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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第10章  恋敵誘拐事件 〈Ⅶ〉  
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星空の帰り道 - 1


 

 深夜、馬車は町から町を繋いでいる道らしい道をずっと進んでいた。丘陵きゅうりょう地帯の丘のあいだや、だだっ広い草原、大河沿い。この辺りのあらゆる場所に道は通っている。その中からいくらでも選べたが、いちばん早く行ける広い大街道だいかいどうをできるだけ進んだ。


 動いているあかりと時々すれ違った。それらは、都市の朝市あさいちに出店するため、物資や食材を運ぶ大型の馬車が多い。大街道上には、たくさんの灯りが集まって輝いている場所がいくつもある。大きな町の灯りだ。


 一行の幌馬車は、まだ活気ある時間のそこを、二つ素通りしてきた。そうして夜もかなりけたが、雲も霧も無いすっきりした夜空に際立きわだつ月のおかげで、ギルは疲れを感じないでいられた。


 まだまだ行けそうだ・・・と、御者ぎょしゃのギルは思った。


 後ろからは、他愛ない会話を静かに楽しむ仲間の声がしている。エミリオのひざの上で眠りについたミーア以外は、まだみんな起きている。


 そんな中、アリエルは不意にリューイの視線に気付いて、眉根まゆねを寄せた。それは思わずたじろいでしまうほどの魅力的な顔だが、どこか馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべているのだ。


「な・・・なんですの。」

「あんたって・・・面白いな。」


 リューイは視線をらすどころか、そんな子供のような笑顔のまま言った。


 アリエルは呆気あっけに取られて、目をまばたいた。生まれてこのかた、そんなぞんざいな言葉で話しかけられたことなどない。


「何ですの、失礼ですわよ、唐突とうとつにっ。」


 すると今度は、レッドの遠慮ない笑い声がそれに続いた。


「あなた方、そういえば、何かとわたくしの悪口を・・・!」


「とんでもない。」

 目が笑っているまま、レッドは場を適当に取りつくろう。


「けど、あの咄嗟とっさの言い訳は最高だったな。」と、リューイ。


「そのくせ、やたらとあの中に詳しいんだ。よく怪しまれなかったもんだよ。」


「なんも考えてないのな。」


 二人が交互にそんなことを言うのを聞いているうち、アリエルの顔がみるみるムッとなっていく。そして聞き終えるや、アリエルは急に立ち上がった。


「リューイ、わたくし、あなたのことを無邪気で安心しましたって申し上げましたけど、撤回てっかいいたしますわ。よくもわたくしの裸を 一一 ⁉」 


 ガタンッ !


 と馬車が揺れて、アリエルはそのリューイの胸に飛び込んでいく羽目になった。


「なんだってっ。」


 レッドと、御者台のギルまでもが驚いた声を同時に上げた。それにほかの者の視線も一瞬で集まっている。


「リューイ、おまえ痴漢チカン・・・。」

 とききかけて、レッドは思い起こしてみる・・・人のことは言えないか。下着姿同然の彼女を後ろから抱きしめ、抵抗できないようにしたのだから、ここまでは完全に同類だ。


「なな、何だよ、チカンって、どういう意味だ。」


「お前も・・・やっとか。」

 ギルの背中からは、もはや感心したような声が聞こえた。


「なにがっ ?! 」とリューイのわめき声。だから何なんだ!


「ねえ、何があったの。聞かせてよ。」

 カイルが身を乗り出してきた。


 アリエルはよろけながらも、リューイの腕の中からまた立ち上がった。


「あ、おい、危ないぞ。」


 リューイが優しい声をかけてきたが、アリエルは無視した。彼はしっかり受け止めてくれたが、今は怒っているので外に出たいと思い、御者台のすぐ後ろから、手綱たづなを握っているギルの隣へ移動しようとしたのである。


 それに気付いたギルが、片手を伸ばして体を支えてやり、そうしてアリエルはゆっくりとギルの横に腰を下ろした。


「もう、二人共せっかくお友達になれたと思っていましたのに・・・。」


 隣でさびしそうにそう呟いたアリエルを見ると、ギルは言った。

「アリエル様、あの二人のあの態度が、二人にとっても友達のあかしなんです。それでは嫌ですか。」


 そう言われて、ギルの横顔を見上げたアリエルは、それから肩越しに振り返って二人を見た。レッドはシャナイアと何やら口喧嘩くちげんかを始めているし、リューイはカイルとふざけ合っている。


「・・・まあそういうことなら・・・結構ですわ。」








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