立像群
リューイにとって、その槍の使える部分というのは、片方だけではなかった。もう一方も、鋭い刃先同様に武器になる。
リューイは、何本もの剣や槍に囲まれていた。だが、その面上に余裕の笑みは浮かんでも汗一つ滲むことはなく、長槍を片手で、両手で、めまぐるしく振り回し続けている。予測のつかない連続技で槍の両端が絶え間なく空中を動き回り、相手の体を痛めつける。そんなリューイの軽快な身ごなしは、これほど楽なことはないと言わんばかり。レッドには楽しんでいるようにさえ見えた。
「そこまでだ、リューイ、俺たちも行くぞ。」
リューイの耳に、ある時そうレッドの声が届いた。
振り向いたリューイは、右手の槍をレッドのそばへ放り投げると、そこへ向かってバク転で戻って行った。
一方その頃、カイルとアランは、洞窟の入口と思しき場所で頭を抱えていた。
長い石段を上りきったところからそこまでは、立像が目につく以外はがらんとした広場になっていた。やや傾斜はあるものの、地面をならしたように整えられている。二人は、そこをとにかく脇目も振らずに全力 失踪してきた。足元や周りを気にする余裕はなかった。そして、たどり着いた今も、閉じられている火山の入口と向かい合って立っている。
「入口が塞がっちゃってるよ。はあっ・・・はあ・・・。」
「どうすれば・・・。」
カイルは喉をからませて言い、アランも掠れた声で呟いた。
ひどく疲れた息をしている二人の目の前には、ただでは動いてくれそうにない石のドアがたちはだかっている。手をかけられそうな所はどこにもなく、裏から蓋をするように内側へへこんだ造りになっているので、とにかく押してみるしかなさそうだった。
そこでカイルは、無闇に肩からぶつかってみた・・・が、案の定、それはビクともしない。
そこへ、エミリオとギルが到着した。
この二人は、階段を上りきるなり、驚愕して佇んだ。くすんだ白いものが、バラバラになって落ちている。よく見ると、何かはすぐに分かった。それは・・・人骨。頭蓋骨など、その大部分が、何かに踏みつけられたように木端微塵となっているのである。死因は謎だが、バラバラになったのは恐らく、白骨化したあとのことだろう。
「エミリオ、見ろよ・・・。どういうわけで、こんな所にこんな風にバラ撒かれてあるんだ?」
「一体何が・・・。」
眉をひそめてそれらを眺め回したあと、二人は、入口近くの円柱や立像に視線を移していった。
下からも見えていたその立像は、全部で五体。彫像といえば神々を象ったものが多いが、それらはそうではなく、ただの人間の男性像のよう。神というより、勇者・・・という感じだった。古い時代に作られたはずのそれらは、今の時代の人々とそう変わらない服装をし、武器を持っているからだ。
一体は剣を握り締め、また一体は弓を引き絞り、そして、中にはカイルよりも若いように見える少年の像もある。その石像は空手で、リューイがやるように少し腰を落として身構えていた。今でこそ伝説となった拳法と呼ばれる徒手武術だが、昔はそれを使える者が何人もいたという。ほかにも、もう一体武器を持たない像がある。右手を頭上にかざしているそれは、今度はカイルがやるような腕や指先の動きで止まっていた。そして最後の一体は、背の高い長髪の男性像で、背中に大剣を負っている。
「これは・・・。」
エミリオは、ギルと目を見合った・・・。
もう一つ気になるのは、どれも見事な彫刻で精巧に作られているということ。周りの円柱にしても、精緻な浮き彫り模様がしっかりと刻まれてある。古代に造られたとは思えないその出来の良さが、当時の人々の知能が決して低くはなく、むしろ高かったことを窺わせた。それは、エミリオとギルにたちまち嫌な予感を覚えさせることとなった。
また苦い表情を見合わせる二人・・・。
懸念の思いに眉をひそめるも、とにかく、二人はカイルとアランのもとへ。
一方、ビクともしない入口を見つめたまま、カイルは途方に暮れていた。そしてしばらくすると、振り向いて、なんとなく気になっていたものに視線を変えた。
それは、入口の手前に置かれてある石造りのベンチ。表面は、太陽光を浴びて少し熱くなっていた。カイルには何のためにあるのか分からなかったが、腰掛けるのにちょうど良い高さである。あの長い石段を上ってくれば、そこでちょっと休みたくなる者も普通にいるだろう。
「ち、ちょっと休憩させ・・・わっ⁉」
カイルが悲鳴をあげた。と同時に、腹の底にひびく轟音がとどろいた。
腰を落とした直後のことだ。そのベンチ椅子がいきなりグッと地面にめり込んだかと思うと、続いて地響きが起こったのである。
「立て、カイル!」
ギルは、とっさに追いついてカイルを引っ張り起こすと、そのまま入口の横の岩肌にぶつけた。そしてすぐ、自分の体でカイルを庇った。
間一髪、頭上から次々と大きなものが転がり落ちてきた・・・!
丸い巨石だ。それらはカイルがいた場所に落下したあと、球体を保ったままゴロゴロと階段の方へ流れていく。この広場の傾斜が、そこまでゆるい下り坂になっているからだ。
火山の入口を正面から見た外観は、まさに周柱式神殿の玄関のように造られている。三角屋根に見立てている中央には怪しい穴があり、それらの岩はそこから吐き出されたと考えられた。というのは、実際に出てくるのを確かめていたら、きっと逃げ遅れていただろう。そのため、ほとんど直感だった。
カイルを胸の前に庇いながら、ギルは肩越しに振り向いて、嫌な予感が確信となったことにますます苦い顔をした。山の斜面を利用した、こんな罠も計算して造られているということは、内部にも必ずあるはずだ。
その時には、エミリオとアランも同じように避難していた。そして、目の前に次々とこぼれ落ちてくる大岩を愕然と見つめていた。
やがてそれらは、この広場を取り囲んでいる低い塀を伝って、ついには階段の下へと落下していく・・・。
エミリオはハッとした。
「レッドとリューイが!」




