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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第12章  アルザスの宝剣  〈 Ⅸ〉  
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海賊?


 大海原を航海して数日後、一行はついにその謎めく無人島、タナイス島付近に到達した。そこからは、断崖から海へ向かって流れ落ちている細い滝など、緑深いその島の様相がはっきりと見て取れる。


「あの島です。中心の大きな山、あれがイドラキア火山です。」

 アランが、ふもとの緑から抜きん出ている茶色の山を指差して言った。

「あそこを目指してみますか。」と、エミリオがアランをうかがう。

 アランはうなずいた。

「この島でめぼしい場所は、そこだけですから。」


 船は停泊するのに良い場所を探して、島をぐるりと一周し始めた。その途中、彼らは、まだ形をとどめている無人らしき数隻すうせきの帆船を発見した。どれもこれも、アランには見覚えのある船だ。


「いったい何が・・・。」

 まゆをひそめてそれらを見つめているアランの口から、恐ろしさと動揺のつぶやきが漏れる。

「調べてみますか。」

 今度はギルが声をかけた。

 アランは気になりながらも首を振った。

「いえ。ここに先祖が残してくれた財宝があるのなら、暗くなる前に探し当てなくてはなりません。こうしている間にも、我らの国の民はみな苦しんでいるのですから。それは、またあらためてのちほど。」

 つらそうに微笑んだアランに、その心情を察したエミリオやギルも、同じ面持ちで微笑み返した。


 まさに、その時・・・!


 突然、マストの見張り台から緊迫した声があがったのである!


「か・・・海賊かいぞくだ!」


 一斉いっせいに、見張り台を見上げた。

 その水兵は、指先をぴんと真西に突きつけている。

 船の横から島を眺めていた彼らは、すぐさま船尾に回った。


 誰もが息をんだ。

 忽然こつぜんと後ろに現れたそれは、なんと大きなガレオン船。見張りの兵士だけは、それが岸壁の陰からヌッと姿を現わしたのを見ていた。そして、マストに張られた海賊旗かいぞくきも。


 確かに海賊旗だった。とても綺麗な、つい最近 海賊かいぞく始めましたという感じの、本当に綺麗なはただった。それだけではない、真っ直ぐに向けられている船首が金色に輝いているのをはじめに、船体の上部のラインやマストの模様もようまばゆい金で、海賊の荒々しさは感じられない見事な大型帆船である。


 そのため、ギルやエミリオなどはたちまち違和感がし、顔をしかめていた。


 騒然そうぜんとしだした兵士たちの中から、今度は一人があわただしくやってきて、「王子、射撃してくるようです!」と、ディオマルクに報告した。


 ところが男が言っている間にも、その船から何か大きな物体が飛んできて、そばに落ちた。ダリアス号は、その時にできた波に持ち上げられて大きく揺れ動いた。あからさまな威嚇いかく射撃だ。


 デッキにいる者はみな、欄干らんかんやそばにあった何か固定されたものに、とっさにつかみかかって踏みこらえた。


 リューイは、船上を転げ回りそうになったキースと一緒に、船体が斜めになった勢いで船室の壁にぶつかっていった。リューイはそのあと、急いで横にあったドアを開けると、キースを船内に押し込んだ。


 リューイが戻ってきた時には、続いて第二の武器が放たれていた。

 次に飛んできたのは大きなやりである。それは、ダリアス号の後ろから、船体をかすめて飛び過ぎて行った。


「ちくしょう、やり返したくても何にもできねえ。」

 うまく順応してバランスを取りながら、リューイは相手の船をにらみつけた。そのリューイの前には、船べりの手すりにしがみついているカイルがいる。

「おいカイル、何とかできないのか。何か呼び出しておどすくらいできんだろ。」

「何がどこに飛んでくるか分からないのに、集中できないよっ。」

「お前はほんとに、ちょっと気合と修行が足りないんじゃないのか。ニルスでのことと言い。」


 カイルは何か言い返してやりたかったが、ただ黙ってうらめしそうにリューイを見ただけだった。ニルスでの一件で、助けるためとはいえ、リューイにいきなり両足をつかまれて体を引きりまくられたあげく、その状態でおまけに化け物をやっつけろと無茶を言われたことは、今でも一生忘れまいと思っていた。


 そんな二人のそばには、忌々《いまいま》しげに舌打ちして反撃を考えているレッドもいる。

「向こうに乗り移って接近戦でもできればな。」


 その混乱の中、ディオマルクがギルの腕をつかんで言った。

「この船では、相手の方が速度も強度も上だ。ここより東へ数時間の距離に、我らの漁場がある。そこに、腕のたつたくましい海の男たちがそろっている。多少は、みないくさの経験もある者ばかりだ。それに、その漁船には攻撃の装備も万全に整っている。」


 ギルにはすぐに合点がてんがいった。

「よし分かった。だが、俺たちだけを先に降ろすことはできるか。」

「やってみよう。あの岩陰から小舟を下ろす。そなたらは、それで行くがよい。我らは一度ここを離れる。そして、あの場所へ戻ってこよう。海の援軍えんぐんを連れて。」

たのんだぞ、ディオマルク。島へは俺たち五人で行くから。」


 その言葉を聞いていたアランは、驚いて身を乗り出した。

「ギル殿、何を言う。私も一緒に ―― 」

「今行くのはより危険だ。宝を無事に探し当てたら、その時は皆で来ればいい。」

「ここは恐らく先祖が長年守ってきた島。超自然の何が起こるか知れない。ならば私が必要な時もあるでしょう。私はその子孫なのだから。」


 ギルは少し思案したが、迷っている余裕もなくうなずいた。

「・・・もっともだな。よし、行こう。」


「この先の岩陰へ!小舟を下ろす準備を!そのあと、一度この島を離れ応援を呼びにゆく!」

 ディオマルクは、するどい声を張り上げて水兵に指示した。


 船のあちらこちらから命令を伝え合う声が飛び交い、水兵たちはそれにしたがってきびきびと動いた。

 そして、ダリアス号がうまく岩陰に身を隠すと、すでに下ろす準備がされていたボートに、六人の男が素早く飛び乗る。


 彼らを海に降ろしたあと、船長もまた威厳いげんたっぷりに命令を下した。

「ネスタ島へ向け、取りかじいっぱい!全速前進!」


 ダリアス号は豪快に動いて、すみやかに方向を転換した。










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