逃走
上手く追っ手の目をかいくぐってきたレッドとカイルは、あらかじめ下見をしていた合流場所で、仲間たちが待っている小さな幌馬車をすぐに見つけることができた。
御者台にいるギルとエミリオも気づいて、「急げ。」と鋭く囁きかける。
予定通りに馬車を停めていた二人は、予定外の事態となったことをすでに承知のよう。とにかく、一刻も早く町を出なければ。
二人が荷台へ転がり込むと、シャナイアとミーアの向かいに、とっくに着替えを済ませて腰を落ち着かせているリューイがいた。
「おかえり。」
リューイは軽い声で二人を迎えた。
「少しはてこずったか。」
レッドはリューイの隣に座った。
このリューイを見るなり思い出して、カイルはあっと口を開ける。
「僕、肝心の壷 ―― ⁉」
リューイはニヤッと笑った。それから、そばに無造作に置いてあったように見える毛布に手を伸ばして、実はそれで包んでいたものを取り出した。
出てきたのは、アランが特徴を伝えていた通りの壷である。大きさは一般的な成人男性の頭一つ分ほど。丸型の白い壺で、薄い青で描かれた模様が螺旋状にほどこされていた。
「こいつをもらう時間を少しとっただけだ。」
それでも二人が帰って来るより早い。
「さすが・・・。」
カイルは惚れ惚れとして言った。
そう会話をしている間にも、シャナイアは大急ぎでカイルの変装を解いており、馬車もすでに動き出している。
「けど、よくすぐに分かったな。それだけであったわけじゃあねえんだろ。」
「ああもう面倒だから、一人にきいてみたんだ。モルドドゥーロ(大公国)からもらった壷ってどれだって。そしたら、わりとすんなり教えてくれた。」
「なるほど。」と、レッドは返した。
その男がわりとすんなり教えずにはいられなかった理由くらい、きくまでもない。
「けど、これで奴らもすぐに疑い始めるな。何を取られたかを調べれば、犯人を割り出されるのも時間の問題だったろうが。」
やがて街門にたどり着いた馬車。ここは祈るしかなかったが、リューイとレッドが全く手間取らなかったおかげで、どうにか厳しい検問が行われる前に逃げ切ることができた。
そうして目的を果たした一行は、夜の闇が迫ってくるメサロバキア王国から、暗がりに紛れるようにして去って行った。




