大公の使い
先ほどの廃屋からじゅうぶんに離れた所で、後ろを振り返ったレッドは、大きなため息をついてカイルを見た。
「おい、さっきの約束、果たせると思って口走ったことか?」
「もちろん。さあ、皆でお城へ行こう。」
「誰かこいつを注意してくれ。」
「カイル、気持ちは分かるし、私だってそうしたい。だが、敷地内へ入るだけでも容易なことではない。一般の者は普通、通してもらえないんだ。」
「門前払いだ。ダルアバスやステラティスの王宮に簡単に入れたから麻痺してるんだろうが。」
まずエミリオが丁寧に教えてやり、それに続いてギルが言った。
「この二人が言うと、さすがに説得力あるわね・・・。」と、シャナイア。
「それにしても、これまでの町の様子からも、そもそも全体的に何か問題があるように見えるが・・・。」
難しい顔でそう言いだしたエミリオの視線だけが、不意に背後へ向けられた。
同じく気づいた者たちが振り返ってみると、制服を着た三人の男性が近づいてくる。何か用があるようだ。
やはりその三人組は、そのまま真っ直ぐに一行のもとへとやってきた。そして横一列に並んで丁寧に挨拶をしたあと、こう話しかけてきたのである。
「君たちは先ほど、あのギジルの人々に何やらいろいろと対応してくれたようだが・・・えっと・・・君かな、医者というのは。」
カイルに向けられたその目には、どうにも拭いきれない疑念の色がうかがえる。
「はい。こう見えても。」
確認しておきながら、男たちはやはり一瞬絶句したようだった。
そしてその言葉から、彼らが例の大公城の者たちであること、さらに彼らが、恐らく子供たちから話を聞いて追いかけてきたことを、一行は理解した。それには納得できるものもあったのだろう。驚きながらも、彼らは速やかに話を続けたのである。
「そうか。で、代金は。」
「患者からはいただかない主義なんです。薬は基本的に自分で調達、調合するから、そのほとんどはもともと只だし。」
この返事に、男たちは顔を見合った。
そして一人が、「ちょっと失礼・・・。」と言ったあと、そろって背中を向けたかと思うと、一行の見ている前で何やら相談を始めたのである。
その密やかな声は聞き取れないし、ただ待たされているだけの彼らだったので、そのうちリューイの口からは大あくびが一つ出た。
やがて話し合いが済んだ男たちは、また横に並んで一行に向き直った。
代表して話をするのは、ずっと真ん中の男である。
「待たせて申し訳ない。なるほど・・・では、ギジルの人々のために、ぜひとも君たちの協力を得たいが、まずは大公閣下の代理人に会ってはいただけないだろうか。」
これは好都合とばかりに、シャナイアが両手を打ち合わせた。
「あら、苦労せずに済んだわね。」




