密会
どこの町にも一つはあるという居酒屋の集まりが、例外でなく、この清潔感溢れる白い町にも存在する。夜そこは、ひとときの安らぎを求めて方々からやってくる傭兵や、町の若者や、時にはごろつきの溜まり場となる。
夕べはそこで、クラークの右腕とも言える男が、ある陰謀の為に恰好と踏んだ一味を言葉 巧みにそそのかして、上手く手懐けることに成功していた。
だが今、クラークと机一つを挟んで密談しているその盗賊一味の頭の顔には、乗り気がしないといった渋面が浮かんでいる。
「ルーウィン・アーヴァン・ウェストって男を襲ってくれだと?」
机の上にどかっと足をかけたまま、男は反り返った短剣の具合を確かめながら言った。
「ああ、それもさりげなくだ。最初から、彼一人を狙っていたような真似はしないでくれ。上手くいけば、報酬はたっぷりととらせてやるぞ。」
クラークは、その男から漂う鼻のひん曲がりそうな悪臭と、目の前にもってこられた汚らしい靴の裏に、嫌悪感を剥き出しにして顔をしかめたいのを堪えて答えた。
「町中で人を殺せば、すぐに御用になっちまうだろが。しかも聞けば、そいつは伯爵の息子だろ。そんな馬鹿なことはできねえ。町の外ならやってやるがな。」
「だから、彼を誘拐してくれればいい。幸い、彼は金髪碧眼の美青年で、じゅうぶん金になる容貌だ。一石二鳥だろう? 伯爵の屋敷に盗みに入ったと見せかけて、ついでのように彼を誘拐してくれ。無論、町の外へ逃れるための協力もする。私の手にかかれば町を出るなどわけはない。それでどうかな。」
男は訝しんで、この話をしているあいだ刃に向け続けていたその目だけを動かし、上目使いにクラークの顔を見た。
「あんた、何者だ。」
「この町で少しは顔の利く者だ。それ以上は詮索せんでくれ。」
男には、それでじゅうぶんだった。男は急に面白くなり、ニヤリと笑みを浮かべる。
「なら、一石三鳥だな。窃盗なら自信あるぜ。」
不気味にほほ笑み合った二人の間に、こうして交渉は成立した。
クラークは胸の前の引き出しを開けて、大金を取り出した。
「では、これは手付金だ。この三倍は約束しよう。」
男は足を下ろし、机の上にドンと置かれた札束を無造作につかみ取ると、ペラペラと指を滑らせてその感触を味わった。豪勢に過ごせば際限がなく読めないが、使いようによっては、これだけでもまる一か月は遊んで暮らせるほどの金額になる。この三倍がすぐに手に入るとなると、想像しただけでも笑いが止まらない。
男はニヤニヤと締りのない顔で、札束を懐に押し込んだ。
「残りの金は、どこで受け取れる。」
「町を出るのに身を隠せる馬車を寄越してやろう。街門を出たら、約束の報酬と一緒にその馬車ごとくれてやる。」
「申し分ねえな。」
男は含み笑った。
「よくやってくれたら、手当ははずむぞ。」
やがて、クラークの邸宅の離れにあるその薄暗い館から、一人の怪しい男が人気のない裏門をそっとくぐり抜けて去って行った。




