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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第10章  恋敵誘拐事件 〈Ⅶ〉  
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交渉成立



「なぜ。」

 ギルが問う。


「お二人が監禁されている場所は、輸出用の植物を栽培さいばいしている庭園内にあるからです。庭園は色鮮いろあざやかな観賞用の花々で飾られていますが、その片隅かたすみに、暗い中で光を放つ珍しい植物を育てている洞窟どうくつがあります。そこに、お二人はいるのです。誘拐犯に変装しているのは、洞窟の中にいる見張りの者たちだけで、庭園で働くほかの者は普通に過ごしています。恐らく、夜の暗いうちに、お二人はそこまで目隠めかくしをされて連れられたのでしょう。その庭園のことも、ビアンカ王女は何度も見ていて知っています。ですから、皆さんがお二人を助け出して庭園に出たとき、ビアンカ王女は気付いてしまうのです。そうなれば王女たちは傷つき、国家間の関係は崩れ、国民の生活にも大きな悪影響が及ぶことでしょう。」


 話を聞いている者たちは眉をひそめ、エミリオやギルは難しい顔をして目を見合った。


「そこで、わたくしにも協力させていただきたいのです。」

 アリエル王女はひと息おいた。


 気をひかれて、彼らはより耳をかたむけた。どんな妙案が?


「わたくしに、庭園を通らずに、お二人を助け出す道案内をさせていただきたいのです。」と、アリエル王女。「恐らく、父上もその道を使うおつもりでしょう。わたくしが行けば庭園内を容易よういに通ることができ、洞窟までは難なくたどりつけます。ですからどうか・・・。」


 そこでエミリオが、「王女様、最初からその裏道を通って助け出すことは・・・。」と、落ち着いた声できいた。


 すると、アリエルは首を振った。


「できません。裏道には、念の為に侵入者を防ぐための罠がいくつかあり、その仕掛けは、中からしか止めることができないようになっています。」


 彼らはしばらく黙って、考えた。


「どうするんだ? 俺は構わないが・・・。」

 レッドが最初にその話に乗った。


「俺もいいぜ。」と、リューイもあっさりと応じた。


「私たちのこともう知られちゃってるわけだし、別にいいんじゃない? 道案内してもらった方が助かるかもよ。」


「そうだね。我々も、平和的に解決したいと思っていたのだから。」


 そして彼らは、こういう時には決まって意見をまとめてくれるギルに注目。


「よし。じゃあ、あくまで犯人は盗賊ってことで、俺たちもアリエル王女に協力する。それでいいんだな。」


 一同、そろってうなずいた。


 ここで話は済んだように思われたが、アリエルにはまだ言うことがあった。それでアリエルは、少しためらいがちにこう付け加える。

「わたくしもお仲間に入れていただけるのでしたら、もう一つお願いが・・・。」と。


「もう一つ?」

 レッドがきき返した。


「わたくしを、王宮から連れ出していただきたいのです。」


 つかの間、部屋に再び落ちた沈黙。


 そして・・・。


「俺たちはマズいだろ。もう顔を知られてる。」

 レッドが少しうろたえて言った。


「それって、俺もってことだよな。」と、リューイ。


「私なんてぜったい無理ね。」


 そうこばんだ者たちの視線が、あとの二人に注がれる。


 ギルとエミリオは、顔を見合わせた。


「私たちで・・・よければ。」


「確かに要領は分かるがな・・・だいたい。」


 二人共に気が進まないといったふうだったが、すぐに観念するしかなかった。


 そうして用事は済み、アリエル王女とその侍女は、彼らに軽く挨拶をして退出しようと背中を向ける。 


 ギルが気を利かせてドアを開けた。


 アリエルは、そのギルに笑顔を向けてすぐに出て行ったが、アベンヌの方はドアの横でふと立ち止まる。そして、先日とは違う愛想のいい顔で、振り返った。


「レッド、傷の具合はいかがかしら。」


「・・・誤解だからな。」


「はいはい。」


 この件に関する真相を、すでに王女から聞いていたアベンヌ。彼女はもうレッドのことを見直しており、さらにここへ来てみれば、露天風呂で出会った彼にしても、なるほど、その仲間の誰もに、悪人とは思えない人柄ひとがらがうかがわれた。たまたまひとり人相が悪かったのね・・・と、アベンヌは妙に納得していた。


 彼女たちがそうして去って行き、ギルがドアを閉めると、レッドとリューイは、見計みはからっていたように顔を合わせる。


「で、何の話だ。」

「お前こそ。」







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