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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第10章  恋敵誘拐事件 〈Ⅶ〉  
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救出


「・・・ライカ様。」

「姫・・・。」


 青白い・・・幻想的な世界で・・・二人はうっとりと見つめ ――カチャリ 。


 物音がしてライカとビアンカが一緒に目を向けてみれば、出入り口の小さな木戸が開いて、突然、目の前にレッドとリューイが現れたのである。


 先に入ったレッドは、何よりもまず呆気あっけにとられた。雰囲気といい、寝る場所といい、気をかせてやったとしか思えない。


 そして、手に手を取り合っている二人のいいムード・・・。


「そういうことにもなるよな。」


 続いて現れたリューイは、部屋の中を眺め回してなつかしそうに目を細めている。

「へえ・・・俺の故郷にも、こういうのあったなあ。」


「故郷って、アースリーヴェか。」


 アースリーヴェ・・・それは、大陸最南端に広がるジャングルの名称である。リューイが育った大自然であり野生の王国だが、一般的には秘境の地として知られている。


「ああ。そこにはもっと大きな洞窟があってさ、もっと岩が突き出していて歩きにくい所だったけど、その奥にはもっと大きな花びらをつけたこんな植物がさ 一一 」


 これを聞くと、驚きから覚めたライカが、すんなり会話に加わった。


「そういえば、アースリーヴェから珍しい植物を売りに来るご老人がいると聞いたことがある。」


「あ、それきっと俺のじいさんだよ。」


「まあ、そうですの。確かそれらの植物は、そのようなご老人から買い取ったものを増殖させたのだと・・・」


 みなの視線が、レッドとリューイの背後にいる黒ずくめの女性に注がれた。


「その方は・・・?」


 マズい・・・という顔をしたレッドは、そう問うてきたビアンカに、口に人差し指を当ててみせることで誤魔化ごまかした。


「味方だ、安心しろ。ほら行くぞ。」


 実際、暢気のんきに立ち話をしている場合ではない。余裕は数秒たりとも無いというのに。見張りの男たちが気づいて、もう駆け戻ってくるはずだ。


 しかしビアンカは、言われて立ち上がったものの不安そうにライカを見て、躊躇ちゅうちょしている。


「え、でも・・・。」


 ライカにも、脱走などして無事に逃げ切れるのだろうか・・・という思いはあった。


 だが、すぐに心を決めると、ビアンカに手を差し伸べた。

「行こう。」


「俺たちを信じろよ、ちゃんと守ってやるから。」と、リューイはライカの背中を叩いた。


 そして、話に聞いていた裏ルートへ向かう。


 隠れていた細道の方へ曲がって行くと、広い道から複数の騒々しい足音がやってきて、そのまま背後を通り過ぎて行った。やはり気付いた見張りたちが、監禁場所へと駆け戻ってきたようだ。目を見合ったレッドとリューイは、そのあと、それらの気配がいくつかに分かれたのを感じ取った。


 先頭を行くのは、アリエルである。


 王女様のお上品な歩調に合わせていては追いつかれるのも時間の問題だが、道を知らないレッドやリューイは祈るしかない。


 今や洞窟どうくつ内は騒然そうぜんとし、足音がそこらじゅうから響いてくる。


 レッドがひやひやしていると、アリエルがななめに動いて壁際かべぎわに飛びついた。アリエルは、そこにある壁掛けランプに懸命に手を伸ばしている。取り外したいのに身長が足りない。


「これですわ。」


 長身のレッドは、簡単にそれを手にして微笑した。あわてることを知らないからだろうか、こんな状況でも彼女がそれを忘れなかったのは意外だ。


 アベンヌに指示されたこのランプの所まで来たということは、裏ルートへの入口が近い証拠。


 間もなく、計画通りにその入口までたどり着いた。そして、あるがままにされている、でこぼこした暗い通路に入って行った。


 ところがそうも進まないうちに、とうとう幸運も尽きた。気配がし、足音が響き、それが今度は通り過ぎることなく、背後でぴたりと止んでしまったのだ。


 リューイが肩越しに見てみると、そこにいる二人の男がさっそく声を張り上げている。


「いたぞ!」


「くそ、あかりで気付かれたか・・・。」


 レッドも振り向いてそう舌打したうち。と同時に、そばにいたビアンカの手を引いて走り出した。すぐさまライカがあとに続き、そしてリューイもアリエルの手首をしっかりと握りしめる。


 頭上から岩が突き出していて、時折 かがんで進まなければならないような道に突入した。ほかにも目立つ自然の障害物が多く、レッドやリューイは王女に何度も手を貸した。


 そして、一つ氷柱つららのように伸びている岩をくぐり抜けようとした、その時 一一 。


 アリエルが、「きゃあっ。」と、甲高かんだかい悲鳴を上げたのである。いきなりグイッと引き戻される感覚に驚いたのは、アリエルの外套がいとう頭巾ずきんが、そんな岩の先端せんたんにひっかかってしまったからだ。


 アリエルと手をつないでいたリューイも、つんのめって半回転。


「何だっ。」

 レッドが反射的に振り返ると、目を向けたそこには追っ手の姿が・・・。


 一方、後ろへ倒れかけたアリエルの背中を抱き寄せ、とっさに支えたリューイは、それらの追っ手と面と向かい合う羽目に。


「ヤバ・・・。」


 誰も彼もが、狐につままれたような顔で唖然あぜんと口を開けていた。なにしろ、レッドとリューイの反応に思わず振り向いてしまった王女の顔は、今、まともに追っ手たちの方へ向けられているのだから。


 そして、時間が停止した。







 

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