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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第10章  恋敵誘拐事件 〈Ⅶ〉  
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屈強の用心棒


 凶器という凶器を振りかざして、若い下っがわっとばかりにおどりかかる。


 スラリと解放された二本の剣先が、たちまち生き物のように動き出した。やっと自由を得た野獣さながら、次々とそれらに傷を負わせていく。ただ、自分のそれを完璧に手懐てなずけてきたレッドだが、王女たちの手前、軽傷ですませた。思うままにそうすることができ、ねらいには一寸の狂いもない。本来なら、互いの武器を合わせると、相手のそれは想像を絶する威力でたちまち弾き飛ばされてしまう。そして衝撃に体勢を崩したその瞬間、胸や肩から鮮血を流すことになる。


 一方、武器と言えば、リューイは腕に装備しているナイフくらいだが、その腕力や脚力の殺傷さっしょう能力は刃物にも勝る。本気を出した時まともに食らえば、瞬く間にあの世 きは間違いなかった。だが、リューイは感情的にならない限り、だいたい加減をわきまえることができた。


 リューイは、男たちが見たこともない徒手武術としゅぶじゅつの目の回るような身ごなしで、敵の鳩尾みぞおちや脇腹に稲妻いなずまのような早業はやわざをしかけている。


 その間、一分とかからなかった。一味いちみが初め威勢いせいよく雄叫おたけびを上げたところから、やがて次々とひざを付くまで。


「さっさとどっか行けよ、邪魔だから。」

 リューイが言った。


 そしてレッドは、「まだ動けるだろ。捨て台詞も吐けなくなる前に、失せろ。」と、冷酷れいこくな眼差し。


 痛めた部位を押さえて歯を食いしばる相手に対して、レッドとリューイは異様に涼し気な表情でいる。


「つ、つええっ!」

「お、親分っ!」

「話が違うじゃないすかっ。」


 力の差は歴然れきぜん。これ以上向かっていく意味はないし、命令されたって御免だ。次々と腰を上げた下っ端たちは大慌てで退散していった。


 そして最後に、「くそうっ、どうなってやがんだ!レッド、このままで済むと思うなよ!」と、一味の頭はまだ吐ける捨て台詞を残して、背中を返した。


 それをレッドとリューイは肩を並べて見送った。


「そなたらは・・・化け物か。」


 二人の背後から、そんな震える声がした。一緒に振り返ってみれば、ライカが腰を引いた姿勢で立っている。


 レッドとリューイは、顔を見合う。


「なんだと?」

 リューイがフッと笑った。


 レッドは苦笑混じりの憮然ぶぜんとした顔。

「失礼な奴だな。」


 アリエルもビアンカも顔をそむけ、耳までふさいでいたのだが、ライカだけは戦いの一部始終をしっかりと見届けていたのである。洞窟にいた誘拐犯たちを相手にした時とは、二人とも形相ぎょうそうまで違っていた。


 そこへ、不意にかやっとか聞こえてきたのは、わだちを刻む馬車の音。


 そろって目を向けると、木々をかすめて一台のほろ馬車が近づいてくる。だが、ある所まで来るとそれは停まった。それで広い道がどこにあるかを知ることができた。


「今、妙な奴らとすれ違ったが・・・無事だな?」


 ギルの声だ。


「見てのとおりな。」

 合流してレッドが答えた。


「だろうな。あいつら、やられてたからな。」


「気の毒に。」と、エミリオ。


 そのあいだにも、ライカのエスコートで二人の王女は乗車していた。


 リューイは御者台ぎょしゃだいのわきから最後に乗り込んだ。

「来るのがちょっと遅せえぞ。」


 ギルは苦笑いを返して、答えた。

「悪かった。けど困らなかったろう。」


 森の中は少し西日が強くなり始めていた。陽の光は道を照らしてくれているが、木々はその上にも多くの葉を落として、森街道もりかいどうを分かりづらくしている。御者のギルは、道が続く方向を、先の方までよく注意して見た。さて、枯葉かれはに覆われかけているこの道を、次は一刻も早く国外へ抜けて行かなければならない。






 洞窟に倒れていた者たちが、ようやくのろのろと身を起こし始めたのは、一行が森を抜けきってからのことだった。それからまず、何が起こったかをうめきながらよくよく思い出してみる・・・が、互いに顔を見合い、首をかしげ合うばかり。


「アリエル様・・・?」

「まさか・・・な。」

「けど・・・鍵や罠はどうやって・・・。」


 そして沈黙が五秒ほど続いた。


「しまった、逃げられたぞ!」


 やにわに立ち上がり、次々と裏出口へ向かう男たち。


 すると、間もなくあの ―― 下着姿でイモムシのようにい回っている ―― 二人を見つけることになった。しかし、その誰にも、はっきりしたことは分からない。起こっただろうことの全てに、確信が持てなかった。人質がいなくなった・・・ということ以外は。


 一方、庭園の正面ゲートにて。ここにも理解に苦しむ二人の門番がいた。なぜなら、カーテンが閉め切られた馬車の御者台に座っていたのは、入って来た時とは違い、アベンヌ一人だったからだ。








 

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