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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第11章  ルーウィン・アーヴァン・ウェスト 〈 Ⅷ〉
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従兄弟

 中庭にたたずんでいるその少年は、一歩も動けずにいた。視線の先に見える木陰こかげすずんでいる黒い生き物と、かれこれ五分は見つめ合ったまま固まっている。なにしろ、その黒い生き物は、この辺りでは普通に見られるはずのないネコ科の猛獣・・・どう見てもネコなどではなく・・・ヒョウ。そう、黒いヒョウ。


 実際、その黒ヒョウの方は特に気にすることもなくのんびりせているだけだったが、目は開いていて、少年のことを確かに見ていた。そのせいで、いつでも好きに立ち去ってくれていいというのに、動いたら食べられる・・・と、思っている少年の方は、池のそばのオリーブの木の横で、ただ辛抱しんぼう強くじっとしていた。こういう時は背中を向けてはダメだと聞いたことがあったから。


 歳の頃は12、3歳ほど。髪の色も目の色も淡くくすんではいるが金髪碧眼(へきがん)で、顔全体の雰囲気が成長期のリューイにどことなく似ている少年だ。


 しかしそう緊張していると、普段は意識していないが、自然と口の中に湧いてくるものがある。それをゴクリと飲み下した時、このタイミングで猛獣の耳がピクリと動いた。少年はビクっ!と少し肩を飛び上がらせた。黒ヒョウがむっくりと起き上がった。おかげで少年がいよいよ血の気が引く思いでいると、黒ヒョウはその足を不意に違う方へ向けたのである。


 その時、誰かが誰かを捜している声がした。


「キース、キース!あ、お前こんなところに。」


 少年が思わず声のした方へ首を向けると、池を挟んだ反対側に若い男の人がいる。


 その黒ヒョウ、キースはリューイの気配を感じて反応したのだ。


 池にかる石橋を渡って、リューイはすぐにキースと少年がいる方へやってきた。


 少年は途端とたんにへなへなと座り込んでしまった。


「こいつは大丈夫だよ、そんなに怖がらなくても。こいつは特に利口で、もう分かってるから。」

 リューイはそう言うと、いくらかほっとした様子の少年に手を差し伸べる。


 少年は、その手を借りて立ち上がった。


「驚かせてごめんな。こら、キース!こういう所では、一人でウロウロするなっつったろうが。」


 はい。なので木陰こかげでおとなしく休んでいただけのキースは、何か言いたそうな顔をしている。


「それ、お兄さんの?僕、死ぬかと思っちゃったよ。」

 少年はゆがんだ笑みを返した。


「悪い。」


「僕はラウル。お兄さんは?」


「リューイ、いや、ルーウィンだっけ。」


「あ、お兄さんだね、クラフト伯父おじ様の息子さんて。僕、お兄さんに会いに来たんだよ。」


「俺に?」


「うん。伯父様はいつも、僕を見てると息子が成長していくみたいだって言って優しくしてくれるから、どんな人かなって思って会いに来たんだ。僕のフルネームは、ラウル・ロレイン・アーヴァンだよ。」


「アーヴァン・・・って、確か・・・。」


「うん、お兄さんはルーウィン・アーヴァン・ウェストって正式名だよね。」


 リューイは少し黙って、足りない頭で懸命に考えてみた。

「ええっと・・・っつうことは、俺とお前は・・・なんだ?」


「伯父様の弟が僕のお父様だから、お兄さんとは従兄弟だよ。血が繋がってるんだよ、僕たち」。」


「俺の弟か !? うわあっ、そうか、俺の弟かあ。」


「うーん・・・ちょっと違うんだけど・・・。」


 一方のラウルは、首をかしげる思いでいた。伯父のクラフトは優秀で、笑顔といえばいつも穏やかにほほ笑むだけの落ち着いた紳士なのである。それに重ねて、当然、息子のルーウィンには同じような人物像を思い描いていた。ところが、従兄弟で大人であるはずのそのルーウィン兄さんはめいいっぱい嬉しそうに、まるで自分よりもずっと年下の子供のような表情を遠慮なく向けてくるのである。想像していた通りの美青年ではあるものの、ほかは完全にイメージと違っていた。


 ラウル少年は、困惑して頭をかいた。








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