表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第10章  恋敵誘拐事件 〈Ⅶ〉  
374/587

味方


 翌朝、アベンヌの計らいによって、アリエル王女は外出することができた。あらかじめ打ち合わせをし、それによって御者ぎょしゃに伝えた行き先は、宿泊施設が立ち並ぶ川沿いの道を通る。


 そして本来の目的地にさしかかった時、アベンヌが王女に目配めくばせをした。

《黄砂》と書かれた看板が軒先のきさきに掛かっている旅籠屋はたごやの前だ。


「止まりなさい。」


 王女のその声に応えて、御者はただちに馬車を停めた。


「いかがなされましたか、王女様。」 


「髪がゆるんでしまいました。整え直してちょうだい、アベンヌ。」


「かしこまりました。ですがアリエル様、申し訳ございません、手鏡てかがみを忘れてしまいました。そこの宿で、化粧台をお借りしてはいかがでしょうか。」


「そうですわね。では、お店の方に迷惑ですから、アベンヌ一人でよいわ。あなた達もここで待っていなさい。」 


 透かさず付いて行こうとする二人の護衛にもそう命じると、アリエルはアベンヌと共に馬車を降りた。


 アリエル王女が姿を現すと、たちまち宿のエントランスから音が消え、動きが止まった。チェックインの手続きをしている者、足元に荷物を置いて長椅子に座っている者、とにかく、そこにいる全員がただ目を大きくして、強烈に輝くオーラを放っている令嬢に注目している。


 そんな中、アベンヌはいかにも第一侍女らしい態度で、スマートに王女を受付カウンターへと誘導。そこで、不自然なほどへりくだった態度をとる宿の主人と話をした。レッドの特徴を伝え、彼らが宿泊しているという部屋を教えてもらったのだ。


 そうして、自ら案内を引き受けた宿の主人は、突然やってきた高貴なお客様を、お望みの一室へと連れて行った。


 一方、その一室では、レッドから話を聞いたほかの仲間も、半信半疑でアリエル王女が訪れて来るのを待っていた。


「それにしてもあなた、よくそうやすやすと教えてもらえたものね。リューイならともかく。」


「どういう意味だ。」


「分かってるくせに。でも、本当に信用しちゃって大丈夫なの? 私たちみんな、いきなり捕まったりしないでしょうね。」


「通報する気があるなら、俺はとっくに捕まってる。それどころか助けてもらったし、話ぐらい聞いてやっても・・・いいだろ?」

 レッドはそう言いながら、今度はエミリオやギルの顔をうかがう。


「俺は、本当にここへ来られるのかどうかの方が気になるが・・・。」

 ギルが言った。


 そこで不意にノックの音がしたかと思うと、続いてそのドア越しから聞こえてきたのは、やたらしっかりしていたあの侍女の声だ。


「レッド、このお部屋にいらっしゃいますの? アベンヌですわ。」


 室内にいる者たちは顔を見合わせる。


 レッドがドアを開けに行った。


 二人を中へ通したレッドは、「仲間たちだ。」と言って、まずはその全員を一度に紹介した。


 一人は遅れたが、ここビザルワーレ王国の王女を目の前にすると、初対面の者たちは極めて丁寧な深いお辞儀で迎えた。


 今、挨拶が合わなかったその一人を、アベンヌの目は瞬く間にとらえていた。その男リューイも、彼女と目が合うなりアッと声を上げている。


「まあ、あなたは・・・。」


「そっか・・・王女が来るってことは、そうなるのか。」


「なるほど、お仲間でしたのね。」


 アベンヌとリューイは、ほかの者には分からない言葉を交わした。


「アベンヌ、お知り合いなの?」


 という質問に、アベンヌは王女の耳元に手をかざして答える。

「アリエル様、青い瞳の子猫ですわ。」


「まあ・・・そうですの。」


 アリエルはズイッと身を乗り出して、リューイに近寄った。彼の目を真っ直ぐに見つめる。それは食い入るような厳しい眼差しだったが、リューイはドキドキしながら見つめ返した。


 王女は笑い声を漏らして、ほほ笑んだ。 

「本当に無邪気な瞳ですわね。安心しました。」


「ごめんなさいね、あなたがあんまり美青年だったので・・・あのあとつい。」


「参ったな・・・。」


 リューイが顔をらしたそこには、いぶかしげな面持ちのレッドが。


「なに赤くなってんだ。」


「アリエル様、時間がございませんわ。」


 アベンヌのその声によって、レッドは、何の話かとリューイに追求する間もなかった。


 うなずいたアリエルは、改めて彼らに向き直る。


「わたくしは、ここビザルワーレ王国の王女でアリエルと申します。皆さんもすでにお気付きの通り、ライカ王子とビアンカ王女は、父上が監禁しています。そして皆さんは、そのお二人を救い出そうとしている・・・ならば、そのことでぜひ聞いていただきたいことがございまして、こうして参りました。」


 アリエルの視線はここでレッドへ。


「彼が王宮に忍び込まれた時、わたくしは悟りました。彼は・・・いえ、あなた方はきっと、お二人を助け出すでしょうと。そうなれば、その時、ビアンカ王女は、父上の仕業しわざだということに、すぐに気付いてしまいます。」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ