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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第10章  恋敵誘拐事件 〈Ⅶ〉  
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作戦開始


 アリエル王女の話に合わせて、さっそく作戦が立てられた。


 それによって、王宮の多くの者に顔を知られてしまっているシャナイアは、本来なら監視される立場にあることや、カイルに経過報告をすること、そして、残してきたミーアのこともあり、一足ひとあし先にステラティス王国へ帰ることになった。それでレッドとリューイは、作戦決行日までに戻ってくることのできる二つ先の町までシャナイアを送って行った。


 国境付近で少し途切れてしまうが、ビザルワーレの王宮からステラティスの王宮までは、公共の馬車も乗り継げる距離間で町が続いている。その街道は比較的安全に通れる旅路である。遠回りになることも多いが、盗賊や狼が出没しゅつぼつするという危険地帯さえ避けて通れば、旅をするのもそれほど難しくはない。もっとも、彼らはそれをいちいち気にしたことなどなく、そもそも、女戦士でもあるシャナイアも一人旅には慣れている。


 三人は、その日の昼過ぎには出発していた。


 そして、レッドとリューイが戻ってくるのを計算して決めた作戦決行日の早朝。


 夕べ、アベンヌから密かに受け取った制服を着用しているおかげで、エミリオとギルの二人は、難なく王宮へ侵入することができた。新しい制服を手に入れるくらい、アベンヌの立場なら訳が無いことだった。


 すました顔で、二人は王宮の石畳いしだたみ列柱廊れっちゅうろうを堂々と通っていた。


「それにしても、まさか家来にふんすることがあろうとは、夢にも思わなかったな。もしバレたら、俺たちは素手では応戦できないぞ。ここで死人がでたら厄介やっかいじゃないか。」

 ギルがぼやいた。


「しかし、ここへ来られるのが、もう私たちしかいないからね。」と、エミリオは苦笑した。


 しばらく歩いて行くうち、主宮殿の最上階へ向かう階段を上がり始めた二人の向かいから、威厳いげんたっぷりに大柄おおがらな男が下りてきた。二人は丁寧にお辞儀をして擦れ違おうとしたが、案の定、呼び止められてしまい、共に肩をすくう思いで、その男と対面することになった。


 男は怪訝けげんそうな顔をしている。

「お前たち・・・見たことがないな。新入りか。」


 とはいえ、あまたいる家来の顔などいちいち覚えていない。それでも、この二人の ―― 特に右にいる琥珀こはく色の髪と瑠璃るり色の瞳の ―― 青年の顔は嫌でも記憶に残るだろう。同性であっても。


「はい。先日こちらに配属されました。」

 ギルが答えた。


「そうか。で、どこへ行こうとしている。この上は、王族及び権力者のみの領域だ。新入りが気軽に出入りできるような部屋はないぞ。」


「ですが・・・王女様のお呼びがございましたので・・・殿下のお部屋へ。」


 男はしばらく黙って、二人の顔を不躾ぶしつけに眺めていた・・・が。


「・・・なるほど。それならまあいい。よし行っていいぞ。」と、うなずいた。


「失礼します。」


 逃げるように、二人はそそくさとその場から立ち去った。


 エミリオはそっと振り返った。声をかけてきた大柄な男は、もう階段を下りきって姿を消していた。


「どういう意味かな。」

「俺は分かるがな。」


 それから間もなくして、二人はまたも誰かに呼び止められた。しかし今度は、どういうわけか、そう歳も違わないように見える、いかにも下っそうな若者にだ。


「ああ君たち、悪いんだけど、これをオレフィン王子に届けてくれないか。新入りだろう?」


 やれやれと振り向いたギルに、その男は、いきなり手にしている何かを押し付けてきて言った。


 二人には、その男にそんなことを言われる覚えがないでもなかった。ここへ来るまでに、妙に注目を浴びた場所がニ、三あったからだ。その成り行きのままに、召使いたちと軽く会話をしたこともあった。


 そのことを思い出したギルは、気付いた時にはもう、その手渡された何かを受け取ってしまっていた。


「いや、ですが・・・。」


「僕は、ほかに急ぎの用事ができちゃってさ。じゃあ頼んだよ。」


 そうして、若者は馴れ馴れしく一方的に話し終えると、ギルが呼び止める間もなく行ってしまった。


 胸の前でその何かを抱えたまま、ギルはただ唖然あぜんと見送るほかなかった。


 仕方なく事態を受け入れたギルは、改めてその男から押し付けられたものに視線を落とす。


 白いブック型の小箱で、表面の四隅よすみと真ん中には金模様きんもよう。恐らく、ネックレス用のジュエリーケースだ。


「ったく、なんだ今の男は・・・。」


「届けてあげるかい。」


「・・・そうだな。」


 すぐに決断した二人は、途中、出会った召使いに、王子の部屋の正確な場所を教えてもらった。


 その口頭こうとうでの道案内に従って、二人は主宮殿の最上階にある角部屋の前に来た。ここがビザルワーレ王国の第一王子、オレフィン殿下の部屋らしい。そして、ここから同じような扉をいくつか通り過ぎた先には、レッドが偶然入ったアリエル王女の部屋がある。


「殿下、お届け物でございます。」

 とびら越しに、ギルが堂々と声をかけた。


「入れ。」

 若いが、いかにも王族らしい風格ある声が返ってきた。


「失礼します。」


 つかえる者として完璧な態度で二人が入室すると、アリエル王女と同じ髪の色をしたオレフィン王子が立っていた。どちらかというと少し鋭い顔つきの、ライカ王子とは対照的なハンサム顔の少年だという印象を受けた。アリエル王女も、りんとした顔立ちながら泣きボクロが愛らしい美女なので、なるほど姉弟だと分かる。カイルと同じ年頃だろうと思われるが、恐らく、実際の年より大人びて見える少年だろう。


 オレフィン王子の前にひざまずいて、ギルはうやうやしく小箱を差し出した。

「殿下、こちらにございます。」


 ギルがしたのと同時に、隣で同じように膝をついたエミリオ。この二人の方に、オレフィン王子は思わず先に目がいった。おかげで、とても重要な気になるその小箱の方は、半分無意識に受け取ってしまった。


「二人共、初めて見るな。」


「先日からお仕えさせていただいております。」

 ギルが答えた。


「そうか。で、お前たちは何か特別なことにでも選ばれたのか。」









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