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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第3章  精霊石 〈 Ⅰ -邂逅編〉
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盗賊 対 武闘家


 レッドは、相手ににらみを利かせて二本の剣を構えた・・・ところで、一瞬視界に入ったリューイの表情にゾッとした。リューイの面上には笑みが浮かんでいる。それは余裕というよりも、楽しむといった笑顔。丸腰まるごしで身構えているその姿に、レッドはハッと思い出したのである。リューイは、確か武術をやっていると言っていた。その言葉を疑いはしなかったが、レッドには、いくつもの凶器に囲まれて、素手でまともにやり合えるとはとうてい思えなかった。


 「お前、腕はたつのか。」

 「じいさん以外にはだいたい勝てる。」

 「じいさん以外ってなんなんだ。老いぼれじいさんにはやられるってことか。」

 「俺の師匠さ。めちゃくちゃ強い。」


 そう答えながら、リューイは、雄叫おたけびと共に飛び掛かってきた一人目の攻撃をヒラリとかわした。レッドの顔を見ながら、それをけたのである。さらには、回避したその流れのままに、襲撃者の腰にあまりにも鮮やかな回し蹴りを食らわせていた。


 「ぐあっ!」


 その男は、決して細身などではなかった。なのに、その時のリューイの落ち着き払った表情とは裏腹に、男の体は面白いように吹っ飛んで砂地にめり込んでしまった。


 この瞬間、思わず唖然あぜんとしたレッドにすきが生じた・・・が、ここぞとばかりに、そこを突かれるようなことはなかった。誰も彼もが驚いて、つかの間、その場は時が停止したようになったからだ。


 「リューイ・・・!」

 一瞬にしてこの相棒の強さを理解したレッドは、あわててそばへ駆け寄ると、小声で言った。

 「できれば殺さないでくれ。」


 「向こうはやる気なのに?」

 「ああけど・・・。」


 レッドは、カイルがミーアを連れて隠れた瓦礫がれきの方を見やった。


 同じところに目を向けると、リューイもようやく合点がてんがいって、微笑した。


 「了解。」

 「できるか。」

 「うっかりしなけりゃな。」


 相棒も同じ剣士ならば、背中合わせになっているところ。だが、こいつの場合は離れていた方がいいと判断したレッドは、リューイと距離を置いた。


 盗賊たちは最初の驚きから覚めると、「ふざけやがって!」と一斉に騒ぎ出し、気を取り直して再び武器を構える。


 その形相ぎょうそうに、「割に合わないな。」とつぶやいたリューイの目の前には三人いた。その誰もが「こいつを、なめていた。」と言わんばかりの警戒のしようで、冷や汗を滲ませながら、丸腰の青年に鋭い刃先を向けている。初め無防備に見えたのはとんでもない誤解で、迂闊うかつというしかない。この男は、恐らく体中に武器を備えているも同然。


 長槍ながやりを手にした一人が、ついに動いた。男はリューイの喉元のどもと目がけて勢いよくやりを突き上げる。それをリューイは思いもよらない動きで避けた。いきなり背中をけ反らせて飛び上がったかと思うと、そのまま地面を押し上げて後ろへ行ってしまったのである。砂地にもかかわらず、バク転を見事にやってのけたのだ。


 またも不意をつかれて、盗賊たちは唖然とした。


 「くそっ。」

 相手の男は悪態をつき、再び駆け寄って突きを入れる。


 しかしその男が何度攻撃を仕掛けても、結果は同じ。長槍はむなしく空を斬るばかりだ。


 その奇妙な動き ―― アクロバット(軽業かるわざ)―― は、一種の見世物のようでもあった。だが明らかに違うのは、曲芸の柔らかさは全く感じられず、その技の一つ一つにキレのいい鋭さが見られること。あくまで格闘技だからだ。リューイが叩き込まれた拳法けんぽう独特の身ごなしだった。


 リューイは楽しそうに笑い、「どうした、かすりもしないぜ。」と、挑発した。


 「きさま、軽業師かるわざしかっ。」

 激しく肩を上下させながら、男は上擦うわずる声でわめいた。


 リューイは完全に相手を翻弄ほんろうし、明らかにわざと無駄な動きをしている。最近なまり気味だったから。


 「何やってんだ、ヤツは武器を持ってないんだぜ!」


 ひかえているもう一人にとっては、あまりにじれったい。その気品ある見かけによらない意外な強さが分かっても、たまらず野次の一つも飛ばしたくなる。そう、なんせ相手は手ぶらなのだ!


 盗賊の男は、もはや無闇やたらに槍を振り回している。一方のリューイは、そのでたらめな攻撃をも余裕綽々(しゃくしゃく)でかわし続けているのである。汗一つ滲ませず、すでにその表情は勝ち誇った自信に満ちていた。


 「武器なんていらねえよ・・・まあけど。」


 胸中でそうつぶやいたリューイは、やっと避けるばかりでなく、まだ向かってくる凶器を一瞬でり飛ばした。。男の手を放れた槍は、数メートル向こうに横たわった。そこへ向かって、リューイはまたもバク転を繰り返しながら移動した。


 そして立ち上がった時、その手には槍が。


 技のどれもに殺傷さっしょう力を持たせることができながらも、リューイは合わせて棒術ぼうじゅつの訓練をも受けていた。しかも、その達人でもある師匠のロブと互角にやり合える実力がある。


 リューイは続きを声にした。

 「そろそろ終わりにするか。」


 だがすでにやりり上げられた男は腰を抜かしていて、喧嘩けんかはおろか、とても動けるような状態ではなかった。リューイが迫力満点で蹴り上げた右足は、男のすぐ目の前をまともにかすめ過ぎたのだから。


 その時 ——。


 リューイが最初に蹴り飛ばした男が、左半分が砂まみれになった顔をヌッ・・・と上げた。








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