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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第12章  アルザスの宝剣  〈 Ⅸ〉  
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中央突破


「カイルとアラン卿は、先に階段を上ってください。ここで彼らの足を食い止めなければ。」

 エミリオが言った直後に、頭上でガサッという物音がした。かと思うと、彼らの前にたちまち大きなものが舞い降りてきた。


 リューイだ。


 リューイは、手に長い鉄のやりを持っていた。いかにもならず者の武器らしく仕立てられていたが、リューイにとって得意な棒術を思わせるものは、(※)ロブとの修行を思い起こさせるものであり、愛着が持てた。


「どこで手に入れた。」

 レッドがきいた。

「ヤツらが持ってた。」

 リューイは腕白小僧わんぱくこぞうのようにニコニコして答えた。

海賊かいぞくごっこか・・・。」

 レッドはあきれたため息をつく。


「そういや、砂漠さばくでもそんなヤツを使いこなしていたな。」

「剣はさっぱりだけどな。さっきの奴らは海の方へ引き返して行ったぜ。けど、今度のあいつらは何なんだ?」と、リューイは火山の方へあごをしゃくった。

「同じたぐいの奴らだ。キリがねえ。」

「突っ切るか?」

 面倒だな・・・という顔でそう言ったギルは、スラリと剣を引き抜いた。


 それにこたえて、戦えるほかの三人も武器を手に取った。そして、真ん中にアランとカイル、右側にリューイとエミリオ、そして左側にレッドとギルがついた。刃渡はわたりがあるため、やや距離が必要になる大剣使いの二人が後ろに回った配置だが、早業はやわざけているレッドとリューイが敵を蹴散けちらしてくれると分かったうえで、すみやかに自然と組まれた隊形である。


合図あいずしてくれ。」

 レッドが言った。

「誰でもいいなら、俺が言うぞ。」

 ギルが答えた。

「あんたに頼んでる。」

 ほかの者たちもうなずいた。

「よし・・・。」

 軽く左手を上げたギルは、それを前方へ一振ひとふりした。

「行くぞ!」 


 彼らが飛び出して行くと、火山のふもとで待ち構えていた敵も気づいて、剣を振りかざしながら一斉に襲いかかってきた。


 気が引き締まる・・・というより、全身の血が臨戦態勢に入る。そして感覚の全てがえわたる。戦いに意識を向ける時そうなると、ひっきりなしに向けられる敵の剣は、何もめまぐるしい攻撃ではなかった。


 レッドは、向かいくるものを情け容赦ようしゃなく斬り捨てた。リューイは叩き飛ばして次々と排除していく。エミリオとギルは、大剣をぐおんと振り回して、敵を威嚇いかくしながらあとに続いた。


 後ろにいる敵の多くが、その迫力に尻込しりごみして襲撃をためらってくれる。その間を、彼らは火山の麓までいっきに走り抜けた。


 そうして、長い石段の下までまっしぐらにやってくると、敵に向き直った仲間たちが援護えんごしてくれる間を通って、アランとカイルは一足先に上って行った。


 敵の狙いが、今度はそちらに定められる。


 最も階段の近くを守っているのは、エミリオとギルだ。リューイはもともと、自分から敵に向かっていくという習性が強いため、知らずと少しずつ離れがちになってしまう。レッドは、時と場合によるが、この時は攻撃の姿勢が強く出ていた。その点エミリオとギルの二人は、来るものこばまず相手になるという守りの姿勢。その場から大きく動くことはほとんどない。ただ、共に大剣の使い手であり、それを縦横無尽じゅうおうむじんに振り回すので、二人の間にはどうしても距離が必要になる。


 そこをすり抜けた敵が二人、とうとう階段に足をかけた。


 素早く身をひるがえしたギルは、またたく間に追いついて、一人の背中をつらぬいた。あとの一人はみるみるアランに迫っていたが、ギルの気配を感じ取ると、振り向きながら剣を構えた。


 カキーンッ!


 ギルと男の剣がぶつかり合う。だが男は、死に物狂いで横に受け流すのが精一杯だ。腕を伝うその衝撃だけで、相手との格の違いを思い知らされ、ゾッとなった者は多くいる。しかしこの男は、その恐怖を覚えるひますらなく、袈裟懸けさがけに斬り裂かれて息絶いきたえた。


 持ち場を離れたギルのおかげで、エミリオ一人に、あらゆる角度から剣が突き出された。エミリオはひらりと飛び退くと早くも攻撃の態勢に入っており、右や左、そして斜めに白刃はくじんひらめかせる。しなやかに、かつ猛々《たけだけ》しく動く剣は、三人の男を連続でとらえた。肩や胸を斬りつけられて、男たちは次々と倒れこむ。


 不意ふいに、そこで攻撃が止んだ。その強さの前に、敵の誰も彼もが思わずすくみ上がってしまったからだ。


 大剣を握り締めていながら、流れるように華麗で無駄のない身のこなし。それを可能とする筋力が備わっているということ。その美貌びぼうからは思いもよらない肉体と、戦闘能力の持ち主。敵はみな、いったいこの男は何者だ・・・とでも問いたげな驚愕きょうがく眼差まなざしで、目の前に立ちはだかる青年を見つめた。


 さらに、同じことがもう一人の大剣使いにも言える。そして、相手の数の多さをものともせず、驚異的な早業はやわざで見る間に敵の数を減らしていくあとの二人。そこでは、海賊にふんした男たちの方ばかりが次々と悲鳴を上げている。


 敵の部隊は、自分たちが追いかけていたのが、とんでもない屈強くっきょうの戦士たちであるという事実に、今になってようやく気づいたのである。


 そんな敵の間に割って入るようにして、レッドが戻ってきた。

「エミリオも行ってくれ、二人を頼む!」

 レッドは、エミリオと肩を並べると言った。

 すぐに了解して背を返したエミリオは、階段を上がってギルにそのことを伝える。

「あとからどうにか追いついてこいよ。」と、レッドの頭の上からギルの大声が聞こえた。

「そっちが迷子になってなけりゃな。」

 ギルはふっと笑った。

「待ってやらんからな。」

「ああ、分かってる。」

 レッドが二本の剣を構えて腰を落とすと、固まっていた男たちはいよいよ攻撃をためらった。


 すきのない表情でにらみつけてくるその若者は、不吉なことに両方の手に長剣を握り締めているのだ。

「まさか・・・二刀流の鷲。」

 一人がついに言った。

 やっと出てきたその声はひどく震えていたが、きき返す者はいなかった。

「だが・・・若すぎる。」

「しかし・・・あの二刀流は・・・。」

「アイアスか・・・?」

 そろって血相を変えた男たちは、口々にそうさわぎだした。






(※) ロブ = リューイの育ての親であり師匠。武術の達人。








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