行く手を阻むもの
王子や王女を三名も引き連れ、気使いながら、レッドとリューイは白く変色した野草を踏み分け誘導していた。道の無いところだ。とにかく洞窟から離れて馬車が通れる道を目指していれば、そこへ出た時に仲間たちと上手く合流できると思った。背の低い雑草が広がる森で、真っ直ぐに伸びている木々の感じなど、辺りの様相は迷いそうなほど似ている。だがその広い道のある所は、レッドが地図を見た時にしっかりと覚えていた。方角を誤ってさえいなければ、もうすぐ抜けられるはず・・・。
そう予感したレッドだったが、にわかに足を止めた。その時にはリューイの表情も急変している。
「おいレッド、今度は・・・。」
リューイが鋭い声で囁きかけてきた。
「ああ・・・本物だ。」
リューイは遠くの枝葉の陰をにらみつけている。
すぐに男が現れ、近付いてきた。顔に傷のある太った男で、堂々と行く手を阻んだのである。その装いは、お世辞にも好感が持てると言えるものではなく、おまけに長剣や斧を握り締めている。そのうえニヤリと薄笑いを浮かべられたせいで、リューイはたちまち嫌悪感をもよおした。
「こいつあ、ついてやがる。見ろよ。」と、その男は声をあげて仲間を呼んだ。「綺麗な顔の女が二人もいるぜ。男も使えそうだな。」
その言葉を合図とするかのように、次々と似たような恰好の男たちが姿を見せた。ヨレヨレのくたびれた着衣に、汚れてくすんだ武器の数々。そんな典型的な盗賊風情の者たちに、一行は間もなく道を塞がれた。
その残忍な目つき・・・これこそ紛れもない悪党の目。それを本能で感じたアリエルはそばにいるリューイの背中に隠れた。ビアンカも同様、恐ろしくてライカに抱きついている。
だがレッドは、その傷の男を見た時から、また違う意味で顔をしかめていた。少ししてやはりそうだと確信すると、その顔はみるみるうんざりだというふうに。
「お前・・・。」と、レッドは低い声で口にした。
一方、男も眉間に皺を寄せてレッドを凝視しだしたが、いきなり飛びのいて目をみはったのである。
「・・・あっ、き、きさまはレッド ⁉ 」
辺りがたちまち騒然となる。男の子分が次々と、「レッド ⁉ うああっ、ライデルの息子だっ!」と、騒ぎだしたからだ。
「なんだ、また知り合いか。」
リューイは軽く手をあげた。前にもこんなことがあった。イオの大祭でのことだ。やれやれ・・・。
「親分、どういう意味っすかっ。」
レッドのことを知らない新入りが言った。
「こいつは、ライデル一味だ。しかも、奴に特に可愛がられてるな。」
これを聞くや、その新入りも青ざめた。
ライデル・・・盗賊狩りと恐れられ、悪党グループの間に名を馳せた一味の頭。孤児となったレッドを十四の歳になるまで育てた男であり、道中の貴族や商人などを脅して金品を奪うよりも、同じならず者の集団を襲って盗品を強奪することで知られていた。
そして何より、その頭の強さと仲間の腕のほども・・・。
だが男は何かおかしいことに気づいた。連中の気配が感じられない・・・。ぐるりと首をめぐらしてみれば、はっきりとわかった。男はフッと嘲笑を浮かべた。
「心配ねえ、こいつはいつも見てるだけの腰抜け野郎だったからな。」
リューイが信じられないといった視線を投げかける。
「ほんとかよ。」
「手出しするまでもなかっただけさ。手出しさせてもくれなかったけどな。」
「なるほどな。」
「なにそっちでごちゃごちゃ言ってんだ。おいレッド、ライデルたちはどうした。」
「とっくに別れたよ。」
「はっ、弱虫だから見限られたわけだな。」
「おい、やるのかやらねえのか、どっちだ。俺たち急いでんだよ。」
リューイが口を挟んだ。
すると男は、今度はリューイの顔をよくよく眺めだした。その容貌がどうであるかに今頃 気づいて。
「なんだ、きさまもやるつもりか、そんなツラで。」
「どういう意味だよ。」
端整な金髪 碧眼・・・なのにガラが悪い。
そこへ今度はレッドがイライラしながら横槍を入れた。
「ええい、やられたいなら早くしてくれ。」
「ヤロウッ、言わせておけば!」
男は顎を動かした。
慣れたように従う子分たち。ザッと扇形に立ち並ぶと、速やかに抜き身の武器を構えだしたのだ。
「お前ら、さっさと片付けちまえっ!」
ビアンカが悲鳴をあげてますますライカにしがみつき、アリエルは立ち竦んでいる。
「ライカ、二人を連れて離れてろ。」
二本の剣を引き抜きながらレッドもそう促した。
「頼む。」
王女たちの肩に手を回したライカは、言われた通りに後ろへ下がった。
「ああ、すぐに終わらせる。」
リューイは恐れ知らずな笑顔で応えた。




