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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
第12章  アルザスの宝剣  〈 Ⅸ〉  
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大公代理


 モルドドゥーロ大公国の、このとうの町を流れる大河カデシアのほとりに、大公の城はそびえ立っている。それは歴史ある重厚な石の城だ。他国の君主の城や宮殿に見られる華やかさは感じられないものの、まさに天空に立ち上がるとがり屋根の双塔が印象的で、外観だけなら大聖堂に近い。


 一行は、からくさ模様で埋め尽くされた壁の通路を通って、大きなアーチの二連窓から、噴水のある中庭をのぞむことができる個室へ案内された。


 しばらくそこで待たされていると、召使いがやってきて、一行はそのまま別の部屋へ通された。そこではすでに一行を迎える準備が整えられていた。テーブルクロスが掛けられた大きな卓上には、ワイングラスと、何か菓子のようなものが用意されている。


 壁際かべぎわひかえていた召使いが椅子いすを引いてくれ、うながされるままに一行は席に着いた。そして、グラスに透き通った赤い飲み物が注がれる。


「これをあの子たちに食べさせてあげたい・・・。」

 給仕の召使いたちがまた壁際に戻ると、カイルは、目の前のものを悲しそうに見下ろしてつぶやいた。その菓子はいわゆるタルトのような、見た目にも上品で美味しそうな色や形をしている。


「まったくだ。」

 隣の席についていたギルが、うなずきながらささやき返した。


 その時、彼らの目の前に一人の青年が現れた。彼が、話に聞いていた大公代理らしい。清潔感のある優しい顔立ちをしており、背中まであるグレーの髪をすっきりと後ろで一つにまとめている。エミリオやギルよりも、少し年上ほどに見受けられた。


 リューイやミーアが遅れたのでバラバラだったが、一行も彼の登場に合わせて起立した。


 その青年は、グラスだけが用意されている自分の席に来ると、立ったままでまずは挨拶を行った。威厳いげんの中にもおだやかさをもつ、丁寧な口調の紳士だ。


「皆様、よくお越しくださいました。私は、ここモルドドゥーロ大公国、大公の次男で、アラン・ルース・ヘイデン・モルドドゥーロと申します。父は長らく体調を崩しているため、私が代理を務めています。話は聞かせていただきました。さぞ驚かれたことでしょう。ですが、お恥ずかしながら、現状ではギジルの人々にじゅうぶんな支援ができる余裕がないのです。何とかせねばと思ってはいるのですが・・・。ついては、ぜひとも皆様のお力をお借りしたく、こうして招待させていただいた次第です。こちらに用意しましたのは、我が国の伝統ある飲み物と菓子です。この程度のおもてなししかできませんが、どうぞお召し上がりください。」


 そう自己紹介などを終えたアランだったが、彼は次男、つまり第二子。だが有能で大公の片腕となり、国政に関わる仕事をこなし、貴族だけでなく平民たちからの信望も厚い。それゆえ本来の嫡男ちゃくなんよりも有力であるので、最高 爵位しゃくいを誰が継ぐか、その襲爵しゅうしゃくり方が検討されつつあった。


 一行はまたうながされて着席し、いくらか引け目を感じつつスプーンを手に取った。そして、焼き菓子に敷き詰められている赤い実をすくって口へ運んだ。

 飲み物はさわやかな酸味が口いっぱいに広がり、菓子はまったりとした触感に甘酸っぱさがちょうど良いアクセントとなって、どちらも初めての味わいが楽しめた。少しくせのある味だったので一瞬不思議そうな顔をする者が続出したが、あとはみな笑みを浮かべて食べ進めた。子供にはどうかという味でも、同じ南国出身のミーアは似た味を知っているのか、特に抵抗なく飲み込んでいる。


 客人たちのその表情を見ると、アランは安心したように微笑みを浮かべて椅子に座った。

「口に合いますか。」

「ええ。とても美味しい。」

 最も近い席に着いているエミリオがまず答えた。

「私も、この味好きだわ。」と、シャナイア。

「良かった。独特のくせがあるので心配していたのです。」


「これ果物だよね。サクランボかな。」

 スプーンですくい上げた赤い実を見つめて、カイルが言った。

「品種はそうですね。飲み物の方も原料は同じで、ベルキラ(仮名)という果物を使っています。」

「聞いたことないな・・・。」

 ギルがつぶやいた。


「ここは、この実の原産国なのです。これが豊富に採れる場所は、あとは(※)リーヴェの密林くらいだと言われていますが、実際に調査が行われたわけではないようです。酸味がキツいので、飲み物の方は甘味の強い成分と合わせてまろやかに仕上げています。菓子の方は、それを砂糖漬けにしたものです。そのままでは恐らく食べられないでしょう。なので一般的には調味料の原料として使われているようです。もし口にしたことがあっても、気づかないかもしれないですね。」


「俺も知らねえぞ。」と、リューイ。

「お前が知ってるのは、たぶんそのままかぶり付けるものだけだろ。」と、レッド。


 と、こんな会話の中、やや沈黙が続いたところで、ギルは最も気になる質問を思いきってぶつけてみた。

「アラン卿、ギジルがあのような溜り場となったのには、何か訳でもあるのでしょうか。」と。







※ リーヴェの密林 = 正確にはアースリーヴェという、リューイが育ったジャングルの名称








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