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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第11章  ルーウィン・アーヴァン・ウェスト 〈 Ⅷ〉
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旅仲間会議

 屋敷の下の階ではまだ照明も明るいままの部屋が幾つもあり、召使いたちも晩餐会ばんさんかいの後片付けなどでいそがしく働いている。また別館では、ちょうど交代の時間がきた守衛たちが、申し送りや、業務終了及び開始前の軽い挨拶を行っていた。主人であるクラフトの寝室は本館の最上階にあり、そこには常に清潔に保たれている客室も並んでいる。


 その中の一室にて。シャナイアが使う一人部屋に集まった一行は、この時会議の真最中であった。


 議題は、リューイの今後について。


 それを、本人不在の中、本人の意思を無視して勝手に進められている。なぜなら、仲間たちが思うに、こうして人生の最高の選択肢ができたわけだが、リューイが例えここに居たいという気持ちを抱いたとしても、無理やりそういう状況を作ってやらなければ、リューイにはきっと素直な答えが出せないだろうと思われたからである。


 同じ部屋ですっかり眠りについたミーアは対象外として、やにわに反対する者はいなかった。その理由は、アースリーヴェからこれまでのリューイがどうだったかを、ずっと見てきたからだ。生まれて間もなく悲運を辿たどることになり、それに突然の悲しみが追い打ちをかけた。だがここへ来て、それらを唯一ゆいいつ軽減できる奇跡に出会えた。リューイのその悲しみと喜びを、そばで見ていた旅の仲間たち。カイルでさえも、異を唱えることはできなかった。


 とはいえ、これは思い切りのいることだ。置き去りのような別れ方は、あまりにも辛い。ほぼその決断に至りつつあるものの、彼らの間には沈黙が長く続いていた。


「ねえ、出発どうするの?」

 シャナイアが静かにその沈黙を破った。


 誰も、すぐには答えられない・・・。


「・・・早朝、出発しようか。」

 数秒たって、ギルがついに口をきった。 


「リューイを置いてか?」

 言下にレッドが確認する。


「俺たちのために安易に答えを出させるのは、よくないだろう。ここを一度出たら、あいつはきっと育った故郷を選ぶ。」


「将来的に考えると、ここにさせた方がいいかもな。」

 レッドも、それが正しい判断なんだと自分に言い聞かせる。


「ロブ殿の手紙にもあったしね。外の世界で、新たな人生を始めるのもいいと。」   

 エミリオもそう付け加えた。


「あの場所には、もう・・・そのじいさんも居ないからな。親との思い出が何も無いあいつには、それが一番だよな・・・。」

 どこかもの寂しそうに、レッドはつぶやいた。これまで何度も出会いと別れを繰り返してきたというのに、リューイとのそれは、なぜだか特別気分が沈む。


「そうね。ここに取り残しちゃえば、そのうち普通の生活にも馴染なじめるでしょうしね。もう少し人間らしさを覚えた方が、あの子のためにはいいんじゃないかしら。」


「奇跡的に肉親に会えたんだ、俺たちに付き合わせるのは悪い。これまでの困難を思うと、あいつが抜けるのはかなり痛いが・・・今後も嫌な予感はするし。」

 ギルは、しまったと思った。せっかくまとまりかけたこの場で、そんなことを言うべきではなかったと気付いたのは、それを言い終えるのとほぼ同時である。


 再び沈黙が落ちた。


 この時、みなは思い出していた。リューイの人間離れした驚異的な能力がどれほど役に立ったかを。特にニルスの一件では、その才能のありがたみや頼もしさといったら、とうてい語り尽くせやしないほどだ。


「あいつにしかできない助かったことって、考えてみれば結構あるからなあ・・・。」

 決断をくつがえすつもりのないレッドのそれは、ただの愚痴ぐち


 そして、ここに屈強くっきょうの一流戦士がそろっているにもかかわらず、一斉に重いため息を吐いた。


 だがカイルが抱いている懸念けねんは、ほかの者たちのとは少し違っている。

「じゃあ・・・手紙を残してこっそり行っちゃう・・・のお?」


「仲間の幸せのためだ、あきらめろ。」とカイルに言い聞かせつつ、ギルは完全に割り切った。


「だって海の神がいなかったら、ぜったい困ると思うんだよねえ・・・。」


「一人くらい、何とかなるさ。エミリオ、頑張れるよな。」


「ああ。」と、エミリオはいつになく軽い返事。


 本来こんな受け答えをするはずのないエミリオがギルにふられて乗ったのは、リューイを想う気持ちが圧倒的に勝っているからこそである。


 一方のカイルは、このやりとりにあきれ返ってしまった。

「皆・・・ちっとも深刻に考えてないだろお・・・。」


「というか、深刻になれないってのが本音だがな。相変わらず自覚も湧かねえし・・・。」と、レッド。


「まあ、テオじいさんに怒られたら、その時はその時でまた考えればいいじゃないか。もう居所いどころは分かってるんだから、なんなら、その時また迎えに来ればいい。」

 などと、ギルはもう適当なことを言う。


「そんなつもりもないくせに・・・。」


「とにかく、今はあいつにとって大事な時だ。あいつに、何も気にせず慎重に考えさせる時間が必要だ。」

 有無を言わせぬ口調で、ギルはぴしゃりと言った。


 それが締めの言葉となり、こうして会議は終了した。


 その後、クラフトにも宛てた二人分の手紙はエミリオが担当することになり、それぞれの部屋へと戻ったほかの者たちは、リューイに内緒でさっそく荷物をまとめ始めた。


 何も知らないミーアだけが、そんな中一人すやすやと眠りこけていた。









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