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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第12章  アルザスの宝剣  〈 Ⅸ〉  
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麓で待ち構える敵とは


 リューイも、そしてほかの者もみな反射的に腰を落とした。

 不可解な点はあるものの、先ほどの海賊かいぞくが追いかけてきたと考えられた。ただ、エミリオやギルには、何の不思議も無かったが。


「左手のずっと向こうにいるようだ。」

 エミリオがするどくささやいた。

「ちくしょう、これじゃあ身動き取れねえ。」

 レッドが言った。

「ああ立ち上がったら終わりだ。標的ひょうてきにさせる。」と、ギル。

「どうするのっ。」

 カイルが息混じりにわめきかける。 


 そこへ、少し先にいたリューイが匍匐ほふく前進で戻ってきた。

「俺に任せな。すきを作ってやるから、あの岩陰を目指して走れ。できるだけ体を低くしてな。」


 リューイはそう言いながら、その辺にある小石をズボンのポケットに詰め込んでいる。面白い悪戯いたずらを考えついた・・・と、幼い少年がわくわくするような顔で。


「あいつ何で楽しそうなんだ・・・。」

 レッドには、そんな相棒あいぼうがつくづく恐ろしい。


 ほかの者たちが唖然あぜんと見ている間にも、そのままうようにして近くの巨木の後ろに回り込んだリューイは、いきなり猿も顔負けの身軽さで木によじ登り始めた。


 たちまち、その木に狙いが定められる。


 リューイが上にいくにつれて、放たれた矢がカッカッカッと木のみきに突き立った。


 無事に太い枝までたどり着いたリューイは、すぐにまた下から矢が飛んでくるだろうと予想して、今度は木から木へと瞬く間に飛び移っていった。


 高い所に上がったリューイからは、敵の位置がよく分かった。なるほど、背高いくさむらの中に弓矢を構えた男たちがうごめいている。リューイは子供のようにニヤリと笑うと、下から攻撃を仕掛けられるよりも先に、相手に向かってびゅんびゅんと石つぶてを投げつけ始めた。


 一方、伏せている仲間たちには、枝葉えだはがガサガサッとこすれ合う音が、急速に左の方へ移動していったことしか分からない。  


 だがそのうち、痛々しい悲鳴がさかんに沸き起こった。小石といえど、仕掛けている者がまさしく超人といえる力を使うので、あなどれない威力いりょくをもつ。実際、相手はたまらんとばかりに逃げまどい始めた。


 あとに残された者たちは、ハッと気づいたギルの合図あいずで、リューイが指示した岩陰へ。

「今だ、走れ!」


 レッドがサッとカイルの腕をつかんだ。

「行くぞ。」


 勢いよく引っ張られたカイルは、おかげで飛ぶようについていった。


 邪魔になるつるや枝葉を、無我夢中でき分けながら走った。そうして、どうにか全員無事に、目指していた巨石の陰にたどり着くことができた。誰もが、ぜえぜえのどを鳴らして岩肌にもたれかかり、できる限り息をひそめて辺りの気配に注意を向ける。


 ひっそりと静かだった・・・。


「リューイは・・・?」

 エミリオが不安そうにきく。

「無事だろう。こんな状況でさえ、一人わくわくしてたからな。」

 レッドが答えた。

「あんなこと、日常 茶飯事さはんじだったんだろうな。」と、ギル。

「彼は何者だ・・・。」

 アランも驚いている様子で問う。

けものの大将・・・。」

 そんな答えがついレッドの口をついた。


 あらためて周囲を確認したギルは、「よし、行こう。」と、仲間たちをうながした。

「え、リューイがまだだよ。」

 カイルのそれには、ギルは早くも踏みだしながらこう答えた。

「行き先は分かってるんだ。あいつなら、あるいは俺たちよりも先に到着して、待っているかもしれないぜ。」






 イドラキア火山のそばまで来ると、まず、巨大な立像りゅうぞうが目を引いた。それは地上から数十メートルの高さにある。そこまでは、長い石段らしきものが続いている。それらが何体あるかは、木々が視界の邪魔をしているので分からない。ほかには、やはり見えづらいものの、数本の円柱が確認できた。見える限りでは、その火山の一部は、神々《こうごう》しい石の神殿という様相をていしていた。


「うわ、ほんとに宝物が眠ってそう。」

 樹海じゅかい細道ほそみちから、それに見惚みとれてばかりいたカイルは、そこを通り抜けるやいなや、背中からあわててしげみへ戻った。おかげで、後ろに続いていたレッドとぶつかりそうになる。


 火山の全貌ぜんぼうが明らかになると同時に、海のならず者といった男たちの姿まで目に飛び込んできたからだ。誰も彼もが抜き身の剣をにぎり締め、石段の下でうようよと待ち構えている・・・そんな物騒ぶっそうな光景が。


 片手だけでカイルの背中を支えてやったレッドの視線は、すでにその男たちの方にある。

「さっきから、なんだって奴ら俺たちなんか追ってくるんだ。いや、これは先回りか。」

「ディオマルク王子の船が目当てじゃなかったの ⁉ 海賊なのにーっ!」

 そう小声でわめいて、カイルは地団駄じだんだを踏んだ。


「海賊なんかじゃないさ、奴らは。」

 ギルが言った。


「はっ⁉」

 レッドとカイルが、しめし合わせたようにあんぐりと口を開ける。


「逆に襲ってくれと言わんばかりの、あんなきらびやかな海賊船があるか。にせ海賊旗をかかげただけじゃあだましようもない。俺はそれを見た瞬間、小馬鹿にされているのかと思ったぜ。ディオマルクだって気づいただろうよ。だから奴らを引き付けるではなく、援軍えんぐんを連れてくるなんて言ったんだ。」

 そしてギルは、前方に見えているその集団ににらみをかせた。

「くそ、やはり来やがった。」


「・・・てことは。」と、カイル。

 アランが苦い口調で、「メサロバキア・・・。」

「恐らくそうでしょう。」

 エミリオも知らずと鋭い声になる。


「くそ、スパイか・・・。」

 レッドは、気づかなかった自分に腹が立った。この島のことは、エミリオやカイルのおかげで分かったことだ。それまで知られていたとなると、ほかには考えられない。










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