宝剣伝説
メサロバキアの王城では、早速彼らの犯行について捜査が行われた。
豪華で驚くほど大きな安楽椅子には、不機嫌そうな顔をした王ジェイコフが、どっしりと腰を下ろしている。あぐら鼻で、でっぷり太った体。そのせいか、小さくて細い目には陰険な印象があり、常に何か悪巧みでもしているよう。
太って丸々としている者ならたくさんいるし、あぐら鼻の者も、瞳が小さくて細い者もたくさんいる。だが、この国の王は本当に、身のまわりの煌びやかさがなければ、荒野を徘徊するごろつきと少しも違うところなどないような男だった。
ここは、目も眩むばかりに眩い部屋だ。壁や天井の至るところに、葡萄の蔓や鳥の金飾りが貼り付けてある。なのに今は、ただ棘を刺されるような険悪な空気に満ちていた。
王のすぐそばには、常に苦虫を噛み潰したような顔つきの側近が立っている。いつにも増してそう見えるのは、王が不機嫌そうにしている理由と同じ。若い金髪の侵入者に痛めつけられた家来の報告を聞いたからだ。
「奴らが盗んだものは、本当にモルドドゥーロ大公国が差し出してきた壷だけなのか。ただの骨董品泥棒ではあるまい。」
その側近は、失態を演じた家来たちに嫌悪感剥き出しの訝るような目を向け、冷ややかな声でそうきいた。
顎に手をあてた王ジェイコフの方は、低い声でううむと唸った。
「これをどう考える。」と、ジェイコフは側近に目を向ける。
そう問われる前からもう推理を進めていた側近は、すぐにこう答えた。
「はい。犯人はわざわざ指定してそれを盗んで行きました。その価値が分かるのは、家宝を全て差し出してきたかの国だけでしょう。ですので、やはり取り返しに来たと考えるのが妥当かと。」
「どういうつもりだ・・・弱小国が。」
「陛下・・・気になることがあります。恥を承知で名誉も何もかもおとなしく差し出してきたかの国が、今更このような危険を冒してまでも取り戻したい家宝があるとすれば、考えられるのはただ一つ・・・。」
「それは・・・何だ。」
側近は一拍おいてから答えた。
「アルザスの剣です。」
眉を動かした王ジェイコフは、少し黙った。
「アルザスの・・・昔、聞いたことがあるな。」
「もはや破綻してもおかしくはない小国ですが、かの国には唯一ほかの国々にとっても価値の高い伝説が残されています。それがアルザスの宝剣伝説。アルタクティス伝説の一つです。」
「そうそう、アルタクティス。今、存在するのかどうかも分からぬようなものに興味など無かったが。」
「はい。その昔、インディグラーダ地方を震撼させた妖術師を倒したというそれを、魔除けの剣として欲しがる国が次々と現れだしたため、国と国との衝突を恐れたかの国はそれを隠し、その後誰にも分からなくなってしまった・・・というのが、今現在、広く知られている結末です。これはあくまで私の推測ですが、ほかにはそう思わせておきながら、子孫には何か手掛かりを残していたのではと。もはや潔く家宝を全て差し出してきたかの国に、あのような壺一つに未練があったとは思えません。つまり・・・。」
「あの壺に、その手掛かりが隠されていると?」
「その可能性も考えられるかと。恐らく、それに気づいたのではないでしょうか。」
「アルザスの剣・・・。それは、確か金で塗られた剣だったな。」
王ジェイコフは、まさに何か悪巧みを思いついた時の笑みを浮かべた。
「モルドドゥーロに密偵を送れ。」
ジェイコフはそう言うと、下がれという意味をこめて手の甲で払い退ける仕草をした。
曲者を捕り損なったばかりでなく、逆に人相が変わるほど顔を腫れあがらせて、王の前にその醜態を晒しにきた点検当番の家来たちは、このあと数日に渡って、暗く冷たい牢獄に放り込まれる運命にあった。




