密偵からの報告
メサロバキアの王城では、国王ジェイコフが、まんまと情報を入手することに成功していた。
ジェイコフは、一度は腹も立つ報告を聞かされた同じ部屋で、同じ椅子に座りながら、今回は初めから不気味な愉悦の笑みを浮かべている。
「なるほど、財宝のありかを示す壺とな。」
「その中には、恐らく例の剣も・・・。」
側近が、王のやや斜め後ろから囁きかけた。
「あの島にそんな財宝が・・・。」と、ジェイコフは何やら陰謀めいた声。
王の前にうやうやしく片膝を付いている、見た目だけはおとなしそうな顔のその男が、しばらくこの国を離れてしていたことといえば、モルドドゥーロ大公国の城に上手く忍び込んで、誠実な家来を気取ることだった。男は、そのための知識や、小道具も使いこなせる技術にも長けた、かなり腕のいい密偵である。
「はい、しかし帆船を持っていないらしく悩んでおりました。それを手に入れるのに時間がかかるかと・・・。」
男は、わざと微妙に事実とは異なる報告をした。その時、彼らはそれについて当てがあるような話をしていたが、男には全く奇妙で信じられず、確信が持てなかったからだ。誤った情報を伝えて無駄に混乱させてしまうと、責任を問われ罰を受けることになってしまう。
一方これを聞くと、ジェイコフは盛大な笑い声を上げた。
「無理もない。形だけでも国を残したいなら、家宝まで全て差し出せと命じてやったからな。よし、それでは海賊を装って、そのお宝とやらを頂戴しに参るとしようぞ。余を欺いた慰謝料だわい。」
思わず立ち上がったジェイコフは、欲望に駆られて、もういろいろと愉快な想像を膨らませていた。だが、そんな楽しそうな王に、密偵の男は続いて不吉な報告をしなければならなかった。
「王陛下、ただ気になることが・・・そこを彼らは、呪われた島・・・と。」
すっかり良い気分でいたところに水を差されて、ジェイコフは顔をしかめる。
「なに・・・うーむ・・・未知なる神々《こうごう》しい火山島タナイスだ・・・。ないがしろにはできぬ話だな。では、我らとしても対策を打たねばなるまい。」
ジェイコフは、側近を横目に見て言った。
「適当な術使いを探して参れ。」
側近はうやうやしく頭を垂れ、密偵の男も下がれと命じられて、二人は速やかに退出した。
ジェイコフは再び椅子に落ち着くと、ほかに誰もいなくなったその部屋で、ひとり怪しく微笑んだ。




