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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第10章  恋敵誘拐事件 〈Ⅶ〉  
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行く手を阻むもの


 王子や王女を三名も引き連れ、気使いながら、レッドとリューイは白く変色した野草を踏み分け誘導していた。道の無いところだ。とにかく洞窟から離れて馬車が通れる道を目指していれば、そこへ出た時に仲間たちと上手く合流できると思った。背の低い雑草が広がる森で、真っ直ぐに伸びている木々の感じなど、辺りの様相は迷いそうなほど似ている。だがその広い道のある所は、レッドが地図を見た時にしっかりと覚えていた。方角を誤ってさえいなければ、もうすぐ抜けられるはず・・・。


 そう予感したレッドだったが、にわかに足を止めた。その時にはリューイの表情も急変している。


「おいレッド、今度は・・・。」


 リューイが鋭い声で囁きかけてきた。


「ああ・・・本物だ。」


 リューイは遠くの枝葉えだはの陰をにらみつけている。


 すぐに男が現れ、近付いてきた。顔に傷のある太った男で、堂々と行く手をはばんだのである。そのよそおいは、お世辞にも好感が持てると言えるものではなく、おまけに長剣やおのを握り締めている。そのうえニヤリと薄笑いを浮かべられたせいで、リューイはたちまち嫌悪感をもよおした。


「こいつあ、ついてやがる。見ろよ。」と、その男は声をあげて仲間を呼んだ。「綺麗な顔の女が二人もいるぜ。男も使えそうだな。」


 その言葉を合図とするかのように、次々と似たような恰好かっこうの男たちが姿を見せた。ヨレヨレのくたびれた着衣に、汚れてくすんだ武器の数々。そんな典型的な盗賊風情(ふぜい)の者たちに、一行いっこうは間もなく道をふさがれた。


 その残忍な目つき・・・これこそまぎれもない悪党の目。それを本能で感じたアリエルはそばにいるリューイの背中に隠れた。ビアンカも同様、恐ろしくてライカに抱きついている。


 だがレッドは、その傷の男を見た時から、また違う意味で顔をしかめていた。少ししてやはりそうだと確信すると、その顔はみるみるうんざりだというふうに。


「お前・・・。」と、レッドは低い声で口にした。


 一方、男も眉間みけんしわを寄せてレッドを凝視ぎょうししだしたが、いきなり飛びのいて目をみはったのである。


「・・・あっ、き、きさまはレッド ⁉ 」


 辺りがたちまち騒然そうぜんとなる。男の子分が次々と、「レッド ⁉ うああっ、ライデルの息子だっ!」と、さわぎだしたからだ。


「なんだ、また知り合いか。」

 リューイは軽く手をあげた。前にもこんなことがあった。イオの大祭でのことだ。やれやれ・・・。


「親分、どういう意味っすかっ。」

 レッドのことを知らない新入りが言った。


「こいつは、ライデル一味いちみだ。しかも、奴に特に可愛がられてるな。」


 これを聞くや、その新入りも青ざめた。


 ライデル・・・盗賊狩りと恐れられ、悪党グループの間に名をせた一味のかしら孤児みなしごとなったレッドを十四の歳になるまで育てた男であり、道中の貴族や商人などをおどして金品をうばうよりも、同じならず者の集団を襲って盗品とうひん強奪ごうだつすることで知られていた。


 そして何より、そのかしらの強さと仲間の腕のほども・・・。


 だが男は何かおかしいことに気づいた。連中の気配が感じられない・・・。ぐるりと首をめぐらしてみれば、はっきりとわかった。男はフッと嘲笑ちょうしょうを浮かべた。


「心配ねえ、こいつはいつも見てるだけの腰抜け野郎だったからな。」


 リューイが信じられないといった視線を投げかける。

「ほんとかよ。」


「手出しするまでもなかっただけさ。手出しさせてもくれなかったけどな。」


「なるほどな。」


「なにそっちでごちゃごちゃ言ってんだ。おいレッド、ライデルたちはどうした。」


「とっくに別れたよ。」


「はっ、弱虫だから見限みかぎられたわけだな。」


「おい、やるのかやらねえのか、どっちだ。俺たち急いでんだよ。」

 リューイが口をはさんだ。


 すると男は、今度はリューイの顔をよくよく眺めだした。その容貌ようぼうがどうであるかに今頃 気づいて。

「なんだ、きさまもやるつもりか、そんなツラで。」


「どういう意味だよ。」


 端整たんせいな金髪 碧眼へきがん・・・なのにガラが悪い。


 そこへ今度はレッドがイライラしながら横槍よこやりを入れた。

「ええい、やられたいなら早くしてくれ。」


「ヤロウッ、言わせておけば!」

 男はあごを動かした。


 慣れたようにしたがう子分たち。ザッと扇形おうぎがたに立ち並ぶと、すみやかに抜き身の武器を構えだしたのだ。


「お前ら、さっさと片付けちまえっ!」


 ビアンカが悲鳴をあげてますますライカにしがみつき、アリエルは立ちすくんでいる。


「ライカ、二人を連れて離れてろ。」

 二本の剣を引き抜きながらレッドもそう促した。


たのむ。」

 王女たちの肩に手を回したライカは、言われた通りに後ろへ下がった。


「ああ、すぐに終わらせる。」

 リューイは恐れ知らずな笑顔でこたえた。








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