのため、ほとんど直感だった。


 カイルを胸の前に庇いながら、ギルは肩越しに振り向いて、嫌な予感が確信となったことにますます苦い顔をした。山の斜面しゃめんを利用した、こんなわなも計算して造られているということは、内部にも必ずあるはずだ。


 その時には、エミリオとアランも同じように避難ひなんしていた。そして、目の前に次々とこぼれ落ちてくる大岩を愕然がくぜんと見つめていた。

 やがてそれらは、この広場を取り囲んでいる低いへいを伝って、ついには階段の下へと落下していく・・・。


 エミリオはハッとした。

「レッドとリューイが!」 








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