咄嗟に・・・
「マズい・・・。」
そう呟いたレッドは、ランプをライカに押し付けた。持ってろと言わんばかりに。
次の瞬間、一人がすっとんきょうな声を上げた。
「王・・・⁉」
レッドは拳を突き出した。リューイの豪腕も、もう別の男の腹に叩き込まれている。
「アリ・・・⁉」
グッ!
「お・・・⁉」
ガッ!
「ア・・・⁉」
ドスッ!
一人、二人、三人・・・気を失うように次々とパンチを食らわせていく。相手が驚き困惑しているその隙に。
そのあいだ、アリエルは自分のせいと分かって苦い顔をしながら肩をすくめ、ビアンカは両手で顔を覆いながらも指の隙間からチラ見し、ライカは口を開けっ放しで見物していた。
「なんか・・・さっきから必要以上にケガ人を出してるような・・・。」と、リューイ。
「俺たちだけの方が、ずっと平和的だったかもな。」
二人は肩を並べ、足元に向かって申し訳なさそうに両手を合わせた。すまん・・・恨むならアリエル様を。
と、その時。
「ア・・・アリエル様ですの?」
背後から微かな声が。
「しまった、ビアンカ・・・。」
レッドはあわてて視線を向ける。
困惑している様子のビアンカが、アリエルのことをしげしげと見つめている。
「え、あの、わたくし・・・。」
一方のアリエルは、その目を見つめ返して焦るばかりだ。
そしてもう一人、ライカはというと、傍らで不可解そうに首を傾げている。
「アリエル・・・様?」
このどうしようもない展開に、レッドもリューイも、もはや誤魔化すことを考えるのも面倒になってしまった。
ところが。
「まあ!」
ビアンカ王女が両手を口に当てて歓声をあげたのだ。
「ライカ様、こちらビザルワーレ王国の王女様ですわ!ビアンカの憧れの姫様ですのよ。アリエル様が助けてくださるなんて、ビアンカ感激ですわ。」
レッドとリューイは声もなく一緒に口を開けた。いや、これは・・・まだ・・・完全にはバレていない・・・!
急遽、シナリオ変更だ。さあ、どうする?と思い、アリエル王女に視線を送れば、王女はドギマギしながら目を泳がせている。
「あの、ビアンカ王女・・・様。・・・無事で何より・・・ですわ。」
ライカはというと、そんなアリエル王女にうやうやしくお辞儀。
「これはビザルワーレ王国王女殿下、お目にかかれて光栄でございます。でも・・・なぜこのような場所に・・・? それに、レッドとリューイはいったい・・・。」
「こ、この方々は・・・!」
アリエルが何か閃いた様子。
「よ、用心棒でございますのっ。」
レッドもリューイもその穏やかな爆弾娘に注目した。え・・・いや、まあ・・・さっきまでな・・・!
「実はわたくしの用心棒をしてましたのよ。お二人共とても頼りになるので、お二人の話を聞いて、わたくし密かに捜索させてましたの。ほんとに・・・よかったですわ。」
なんか、いろいろギリギリだよ・・・。
「俺でもヘンだと思うぞ、こんなの。」と、リューイは肘でレッドをこついた。
「もともとの設定を無理やり貫いたな・・・こうなったらもう合わせるしかないだろ。」
何はともあれ、修正完了。いろいろ不自然だが、とにかく狂わせてはならないことが一つ、これさえ守れれば何とかなる!
レッドは急に態度を改め、アリエル王女のそばに跪いた。
「王女殿下、お二人に一言お願い申し上げておいた方が。このことは・・・。」
レッドにそう促されて、アリエルも気付いた。一番大事なことだった。これをよくよく言い聞かせておかなければ、密かに助け出す意味が無くなってしまう。
アリエルは、あわてて言葉を続けた。
「そうでした。このことはわたくしの独断によるものですので、陛下には内緒にしてくださいましね。」
「なんと恐れ多い。分かりました。王女様、ありがとうございます。」
そう答えて、ライカはビアンカと目を見合い、うなずき合った。
独断で・・・か。結局は素直に伝えたな。冷や汗を拭ってレッドは再び歩きだした。
「さあ、参りましょう。」




