中央突破
「カイルとアラン卿は、先に階段を上ってください。ここで彼らの足を食い止めなければ。」
エミリオが言った直後に、頭上でガサッという物音がした。かと思うと、彼らの前にたちまち大きなものが舞い降りてきた。
リューイだ。
リューイは、手に長い鉄の槍を持っていた。いかにもならず者の武器らしく仕立てられていたが、リューイにとって得意な棒術を思わせるものは、(※)ロブとの修行を思い起こさせるものであり、愛着が持てた。
「どこで手に入れた。」
レッドがきいた。
「ヤツらが持ってた。」
リューイは腕白小僧のようにニコニコして答えた。
「海賊ごっこか・・・。」
レッドは呆れたため息をつく。
「そういや、砂漠でもそんなヤツを使いこなしていたな。」
「剣はさっぱりだけどな。さっきの奴らは海の方へ引き返して行ったぜ。けど、今度のあいつらは何なんだ?」と、リューイは火山の方へ顎をしゃくった。
「同じ類の奴らだ。キリがねえ。」
「突っ切るか?」
面倒だな・・・という顔でそう言ったギルは、スラリと剣を引き抜いた。
それに応えて、戦えるほかの三人も武器を手に取った。そして、真ん中にアランとカイル、右側にリューイとエミリオ、そして左側にレッドとギルがついた。刃渡りがあるため、やや距離が必要になる大剣使いの二人が後ろに回った配置だが、早業に長けているレッドとリューイが敵を蹴散らしてくれると分かったうえで、速やかに自然と組まれた隊形である。
「合図してくれ。」
レッドが言った。
「誰でもいいなら、俺が言うぞ。」
ギルが答えた。
「あんたに頼んでる。」
ほかの者たちもうなずいた。
「よし・・・。」
軽く左手を上げたギルは、それを前方へ一振りした。
「行くぞ!」
彼らが飛び出して行くと、火山の麓で待ち構えていた敵も気づいて、剣を振りかざしながら一斉に襲いかかってきた。
気が引き締まる・・・というより、全身の血が臨戦態勢に入る。そして感覚の全てが冴えわたる。戦いに意識を向ける時そうなると、ひっきりなしに向けられる敵の剣は、何もめまぐるしい攻撃ではなかった。
レッドは、向かいくるものを情け容赦なく斬り捨てた。リューイは叩き飛ばして次々と排除していく。エミリオとギルは、大剣をぐおんと振り回して、敵を威嚇しながらあとに続いた。
後ろにいる敵の多くが、その迫力に尻込みして襲撃をためらってくれる。その間を、彼らは火山の麓までいっきに走り抜けた。
そうして、長い石段の下までまっしぐらにやってくると、敵に向き直った仲間たちが援護してくれる間を通って、アランとカイルは一足先に上って行った。
敵の狙いが、今度はそちらに定められる。
最も階段の近くを守っているのは、エミリオとギルだ。リューイはもともと、自分から敵に向かっていくという習性が強いため、知らずと少しずつ離れがちになってしまう。レッドは、時と場合によるが、この時は攻撃の姿勢が強く出ていた。その点エミリオとギルの二人は、来るもの拒まず相手になるという守りの姿勢。その場から大きく動くことはほとんどない。ただ、共に大剣の使い手であり、それを縦横無尽に振り回すので、二人の間にはどうしても距離が必要になる。
そこをすり抜けた敵が二人、とうとう階段に足をかけた。
素早く身を翻したギルは、瞬く間に追いついて、一人の背中を貫いた。あとの一人はみるみるアランに迫っていたが、ギルの気配を感じ取ると、振り向きながら剣を構えた。
カキーンッ!
ギルと男の剣がぶつかり合う。だが男は、死に物狂いで横に受け流すのが精一杯だ。腕を伝うその衝撃だけで、相手との格の違いを思い知らされ、ゾッとなった者は多くいる。しかしこの男は、その恐怖を覚える暇すらなく、袈裟懸けに斬り裂かれて息絶えた。
持ち場を離れたギルのおかげで、エミリオ一人に、あらゆる角度から剣が突き出された。エミリオはひらりと飛び退くと早くも攻撃の態勢に入っており、右や左、そして斜めに白刃を閃かせる。しなやかに、かつ猛々《たけだけ》しく動く剣は、三人の男を連続で捉えた。肩や胸を斬りつけられて、男たちは次々と倒れこむ。
不意に、そこで攻撃が止んだ。その強さの前に、敵の誰も彼もが思わず竦み上がってしまったからだ。
大剣を握り締めていながら、流れるように華麗で無駄のない身のこなし。それを可能とする筋力が備わっているということ。その美貌からは思いもよらない肉体と、戦闘能力の持ち主。敵はみな、いったいこの男は何者だ・・・とでも問いたげな驚愕の眼差しで、目の前に立ちはだかる青年を見つめた。
さらに、同じことがもう一人の大剣使いにも言える。そして、相手の数の多さをものともせず、驚異的な早業で見る間に敵の数を減らしていくあとの二人。そこでは、海賊に扮した男たちの方ばかりが次々と悲鳴を上げている。
敵の部隊は、自分たちが追いかけていたのが、とんでもない屈強の戦士たちであるという事実に、今になってようやく気づいたのである。
そんな敵の間に割って入るようにして、レッドが戻ってきた。
「エミリオも行ってくれ、二人を頼む!」
レッドは、エミリオと肩を並べると言った。
すぐに了解して背を返したエミリオは、階段を上がってギルにそのことを伝える。
「あとからどうにか追いついてこいよ。」と、レッドの頭の上からギルの大声が聞こえた。
「そっちが迷子になってなけりゃな。」
ギルはふっと笑った。
「待ってやらんからな。」
「ああ、分かってる。」
レッドが二本の剣を構えて腰を落とすと、固まっていた男たちはいよいよ攻撃をためらった。
隙のない表情で睨みつけてくるその若者は、不吉なことに両方の手に長剣を握り締めているのだ。
「まさか・・・二刀流の鷲。」
一人がついに言った。
やっと出てきたその声はひどく震えていたが、きき返す者はいなかった。
「だが・・・若すぎる。」
「しかし・・・あの二刀流は・・・。」
「アイアスか・・・?」
そろって血相を変えた男たちは、口々にそう騒ぎだした。
(※) ロブ = リューイの育ての親であり師匠。武術の達人。




