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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第11章  ルーウィン・アーヴァン・ウェスト 〈 Ⅷ〉
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跡取りは格闘家

 二人が抵抗できないようになったところで頭の男は退散を命じ、初めに人質にとった女性を解放した。


 だがその召使いは、このあいだ気が気ではなかった。主人の大切な、しかも生き別れ奇跡的に再会できたという若様が自分の身代わりになりうるはずもなく、さらに大事な客人までさらわれたとなれば、自分一人殺される方がずっといい。


「お願いです、ルーウィン様とその御方を放してください!私一人いれば、あなた方もここから逃げられるでしょう!私は、どこまで連れ回されて捨てられても構いませんから、だから・・・!」


 解放されたその召使いは、男の手から放れるやすぐに背中を返して、涙ながらにそう懇願しだした。


「みんなの所へ行って。俺は大丈夫だから、早く。」

 後ろ手に捕らえられたままのリューイは穏やかな声で言った。実のところ、彼女がいるために手が出せないでいるのだから。


「ルーウィン様、どうして・・・。」


「ええい、お前にもう用はねえんだ!さっさとどきやがれ!」


 男がいきなりその召使いを蹴飛けとばして怒鳴った。 彼女は悲鳴を上げながら地面に転がるも、なおも健気に顔を上げる。


 そして、言葉を失った・・・驚きのあまり。


 なにしろ、ルーウィン様はあっさりと背後のいましめを解いており、そのうえ強烈な肘鉄ひじてつを一発 ―― ! それは後ろにいる男の鳩尾みぞおちにめり込んでおり、次いで腕を後ろへ引いたかと思いきや、もう片手の方がいち早く動いて、とっさに刃物を振りかざした親分の手をさっと阻止していた。


 そして、すくい上げるような鉄拳が親分の腹に叩き込まれた。


「ぐああっ!」


 親分は足が地面から放れるほど殴り飛ばされて池にはまり、下っ腹を押さえてバシャバシャとうめき回っている。肘鉄を食らわされた子分の方は、声も無くドサリとくずおれたまま息の根が止まったように微動だにしない。エミリオを捕まえていた男は仰天ぎょうてんするあまり勝手に尻餅をついており、おかげでエミリオは自動的に解放されていた。


 不意をつかれたうえ一目で分かる驚愕きょうがくの強さに、ほかの連中も凍りついている。やっと我に返って逆上しだしたのは、それから五秒以上たってからだ。さすがに荒野の死闘と同じ顔つきになっている。無論、連中の誰もかれもが構わず武器を引き抜いて。


「こいつ!」


 一人が長剣を構え、下方からリューイに斬りかかった。それを刹那せつなにバク転でかわしたリューイは、そのまま数メートル離れた場所に降り立った。


 またしても唖然となる動き。だが今度は連中が気を取り直すのも早く、それどころかますます激高げっこうして、次は一斉に斬りかかったのである。


 一方、エミリオは邪魔になるだけなので余計な手出しはせず、それよりもこのすきに召使いの彼女を抱き起こしてやると、一緒に退避していた。


 その間にも、リューイは取り囲まれても何のその、一味の振るう刃物を余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》でかわしながら、逆に隙をついては物凄ものすご早業はやわざを仕掛けている。それはもう、楽々と。


 振り向きざま一人目を横殴よこなぐりにしたあと、背後の男にはまたも鳩尾打みぞおちうちを決めた。向かう男にバックスピン・ハイキックを食らわせ、流れのままに後ろの攻撃をかわした直後、そこへ電光石火のローキックをお見舞いして相手を転倒させた。


 その連続技を、凶器にかすりもせず鮮やかに繰り出しているのだから、周りにいる もはや見物人が大口を開けて、唖然・・・となるのも無理は無い。その姿はリューイ、いや、ルーウィン様の戦闘能力の高さを、そこにいる全てに ものの数秒で知らしめた。


「な・・・。」

 クラフトの口からも、やはり言葉にならない声だけが漏れた。


 そしてそんな光景が珍しくもなくなっている者たち・・・旅の仲間たち以外は、誰もがまだ呆けたように口を閉じることができずにいる。


 一見無防備に見えながら体そのものを武器同然とし、予測のつかない俊敏しゅんびんな身ごなしで敵を討つ。こんな戦い方をする男は、かつて誰も見たことがない。ただ、聞いたことのある者なら何人かはいた。軽業師かるわざしのような動きで、徒手武術 ―― 拳法 ―― を駆使くしするという男の話を。だが、今やそれは伝説の中の存在だ。


 それなのに、それが今 目の前にいて、しかも由緒正しい伯爵家の跡取あととり息子で、高貴な金髪碧眼の美青年・・・とくれば、いつまでも口を開けてポカンて顔にもなる。


 リューイが手加減しているのと、連中が感心するほどしぶといおかげで、そんな一方的な戦いはまだ続いている。そろそろ終わらせてくれてもいい頃だが・・・。


「レッド、今なら出てもおかしくないぞ。」

 隣に戻ってきたエミリオを迎えて、ギルが言った。


「二人はどうする。」


「俺たちゃ素手は苦手なんだって。だいいちお前も余計なくらいだぞ、あの調子じゃあ。」


「もう、さっさと行って終わらせさてきて。」

 シャナイアが呆れ顔で口をはさんだ。 


 レッドは肩や首を回しながら急ぎもせずに歩いて行き、喧嘩にもならない戦いに加わった。









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