交渉成立
「なぜ。」
ギルが問う。
「お二人が監禁されている場所は、輸出用の植物を栽培している庭園内にあるからです。庭園は色鮮やかな観賞用の花々で飾られていますが、その片隅に、暗い中で光を放つ珍しい植物を育てている洞窟があります。そこに、お二人はいるのです。誘拐犯に変装しているのは、洞窟の中にいる見張りの者たちだけで、庭園で働くほかの者は普通に過ごしています。恐らく、夜の暗いうちに、お二人はそこまで目隠しをされて連れられたのでしょう。その庭園のことも、ビアンカ王女は何度も見ていて知っています。ですから、皆さんがお二人を助け出して庭園に出たとき、ビアンカ王女は気付いてしまうのです。そうなれば王女たちは傷つき、国家間の関係は崩れ、国民の生活にも大きな悪影響が及ぶことでしょう。」
話を聞いている者たちは眉をひそめ、エミリオやギルは難しい顔をして目を見合った。
「そこで、わたくしにも協力させていただきたいのです。」
アリエル王女はひと息おいた。
気をひかれて、彼らはより耳を傾けた。どんな妙案が?
「わたくしに、庭園を通らずに、お二人を助け出す道案内をさせていただきたいのです。」と、アリエル王女。「恐らく、父上もその道を使うおつもりでしょう。わたくしが行けば庭園内を容易に通ることができ、洞窟までは難なくたどりつけます。ですからどうか・・・。」
そこでエミリオが、「王女様、最初からその裏道を通って助け出すことは・・・。」と、落ち着いた声できいた。
すると、アリエルは首を振った。
「できません。裏道には、念の為に侵入者を防ぐための罠がいくつかあり、その仕掛けは、中からしか止めることができないようになっています。」
彼らはしばらく黙って、考えた。
「どうするんだ? 俺は構わないが・・・。」
レッドが最初にその話に乗った。
「俺もいいぜ。」と、リューイもあっさりと応じた。
「私たちのこともう知られちゃってるわけだし、別にいいんじゃない? 道案内してもらった方が助かるかもよ。」
「そうだね。我々も、平和的に解決したいと思っていたのだから。」
そして彼らは、こういう時には決まって意見をまとめてくれるギルに注目。
「よし。じゃあ、あくまで犯人は盗賊ってことで、俺たちもアリエル王女に協力する。それでいいんだな。」
一同、そろって頷いた。
ここで話は済んだように思われたが、アリエルにはまだ言うことがあった。それでアリエルは、少しためらいがちにこう付け加える。
「わたくしもお仲間に入れていただけるのでしたら、もう一つお願いが・・・。」と。
「もう一つ?」
レッドがきき返した。
「わたくしを、王宮から連れ出していただきたいのです。」
束の間、部屋に再び落ちた沈黙。
そして・・・。
「俺たちはマズいだろ。もう顔を知られてる。」
レッドが少しうろたえて言った。
「それって、俺もってことだよな。」と、リューイ。
「私なんてぜったい無理ね。」
そう拒んだ者たちの視線が、あとの二人に注がれる。
ギルとエミリオは、顔を見合わせた。
「私たちで・・・よければ。」
「確かに要領は分かるがな・・・だいたい。」
二人共に気が進まないといったふうだったが、すぐに観念するしかなかった。
そうして用事は済み、アリエル王女とその侍女は、彼らに軽く挨拶をして退出しようと背中を向ける。
ギルが気を利かせてドアを開けた。
アリエルは、そのギルに笑顔を向けてすぐに出て行ったが、アベンヌの方はドアの横でふと立ち止まる。そして、先日とは違う愛想のいい顔で、振り返った。
「レッド、傷の具合はいかがかしら。」
「・・・誤解だからな。」
「はいはい。」
この件に関する真相を、すでに王女から聞いていたアベンヌ。彼女はもうレッドのことを見直しており、さらにここへ来てみれば、露天風呂で出会った彼にしても、なるほど、その仲間の誰もに、悪人とは思えない人柄がうかがわれた。たまたまひとり人相が悪かったのね・・・と、アベンヌは妙に納得していた。
彼女たちがそうして去って行き、ギルがドアを閉めると、レッドとリューイは、見計らっていたように顔を合わせる。
「で、何の話だ。」
「お前こそ。」




